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よみがえった勇者はGYU-DONを食べ続ける  作者: 稲荷竜
十一章 フライドチキンとリビングメイルさん
42/68

42話

「俺が貼ったんだぞ」



 朝食。

 いつものようにGYU-DONを振る舞いつつ聞けば、あっけなく犯人が自供した。


 勇者である。

 ここは彼の家だ。だから、彼が彼の意思で客を招くなら、それはまったく問題ない。


 でも――

 女神は、コンロそばに立ってたずねる。



「いつの間に貼り紙なんてされたんですか?」

「……いつだったかなあ……」

「ええええ……」

「思い出した。影武者が来る前には貼ってたぞ」

「そんなに前から……まったく気付きませんでした」

「女神はあんまり外出ないからな。家の敷地の前にあるでっかい樹に貼ってある。たしかマンドラゴラ屋に言われたからだったかな」



 勇者はチラリと右側を見た。

 勇者の隣――は滅多に座らないが女神の席なので、そのさらに隣の席。

 そこには、マンドラゴラ屋がいる。


 白い髪に、褐色の肌の少女だ。

 見た目は幼いが、胸だけは大きい。

 土に埋まる習慣があるという以外はだいたい人間みたいなその少女は、GYU-DONをゆったりとした動作で、しかし一口一口は結構大きく食べていた。


 彼女は勇者の呼びかけに気付くと、食べる手を止める。

 そして、声の方を見て――



「なに?」

「たしかお前んとこで畑たがやしに行った帰りに、貼り紙貼った気がする。そうだ、俺には魔族の文字がよくわからないから、お前に書いてもらったんだ」

「そうね。ほら、アタシとミノ屋がサインしたじゃない。貼り紙だけだと警戒させるからって……でも、今まで『貼り紙を見てきました』って魔族がいなかったから、すっかり忘れてたわ」



 マンドラゴラ屋が言う。

 ガタン! と魔王の娘が立ち上がった。



「その貼り紙、わたし、知らないよ!? サインするなら、わたしもじゃないの!?」

「……そういえばそうね……ああ、魔王さまは、なんか忙しそうだったから遠慮したような記憶があるわ」

「わたし、ヒマしてるよ!」

「そうなの? でも……ああ、そうそう、サイン書いてもらおうって部屋に行ったら、なんか虚空に向かって『よく来たな勇者よ!』とか言ってたから、お邪魔かなって……」

「イメージトレーニング中だったのかあ……じゃあ忙しくてサインしてるヒマなかったかも」



 魔王の娘は着席した。

 イメージトレーニング――『ごっこ遊び』にしか聞こえないが、魔王の娘にとっては大事な時間なのだろう。きっと、おそらく。



「じゃあ、あとでもっかい貼り紙貼りに行こう! その時はわたしもサインするから!」

「仰せのままに」



 マンドラゴラ屋が笑う。

 魔王の娘は満足げに口の端をニンマリさせた。


 会話が一度途切れたタイミングを見計らい――

 女神は、口を開く。



「それでみなさん、お食事中申し訳ないのですが、本日は新たな住人が増えましたのでご紹介を……」



 女神はすぐ隣にいる物体を見た。

 リビングメイルさんである――魔王の娘の口ぶりだと、魔族ではかなりの有名人のようだが、そのわりにみんなの反応は薄い。


 実はそこまで有名じゃないんじゃないか――女神はそう思いかけていた。

 しかし――


 ガタン!

 ガタンドタンバタン!

 女神がちらりとリビングメイルさんに視線を向けた瞬間――


「リビングメイルさんだすか!?」「リビングメイルさんじゃない!?」「リビングメイルさん!?」「リビングメイル様!?」「コケッコケッ!?」

 魔族総立ちである。


 どうやら本当に有名人(?)だったらしい。

 しかしそれにしては、みんなの反応が薄かったようにも思えるのだが……



「リビングメイルさんは基本、存在感がないんだ! そういう運命の持ち主だから!」



 魔王の娘によると、そういうことらしい――

 これだけの体積をほこるピカピカの青い鎧が、紹介するまでまったく気付かれなかったあたり、『存在感がない』というのが比喩とかではなく、もはや異能の領域なのはなんとなく察せられた。


 女神は、はからずも『運命に打ち克つ』ことの大変さの一端を垣間見た気分だ。

 これだけ存在感のない存在が、魔族中で有名にまでなるのは、いかほどの苦労があったのか想像もつかない。


 リビングメイルさんは呼び声に答えるようにポーズを決めた。

 人差し指を立てて、上空を指さすような格好だ。


 その瞬間、魔族たちがワッと湧いて、食事中だというのに席を立ち、リビングメイルさんにたかっていく。

 リビングメイルさんは慣れているらしく、一人一人頭を撫でていた。



「本当に有名だったんですね……」



 女神は思わずつぶやく。

 その声には、勇者が応じた。



「なんかすごいな」

「……ええ、本当に。なんでも魔族の有名人らしいですよ」

「そうなのか。生き残っててよかった。見ろ、みんな嬉しそうだぞ」

「……そうですね」

「よし、じゃあ歓迎会だな」



 勇者が言う。

 女神は思わず笑った――なんというか、発想が魔王の娘と同じなのだ。


 勇者が首をかしげる。

 そして、言う。



「どうした?」

「いえ……あの、実はですね、魔王の娘さんからも、パーティーをしようという話をされていまして」

「そうか。いいと思うぞ。なにを食べるんだ?」

「ええ。今朝はフライドチキンが増えましたので、それを出しましょう」

「そうか。楽しみだな」



 勇者が嬉しそうに言う。

 かくして、歓迎パーティーが行われることとなった――リビングメイルさんだけではなく、今まで来たみんなへの。

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