表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Tiny Little Soldiers ~香山センセイの二足のわらじ~  作者: ちひろ
第二話 卒業生を送る会編(2月~3月)
9/51

「はーい、ありがとうございましたー。野球部主将の近衛くんに大きな拍手を!」

「あざーっす!!」

うん、やっぱり「未成年の主張」は大盛り上がり。司会・進行は、生徒会長の優。ここは外せない。タイムキーパーと、「主張」する人の送り出しはわたし。名前を書いた紙をめくる役もやりたかったんだけど、無理そうだったので書道部の部長にやってもらってる。

「えっと、近衛くんが終わって、今やってるのが1-Bの丸山さん。次は…あれ? いない、どこ?」

「菊池、落ち着け。次は休憩だろ」

「あ、そっか。ありがとうございます」

飯野先生にわたしのサポートをしてもらってる。助かった、ひとりじゃもっとテンパってるよ。本当は黒岩くんがわたしの補佐だったんだけど、「裏・未成年の主張」のため、今は生徒会室に籠ってる。休憩に入ったら様子を見に行こう。

「それでは、『未成年の主張』前半戦で叫んでくれた皆さん、ありがとうーー! ではまた30分後に!! ……ふう、半分終わったねー」

「お疲れ。やっぱさすがだわ、優。盛り上がるね」

屋上の「主張」ステージから引っ込んだ優に水を手渡した。この寒いのにカーディガンを脱いでいる。

「で、『裏』はどんな感じ?」

「さっきちょうど黒岩くんから連絡が入ったよ。今ひとり希望者がいるってさ」

「よし! 生徒会室行こう!」

優はさっきまでオーバーアクションで進行してたのに、電光石火で階段を降りていった。

「彬! 『裏』の希望者は!?」

「優先輩、ドア壊れるし。今タカさんに行ってもらってるとこ」

「そっか、タイミングいいね」

「でも美紗先輩、ずいぶん遠回りな呼び出しにしましたね」

そう、遠回りで慎重な呼び出しにしたのがミソ。「裏・未成年の主張」の希望者は、自分自身の名前・クラスなどの情報と、「主張」をしたい相手の情報、「主張」の内容、呼び出したい場所や時間を書いて「裏」用のアドレスにメールする。顔が広い黒岩くんはすべてのクラス・部活に知り合いがいるので、その相手が今どこにいるか、情報網を駆使して特定させる。そこから先は早瀬くんの出番。黒岩くんから一切の情報をもらって、相手を呼び出しに足を運ぶ。

「早瀬くん、どこに向かってるの? 様子だけ見たいな」

「3-Cの教室ッス。その相手は休憩中みたい」

「行ってみよう! サンキュ、彬!」

「いいなー、オレも行きたいよー」

黒岩くんにはかわいそうだけど、情報を整理する人はウロウロしちゃいけないんだ。これは香山先生の「T.L.S.」の受け売り。

3-C、3-C…、あ、早瀬くん、いた! 優はそのまま早瀬くんに声をかけそうだったけど、ここで邪魔が入ったら慎重に呼び出ししてる意味がない。

「こんにちは」

早瀬くんは丁寧に挨拶して3-Cに入った。爽やかで嫌味がない早瀬くんでないと、突然誰かを呼び出すのは波風が立つ。優は「未成年の主張」の進行を抜けることはできないし、生徒会長だから相手を警戒させる。黒岩くんは軽すぎるし、わたしは堅すぎる。相手に不審に思われないよう、穏便に、人目につかないように呼び出したい。早瀬くんと3年生の先輩が出てきた。呼び出しうまくいったみたい。早瀬くんは廊下の隅にいるわたしたちに気づいて、小さくガッツポーズをした。

「優、もうすぐ休憩終わる。屋上行こう」

「そうだね、早瀬グッジョブ! こっちも超盛り上げて、『裏』もひっそりやれるよう頑張ろ!」

表で裏で、学校のみんなの想いがたくさんあふれているのを、屋上へ駆け上がりながら、ひしひしと感じていた。



「未成年の主張」最後は、前の生徒会長。わたしたちへの期待や、先生たちへの感謝の言葉を、ありったけの想いを込めて「主張」してくれた。

「皆さん、ありがとうございました! オレはこの学校が大好きです! 卒業式の答辞で言うつもりだったこと全部言っちゃいました。ヤバいッス!」

観客から精一杯の拍手と歓声、そして笑い声。優の目が潤んでいる。涙を一切隠さず、優は進行を続けた。

「前会長の藤井先輩、ありがとうございました! そして『未成年の主張』をしてくださったすべての方にもう一度……」

「ちょっと待ったーーー!!」

わたしの横をすり抜けて、男女ふたりの生徒がステージに上がってきた。小さな優は転びそうになるのをどうにかこらえた。屋上はヒヤヒヤする。男子の方が大声で「主張」し始めた。

「皆さん、今この『未成年の主張』の裏でも『主張』をしてるのをご存知ですか?」

観客はザワザワしだした。チラシも配ったし、たいていの生徒は知ってるはずだ。わたしたちが秘密裏に進めていたから、どこで誰が「主張」していたかは表に出てはいないんだけど。

「全校生徒の前で『主張』する勇気がない人、つまり10分前のオレみたいなヘタレのために、生徒会が『裏・未成年の主張』も企画してくれてたんです!」

そう、それで今日は本当にいっぱいいっぱいだった。黒岩くんからの情報だと、「裏」は最終的に10人以上になったらしい。男子生徒は、さらに「主張」を続ける。

「オレは、今度卒業するんだけど、後輩に好きな子がいて、でもなかなか言えなくて、さっき『裏』のやつで呼び出してもらって告白しました! そしてたった今、生まれて初めて彼女ができましたーーー!!」

割れんばかりの大歓声。一緒に上がってきた女子はその後輩ってことね。「もういいから」と降りたがってる。前会長は「持ってかれた」と言いたそうな複雑な笑顔で拍手している。優は感動のあまり号泣していて立つのがやっと。

「今のが、『裏』の最後の人」

早瀬くん、黒岩くん。「裏」も一段落ついたのね。

「ふたりともありがとね、ずっと『裏』で動いてくれて」

「おう。っつーかダメだな、高嶋。オレ行ってくるよ」

早瀬くんはヒラリとステージに上がり、嗚咽交じりの優を支えて一緒に最後の司会を務めた。拍手はいつまでも鳴りやまなかった。



送る会直後の定例会議。話題は自然と表裏の「未成年の主張」のことになる。わたしと優、早瀬くんと黒岩くん、それぞれお互いの成果をよく知らないのだ。

「フラれちゃった子もいたんだってね」

「全員が全員うまくはいかないッスよ」

まぁ、それは仕方ないか。

「すみません、お話いいですか?」

生徒会室のドアを開けて、ひとりの女子生徒が入ってきた。

「どうぞ、座って座って」

「はい、ありがとうございます。あの、あたし、1-Eの三浦っていいます」

「あー、もしかして『裏』にメールくれた?」

黒岩くんが身を乗り出す。三浦さんは恥ずかしそうにうつむいた。

「そっか、いたな、そう言えば」

早瀬くんは「主張」希望者の顔を見てるので、覚えがあるようだ。

「卒業する先輩に告白したくて、でも呼び出すのも恥ずかしくて、その、友だちに呼び出してもらうのすら恥ずかしかったんです」

かわいいなぁ。みんな温かい目で三浦さんを見つめている。

「それで、『裏』のやつならって。生徒会の皆さんだったら、恥ずかしくないし」

「へー、そう思ってくれる人もいたんだ」

「はい。友だちはいつも会うし、フラれたら格好悪いから。生徒会の皆さんはいつも会うわけじゃないので、思い切って言えたって感じで」

それも、実はわたしの思惑に入ってた。あまり快くはないけど、生徒会ってちょっと遠い存在なイメージがある。それを逆手にとって、話しにくいことを引き出せないかと思ってた。

「屋上の『未成年の主張』見てて勇気が湧いたんです。あたしは『裏』でしか言えなかったけど、でもおかげで告白できて、うまくいきました。ひとことお礼が言いたかったんです。ありがとうございました」

三浦さんはペコリとお辞儀して生徒会室をあとにした。

「……んふふ」

「気持ち悪ぃよ、高嶋」

「だってねぇ、うれしいじゃん。ねぇ、美紗」

うれしい? そんな一言じゃ表せないよ。

「んふふ、ふふふ…」

「美紗先輩、大丈夫?」

ふたりでニヤニヤが止まらない。

「女子は分かんねぇな、ホント」

「先帰ろう、タカさん」

「だな」

「えー、待ってよ」

カバンをひっつかんで、優と一緒に早瀬くんたちを追いかけた。まだニヤける。昇降口までたくさんの先生、生徒とすれ違った。香山先生もいた。

「おー、お疲れ。送る会うまくいったな」

「はい、おかげさまで」

「うちらはこんなもんじゃないですよ!」

「アハハ、優、おっきく出たね! 先生、さようなら!」

春はすぐそこ。どこまででも走れる。香山先生は手を振って応えてくれた。

喜びじっくりかみしめたい。ねぇ、聞いて。今度、聞いてね、先生。

この④で第二話は終わりです。お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ