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よみがえった勇者はGYU-DONを食べ続ける  作者: 稲荷竜
十四章 ピザと名付け師
62/68

62話

「こちらで、『名付け師』様が勇者様をお待ちでございます」



 待ち受けていた道案内妖精に導かれ、勇者は親睦会場から丘二つ超えた場所に来ていた。

 そこはうっそうと木々が生い茂り、まだ明るい時間だというのに、どこか薄暗い。


 そんな森の中に、狭くはあるが、樹の根などの起伏のない、平坦な場所が存在した。

 人が三人も入ればいっぱいになってしまうようなその場所に、黒いローブ姿の名付け師が、勇者に背を向けしゃがみこんでいる。



「わたくしは、これで。役目を終えましたゆえ」



 道案内妖精は、四枚羽根から甘い鱗粉をまき散らし、飛び去っていった。

 勇者はその小さな姿をしばし見送り、それから再び、視線を正面に戻す。


 いつの間にか。

 音もなく、動いた気配さえなく、名付け師は勇者の方を向き、立ち上がっていた。



「よお、勇者。オレが『名付け師』ってもんだが――なんか悪いな、親睦会の最中、呼び出しちまって」



 若い男の声。

 顔は深くかぶられたフードによって、隠されている。


 角の生えた異形のドクロがあしらわれた杖。

 体つきは勇者とそう違いないように見えるものの、相手は魔族。ローブの下にはどのような姿があるかわからない。


 ――だけれど。

 勇者は、彼の姿や顔立ちが、わかるような気がした。

 わかるような気はしたのだが、それよりも、



「ピザ、うまかったぞ」

「……はあ?」

「親睦会で出た料理だ。うまかった。お前も食えばいいのに」

「……やれやれ、まいったねこりゃ。そりゃあ、オレだってうまいもんは食いたいよ。あんたと現魔王の持ってきたGYU-DONとかも、なかなかどうして、かなりの誘惑だったね。まったく我慢は体に毒って言うが、ありゃ間違いだ。どっちかっていうと心に毒だ」

「……GYU-DONも食わなかったのか?」

「ちょいと事情と準備があってな。メシは抜いてた。先日その『準備』がようやく完了したんで、まあ、親睦会開催となったってわけだな」



 名付け師は肩をすくめた。

 その口ぶり。

 その所作。

 その声。

 勇者の予感は、確信に変わる。



「名付け師、俺はお前を知っている」

「……へえ」

「お前、魔王だろ」



 沈黙。

 鳥の声と、遠くから、親睦会の様子が風に乗って耳にとどく。


 まったくの無音でないからこそ、重苦しい静寂はしばし続き――

 その果てに、名付け師はフードをとった。

 現れたのは、黒髪に、白い肌、それに赤い瞳の――男。



「この通り、オレはたしかに魔王――先代魔王だ。よくわかったな」

「俺が殺した魔王はなんか違った。偉い人に報告しようと思ってた。でも、その前に俺が殺されたから、報告できなかったんだ」

「……影武者は完璧だったと思うがな。……悲しいねえ。まあでも、お前以外は騙せたみたいで安心だよ。これであいつも浮かばれる」

「……魔王の運命は、『勇者に殺されること』じゃなかったのか? お前は、運命に勝ったのか?」

「お、娘から聞いたか?」



 先代魔王は、楽しげに赤い瞳を細める。

 そして、ニヤリと笑い――



「実はその『運命』は、嘘だ。オレが娘についた、嘘だ」

「……」

「魔王の運命は――『魔族の支配者』であり、『神の地上への影響を弱める者』であり、そして――」

「……」

「――『次なる世代のために命を捧げる者』だ」

「…………難しい。つまりなんだ?」



 勇者は首をかしげる。

 先代魔王は押し殺したように笑い――



「つまりだな、オレが死ぬのはこれからだ」

「……」

「これから、娘に名と力を授けて――その儀式に命を賭して、オレは死ぬんだよ。『名付け師』ってのは、そういう役割の、現役を引退した魔王のことなのさ」



 先代魔王は笑った。

 心から愉快そうに――笑った。

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