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プロローグ
彼の周りだけ、淡い光が満ちているように見えた。
細い雨の降る児童公園。花を落とした藤棚の下に座りこんで、彼は汚れた茶トラの仔猫を撫でていた。
藤の葉から滑る雫が、静かに彼の頬や肩を濡らしていく。ガラス玉みたいに淡い光を弾いて、金色の髪を滑る雨粒。優しく仔猫を撫でる、うっすらと血管の浮いた手を、キレイだと思った。
肌の色が透けるほど濡れた制服は、私と同じ高校のもの。
共通点なんてそれだけなのに、話したこともない男の子に傘を差しかけてしまったのは、どうしてなのか、今でもわからない。
少しだけ驚いた様子で振り向いた彼は、私の赤茶の髪に目を止めて、
「こいつと同じ」
そう言って、ほんの少しだけ笑った。
頬を伝う雨が涙に見えた。
透明なそのひとしずくを見つめながら私は、いつか、こんな風に笑った人のことを思い出していた。