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よみがえった勇者はGYU-DONを食べ続ける  作者: 稲荷竜
十一章 フライドチキンとリビングメイルさん
41/68

41話

 その朝、フライドチキンの出現におどろく女神のもとへ出現した来訪者――

 それは――



「……鎧?」



 そうとしか表現できない、ずんぐりむっくりした、背の低いなにかだった。

 そいつは炊事場のドアを開けて姿を現すと、無言でぺこりとおじぎをする。



「……はあ、どうも」



 女神もつられておじぎをした。

 全体的に青みがかった色合いの、ずんぐりむっくりした鎧は、太く短い手足をゆったりと動かす。

 どうやらなにかを伝えたいようだ――

 しかし。



「……すみません、なにをおっしゃっているのか、わからないのですが……」



 鎧は、潰れたような平べったい頭部を掻く仕草をした。

 見た目に反して、なかなかコミカルな動きをする鎧だ。


 女神は炊事場に突如出現した鎧を見た。

 かなり、大きい――ずんぐりむっくりしているせいか、サイズ感がうまくつかめないのだが、目の前に立たれると女神の身長より高く、横幅は女神の三倍以上はあった。

 さりげなく炊事場の入口が大きくなっているのを視界の端におさめつつ、女神は問う。



「あなたひょっとして魔族ですか?」



 鎧は腕を突き出し、ぶっとい親指を立てた。

 正解なのだろう、きっと。



「そうですか、では――」



 言葉が通じるかもしれないので魔族を呼んできますね――

 女神がそう言おうと思ったタイミングで、きちんと閉められていた炊事場のドアがガチャリと開いた。


 女神が鎧の横から顔を出し、ドアの方向を見れば――

 現れた人物は、魔王の娘だった。



「めがみー……なんかわたしの部屋で『コケッコケッ』って音がして怖いんだけど……」



 そんなうったえをしながら、目をこすりつつ入って来た彼女は――

 ピタリ、と足を止める。


 それはそうだろう――なにせ、起きて炊事場に入ったら、見慣れない金属製の青い巨大ななにかが存在しているのだ。

 戸惑いもするだろうし、おどろきもするだろうし、怖がりだって、するだろう。


 なにせ魔王の娘は心身ともに『脆弱』に手足を生やしたような子なのだ――

 女神は慌てて、言う。



「ま、魔王の娘さん、この方はその、そんなに危険そうじゃないですよ……? だから怖がらないで――」

「ひょっとしてお前、『リビングメイルさん』か!?」



 女神の心配とは裏腹に、魔王の娘は表情を輝かせる。

 どうやら知り合い――いや、知り合いというか、魔王の娘が一方的に鎧を知っている、という感じに見えるが……


 リビングメイルさんは魔王の娘の方向を振り返る。

 と、いきなりダンスを始めた。


 腕を振ったり、足を振ったり、あの図体で軽やかに飛び跳ねたり――

 一分ぐらいだったが、激しい動作だった――最終的には、頭を床につけて回転までしてみせたのだ。


 リビングメイルさんは逆立ちのような体勢のまま、ピタッと止まっている。

 魔王の娘は――拍手をした。



「さすがリビングメイルさんのダンスはいつ見てもキレがあるな!」



 審査員みたいなコメントだった。

 女神は状況についていけない――なので、魔王の娘にたずねた。



「魔王の娘さん、その……この方はいったいどなたなのですか?」

「女神、リビングメイルさんを知らないの!?」

「有名なんですか?」

「すっごい有名だよ! リビングメイルさんは魔族の英雄なんだ!」



 英雄。

 つまるところ、人対魔族の戦争で活躍したということだろうか?


 たしかに、分厚く大きな金属製の体は強そうだ。

 前線に出ればさぞかし活躍できそうな気がする。



「……リビングメイルさんは、勇者様と戦ったこともあったりするのでしょうか?」

「はあ!? ないない! リビングメイルさんは戦わないよ!」

「ええ……? これだけ強そうなのに……?」

「戦争なんていうどうでもいいものじゃなくって――」



 どうでもいい。

 はっきり言った――まあ、魔族の敵は『運命』らしいので、人類との戦争は比較的どうでもいいのかもしれない。


 魔族は運命と戦っている。

 それぞれが、それぞれの役割や使命を持ち、それに殺されないよう、戦い続けている。

 ならば、魔族における英雄とは――



「リビングメイルさんは運命に打ち克った魔族なの!」

「運命に打ち克った?」

「そう! リビングメイルさんは『魔王城を守る』『持ち場で一生を終える』『人知れず倒される』っていう運命を背負った魔族だったんだ! にもかかわらず、ダンスで魔族中の人気を集めたすごい人なんだぞ!」

「…………ええと」

「魔王城は守らないし、持ち場を離れまくって、そこかしこで踊り狂ったんだよ!」

「それダメじゃないですか!?」

「でも普通、魔族って運命に従う強制力みたいなのがあって、魔族で運命と違うことやろうとすると、運が途端に悪くなったりするんだ。でも、リビングメイルさんはそういうのに勝ったから英雄なの!」

「はあ……」

「だって一言で言うと『目立たない』っていう運命の持ち主なのに、魔族中が知ってるんだぞ!? すごくない!?」



 たしかにすごい気はする。

 まあ、『運命に打ち克つ』云々は、女神にはよくわからない価値観だが――一つの種族中に知られるような存在になるというのは、たしかにすごいことだ。



「わあ、でもリビングメイルさんが来るなんて思ってなかったなあ……リビングメイルさんも人間から逃げてここまで来たのか?」

「……」



 リビングメイルさんはムーンウォークした。

 魔王の娘はうなずく。



「なるほどなあ、そんなことがあったのかあ……」



 魔王の娘はうんうんと何度も感慨深そうにうなずく。

 女神はおどろいた。



「今ので伝わったんですか!?」

「リビングメイルさんはこのダンスの表現力で魔族中をとりこにしたんだぞ!」

「……はあ、な、なるほど……?」

「じゃあ、今日はパーティだな!」

「……すいません、話の流れがよくわからないのですが……」

「リビングメイルさんがここに来るまでの苦労話、聞いてなかったのか!?」

「聞いてなかったというか、音声化されていなかったように思うのですが……」

「そうなのかー……魔族にしかわからないセンスなのかなあ……うん、でも、とにかくリビングメイルさんはがんばったんだ! だから労おう! なんていうか、王として有名人にはいい顔しないといけないし!」

「……相手に応じて対応を変えるのはどうかと……まあ、しかし、前の歓迎会から数えてもそこそこ人が増えましたし、新たに増えた方々の歓迎パーティーはすべきかもしれませんね」



 勇者にならうわけではないが――

 たしかに、お好み焼きパーティーの光景を思い出すに、子供たちが喜ぶような催しは定期的に開催すべきだろうと女神は思った。


 と、そういえば――

 女神は首をかしげる。



「あの、リビングメイルさんはなぜこの家に? 魔王の娘さんや影武者さんのように、食べ物のにおいに釣られてフラフラ来たという感じでもありませんし……」

「家の外に『魔族の避難所です』っていう貼り紙したからじゃないか?」

「いつの間に!?」

「あれ? 女神じゃないのか? わたしでもないぞ? コカトリス飼育員とかもアレ見て来たとか言ってたような……うーん、でも、いいじゃん! 貼り紙あったら便利だよ! リビングメイルさんもそれで来たみたいだし!」

「……」



 まあ、いいことだけれど……

 あとで犯人捜しはやっておかねばなるまい――貼り紙だけならいいが、案内板とか出てたら困るのだ。たとえば人族に見つかった時など。



「じゃあ、今日はパーティーしよう!」



 ともかくそういうことになりそうだ。

 フライドチキンも湧いたし、ちょうどいいかもしれないと女神は思った。

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