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Tiny Little Soldiers ~香山センセイの二足のわらじ~  作者: ちひろ
第九話 冬コミ編(12月)
41/51

帰路の記憶はあまりない。

年末はレインボーブリッジの遊歩道は開いてなくて、なぜか涙が出そうなくらい笑った。

雲がますます重く垂れこめて、お台場の砲台跡を不安げに歩いていたら、静かに雪が降ってきた。

並んで歩いて、腕や手が触れそうになって、チラリと見上げたら先生もわたしを優しい目で見ていた。

もうダメ、と思ったとたんに、先生は学校のことを話しだした。「受験に向けて不安なことはないか?」。そんなことを出し抜けに聞いてきた。

先生がわたしを夢から覚まそうとしているのが分かった。東京湾に落ちていく雪をゆりかもめの車窓から眺めて、この雪のようにわたしの気持ちも積もらず解けていくような気がした。



「…ほら、菊池、俺もう次で降りるよ」

ゆりかもめで新橋に着いて、有楽町まで歩いて、直通で帰れる地下鉄に座って乗れた。そうしたら、わたしは眠ってしまったのだ。せっかく香山先生と並んで座れたのに、もったいないことをした。

「...あ、先生、わたし寝ちゃってた? ごめんなさい」

「構わないよ。疲れてるんじゃないか? センターに向けて根詰めすぎるなよ。身体を壊したら元も子もない」

相変わらず優しい目でわたしを見てくれているけど、聞こえてくる言葉はもう「担任」のそれだ。地元に近づくにつれて、じわじわと現実を感じる。

「じゃあ、また新学期にな。風邪ひくなよ」

先生が先に降りる。ずっと持ってくれてたカバンをわたしの膝の上にポンと乗せた。

「あの、今日はありがとうございました。楽しかったです!」

「こちらこそ」

電車が駅に着いた。先生はもう一度小声で「じゃあな」と言って降りた。ホームを見やると先生の後ろ姿が小さくなっていく。完全に見えなくなる直前に、先生は少し振り向いて軽く手をあげて笑ってくれた。

わたしが先生を見送っていることを勘づいていたんだ。やっぱりわたしの気持ち気づかれてる。まあ、分かるよね。あんまり隠してないもん。

でも先生は何を考えながら振り返ったんだろう。「俺のこと見てるかもな」と思いながら振り返る。その心の奥底には何が?

顔が熱い。胸がギューってなる。



家に帰り、夏以来久しぶりに帰省していたお兄ちゃんも含めて、家族みんなでそばを食べた。お母さんと悠太の手打ちだ。お父さんたちは紅白を見てたけど、わたしは「勉強するから」と部屋へ引き上げる。

今日買った2冊を本棚にしまおうとして、「T.S.L.」の第14巻を少し読むことにした。青年部隊に配属されるのに伴い、小さい頃からずっと一緒にいたヒナとヤスヒコが離ればなれになるかもしれないという内容だった。


====================

 部隊再編は避けて通ることのできない通過点で、14歳になると同時に訪れると誰もが分かっていた。身体的・頭脳的成長に個人差が現れてくる時期だ。本人の努力や的確な指導があっても越えられない壁がどうしてもある。しかし同時に、特定の分野で能力を発揮する者を特別に教育し始めるのもこの年齢からだ。

 とはいえ「T.L.S.」メンバーに声がかかるとは、よりによってヒナだとは、ヤスヒコにとっては青天の霹靂であった。

「そっか、ヒナ、整備部に呼び出されたのか」

「……うん、ビックリした」

「ホント器用だもんな、お前。どうすんだ?」

 ヤスヒコの目はまっすぐにヒナをとらえている。膝が触れそうなぐらいの距離であることをヒナは急に意識した。

「どうするって? どういう意味?」

「行くのか? 整備部」

 整備部に行かずに少年部隊に残る。ヒナはそのような選択肢があると初めて知った。

====================


ふーん、こういう展開になるんだ。また急だ。

14歳は微妙な年頃だな。思春期の入り口だ。初めて本当に「恋」といえる気持ちを感じたのもこの頃だったかもしれない。小学生の「恋」は、ドッジボールがうまいとか、ギャグがおもしろいとか、クラスで目立つ子に注目してるのにほぼ等しい。人となりにひかれるようになるのは中学生ぐらいからだった。

でも14歳になろうという子どもに、この選択はキツいな。「友だちと一緒がいい」とかが優先するだろうに。

この急展開を香山先生はどう収めるつもりだろう。


====================

(ヒナは間違いなく優秀な技術者になる。手先の器用さもさることながら、配線を見ただけで何の機械か判断できるのは、私も驚いた。整備部で充分な教育を受けるにふさわしい。しかしヒナは、まだ……幼すぎる)

 ハヤアキは足早にラウンジへ向かった。ヒナとの面談時間が迫っている。「T.L.S.」内に優秀な人材がいれば特別な教育を受けさせたいという気持ちと、多感な少年期をどう過ごすか考えさせたい気持ちとがせめぎ合っている。

(ヒナは私が「整備部へ行きなさい」と言えば行くだろう。しかしヤスヒコらと一緒にいたいという気持ちも強いはず。そもそもヒナ自身の成長のためには何がベストだ? どちらがヒナのためになるのか?)

====================


なるほど、そう来るのね。しかもこれにヒナとヤスヒコとの間に芽生えつつある恋心がからむわけか。面白くなりそうだ。

なにげにヒナが成長するベストの道を探ろうとしている。やはりこの第14巻にも、香山先生自身の考えが盛りこまれているのだろう。

ページを次へとめくると、メモが挟まっていた。落丁?

「……これ…」

香山先生の字だ。スゴい殴り書き。

「『HAVE A HAPPY HAPPY HAPPY NEW YEAR!!!!!!』。……わたし宛て?」

わたしが電車で寝ちゃってたときに書いたのかな。

これしか書いてない。でも、だからこそ、何を思いながら書いたのか気になる。参ったな。

遠くから除夜の鐘の音が聞こえてくる。ゆく年、くる年。この除夜の鐘が鳴り終わったら、なんだかとんでもない変化が起こりそうで怖い。目の前にせまる受験、卒業、新生活。別れと出会い。

迷っている暇も、自分に照れている時間もない。一つひとつに向き合わなければ。自分の将来にも、気持ちにも。それでも何かに押しつぶされそうで怖い。

不安を振りはらうように「T.L.S.」を本棚にしまい、世界史の一問一答問題集を開いた。解答欄を見ながら用語解説の方を思い出して書きとる。自分で言うのもなんだけど、受験勉強は順調だ。おそらくセンターは問題ない。



それなのに香山先生、わたし、不安です。何が不安なのか、それに向き合うのが怖いです。

何かが変わったら、香山先生がわたしに見せてくれるものも変わりはしないか、不安です。



静かに雪が降る。朝には積もるだろう。HAPPY NEW YEAR は来るだろうか。

この④で第九話は終わりです。お読みいただきありがとうございました。

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