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よみがえった勇者はGYU-DONを食べ続ける  作者: 稲荷竜
十三章 コロッケと人類の危機
55/68

55話

 その後、住人みんなを『じゃがいも』から『芽』をとる作業が待ち受けていた。

 とらないと増えるのだから、仕方ない。


 なのでテーブルに大量のじゃがいもをゴロゴロ並べ、手頃な刃物でみんなして黙々と『芽』をくりぬいていく。


 じゃがいもの『芽』は、デコボコした表面に見えるくぼみのようなところにある。

 今は増殖を止める目的で芽を抜いているが、強い毒性があるから、食べる時はだいたいくりぬくのだと魔王は言っていた。

 その魔王は住人みんなから刃物の使用を止められてしまったので(非常に不器用らしい)、芽をくりぬいたじゃがいもを回収する係となっていた。


 単純作業だけに、各人でペースに個性が出ている――と、甘いものの人は思う。

 こういうことがむやみに得意なのは勇者である。

 彼の目の前には回収が追いつかぬほどの速度で、次々と芽を抜いたじゃがいもが積み上げられていっている。


 他の魔族の子たちもそれぞれ、テーブル席でやっていたり、歩きながらやっていたり、床に座りこんでやっていたりしていた。

 と、甘いものの人は、台所に女神の姿がないことに気付く。



「兄さん、女神さんはどこへ?」



 勇者にたずねる。

 じゃがいも満載のテーブルを挟んで正面に座る勇者は、作業の手を一切止めずに答える。



「パンを取りに行くって言ってたぞ」

「パンを?」

「そうだ。GYU-DONをとどけたらパンをもらったんだ。保管庫にけっこうある」



 どこかと物々交換をしている、ということはわかった。

 物々交換先について、そもそも隠れ潜んでいるこの家の住民がどこと物々交換をしているのか、その相手は本当に安全なのか――

 説明がほしい気もしたが、勇者は『伝える必要がない』と思った情報を容赦なく省く癖があるので、甘いものの人は勇者の判断を尊重する。

 そのうえで、答えてくれそうな質問をすることにした。



「パンはなにに使うのかしら? これから『カレー』を食べるのよね? そのあとでじゃがいもとパンを合わせて食べるの? さすがにちょっと、お腹にもたれそうな気がするのだけれど」

「俺は大丈夫だ。食事のあとにおやつとして、いける」

「兄さんの胃袋事情は特殊だから……」

「魔王も大丈夫だ」

「あの子もよく食べるのは、なんとなくわかるから……」

「牧場長もマンドラゴラ屋も、漁師も影武者もコカトリス飼育員も大丈夫だ。剣の精はたぶん食べない。道案内妖精はどこにいるのかわからないからきっと食べない」

「……」



 どうやら、『カレーのあとにおやつとしてふかしたじゃがいもとパンを食べる』という線が濃厚であった。

 この家の胃袋たちはどういう許容量をしているのだろう。


 甘いものの人は『カレー』の正体をぼんやりとしか知らないが、勇者が『食事』と定義するのだから、それなりにガッツリしたものではあるのだろう。

 そんなののあとにパンと、じゃがいも……『おやつにも食事にもなる』と魔王が言っていた代物を食べる暴挙を、この家の住人はともかく、女神が許容するとは思えないのだけれど……


 悩んでいると――

 この家に何者かが入って来たことを知らせる、例の音が鳴り響いた。

 たしか『保管庫』は家の外にある納屋のようなものだったはずなので、きっと女神がパンをとって戻って来たのだろう。


 案の定、台所に女神が入って来た。

 彼女は腕にさげたバスケットに、何本かの棒状のパンを入れていた。



「……改めて見ると、すごい光景ですね」



 そのへんいっぱいにじゃがいもがゴロゴロしている台所を見て、女神は感想を漏らす。

 ちなみに現在の王都はこんな光景が街中どこでも見られる。


 甘いものの人は『そういえばすごい光景だった』と慣れの怖ろしさを感じつつ――

 台所入り口で固まる女神に問いかける。



「女神さん、そのパンはまさか、夕食のあとに食べるの?」

「えっ? ああ、まさか、そんな。これはパン粉にしようかなって」

「そうなの。……よかった。この家だと主食のあとに主食が出るのかと……」

「主食というか……予定外の材料が手に入ったので、普通にカレーはやめて、おかずを作ろうかと……まあ、カレーを食べたければそちらでもいいですし、これから作る料理はカレーのトッピングに出す場合もある……あるかなあ……?」



 女神の言葉はどこか歯切れが悪い。

 おそらく、新しい概念を――甘いものの人らが知らないメニューを描いていて、それをどう説明したものか悩みながらしゃべっているのだろう。



「またなにか、異世界の料理をするのね?」

「ええ。そうなんですよ。じゃがいもをただふかしてお出しするのは、まあ、それもいいんですが……せっかくなので一品こしらえようかと思いましてね。……作るのは私ではないんですが」



 女神は料理一切を苦手としているのだった。

 それもネタになるような苦手さではなく、しごくまっとうに、普通に苦手としている。



「ちなみにどんな料理なの?」

「あ、はい。揚げ物でして。つぶして、混ぜて、揚げて――」



 女神は自信なさげに言う。

 その料理の名は――



「――『コロッケ』を、作りましょう」

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