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Tiny Little Soldiers ~香山センセイの二足のわらじ~  作者: ちひろ
第七話 文化祭編(10月)
32/51

カチッ…、カチッカチッ、カチッ、カチカチッ…

パソコン部部長は手慣れたマウスさばきで、写真部とわたしたち生徒会が撮った写真をパソコンにとりこんでいく。

「あとは菊池先輩で最後ですね。メモリーカードいいですか?」

「はい、お願いします」

「スゲー、ずいぶん撮ったな、菊池」

「あ、自分の寸劇見にきてくださったんですね」

「気づかなかったの? さすが葛目くん、役に入りこんでるね。馬上さん、吹部もメッチャ盛り上がってたね」

「ありがとうございます、美紗先輩!」

「優先輩は全然撮ってなかったッスね」

「しょうがないよ。会長なんだから」

「今も後夜祭の準備してるもんな。オレらもこれ確認したら行かねーと」

部長が「よしっ」と声をあげたのを合図に、全員ディスプレイに注目した。

「じゃあ、いきますよ」

「カウントダウンしよう!」

葛目くんの肩に強引に腕を回して乗り出し、黒岩くんはそう提案した。

「5、4、3、2、1!」

タンッ、とエンターキーを押す軽い音がし、「読みこみ中」の表示がしばらく出ている。

「お、終わりましたね。出ますよ」

後夜祭の目玉、生徒会企画の全貌がディスプレイに映し出される。

「スゴい…、できたよ」

「マジですか、これ。スゲー」

みんな感嘆し、言葉にならない。

「やったな、洋三」

「これで保存していいですね」

「もちろん。ホントありがとう」

「よし、じゃ画像映せるかリハしないとな。高嶋んとこ行こう!」

いよいよ後夜祭。わたしたち3年生、有終の美なるか。

飛ぶように優のもとへ駆けつける早瀬くんを先頭に、生徒会一同校庭へと急いだ。



後夜祭の司会は再び優と葛目くんのコンビだ。

優はクラス企画で着てた占い師の衣装、葛目くんはひとり芝居の衣装に着替えている。みんな思い思いの格好で後夜祭に参加していて、先生たちも何かの衣装を着ている人の方が多く、校長先生も弾く予定のないギターをわざわざ背負っている。3年F組は全員で古代ローマ風の衣装をまとった。そういう衣装がないクラスはたいていクラスTシャツを作っていて、日が暮れていく校庭を生徒の一人ひとりが鮮やかに彩っている。

オープニングセレモニーと同様、わたしたちは自分の持ち場につき、生徒全員の集合を待って、いよいよ後夜祭の幕が上がった。

「Ladies and Gentlemen!! 待、ち、に、待、っ、た! 後夜祭がやってきたぞーーーッッ!!!」

開幕宣言は葛目くんだ。本人はかなり遠慮したけど、優は「絶対に洋三がやれ」と譲らなかった。

「みんなー! サイッコーに盛り上がってこー!!」

あのベールが色っぽかったんだけど、飛び回る優には邪魔なようで、外して髪をひっつめている。

照明を落とす前に校歌斉唱。毎回軽音部がアレンジして伴奏するのだ。今回はヒップホップになってて、ボーカルが最初に手本を見せる。

「『我れらが学び舎』から『明日への飛翔』まではオレたちのラップですので、次4拍置いて入ってくださいね」

「ワン・トゥー・スリー、までオレが合図します」

難しくてグダグダだったけど、演奏がカッコ良くて充分盛り上がった。

「さぁ、いよいよ点火します! ここのしかけは化学部のみなさんに手伝ってもらいました!」

スポットライトで化学部の部長を照らす。その手にはチャッカマン、そして白衣を着ている。

「じゃあつけまーす」

導火線に火がつき、音響の黒岩くんが曲を流した。「ピタゴラスイッチ」のあの曲だ。一同からクスクス笑いが聞こえるけど、着火のしかけは相当に凝っていて、緑やオレンジの炎が見え、小さな火の玉やヒモを駆使して少しずつ井桁に炎が近づいていく。その様子をカメラで追い、正面の大型スクリーンに映し出したんだけど、それは野々村くんの提案だった。一人ひとりのアイディアが光っている。最後の導火線に火がつき、とうとう……。

「みんなー! たった今、みんなの心に熱い熱い炎がともったぞーー!」

「オオォォーーーッ!!」

「化学部のみんなに盛大な拍手をお願いしまーす!」

案の定地味な見た目の化学部部長だけど、拍手や指笛に包まれてニカッと照れ笑いした。

レクリエーション、クラス企画の人気投票やMVPの結果発表の後、しばらくはフォークダンス。3曲あるけど、生徒会のわたしたちも踊れるよう、曲を再生する役を交代にした。1曲目の「コロブチカ」はわたしがかける。

ほころぶ笑顔。軽やかな足取り。あの人も、この人も、瞳が星のように輝いている。この時間があと少しで終わってしまうなんて信じられない。そして、わたしの生徒会役員としての1年余りも、あと少しでおしまいだ。

「美紗先輩、ありがとうございます。行ってきてください!」

馬上さんがバラ色に頬を染めて駆けてきた。2曲目の「マイム・マイム」をかけるため、交代に来てくれたのだ。

800人が5重の円になって炎を囲んでおり、3-Fを見つけるのに苦労した。

「美紗ー! こっちこっち!」

「ミサミサ、お疲れ! ここ入んなよ!」

クラスのみんなに導かれて、輪に入った。みんなの弾ける顔と声に、胸が熱くなる。

「次の曲はーー!?」

「マイム・マイムだー!!」

ステージから降りてパチンコ玉のように縦横無尽に走り、踊りながら司会を続けている優たちを見て、本当に涙が出てきた。

「菊池! ほら、泣くな!」

香山先生もみんなと同じ古代ローマ風で固めていて、今度は男子用の衣装を着ている。当たり前だけど、こっちの方が似合う。

「感極まるのはまだ早いぞ。ちゃんと高嶋と葛目の姿を見てやれ! な?」

背中をバシッとたたかれ、気持ちをコントロールする。先生も生徒会を引退するとき、泣いたのかな。

最後の曲は、これも定番の「オクラホマ・ミキサー」。2回くり返す。

「あ、早瀬くん。近くにいたんだ」

ここで早瀬くんとペアになった。「よろしく」とそろって会釈する。

「これで文化祭、終わりなんだな」

「そうだね」

わたしたちは無言でステップを踏んでいく。みんなの様子が古い映画のようにセピア色に見え、一瞬一瞬が一時停止をしたかのように鮮明に目に入ってくる。

「早瀬くん、1年間ありがとね」

ビックリしたように早瀬くんは背後でのどを詰まらせる。

「何言ってんだよ、こちらこそだよ」

パートナー交代。

優、早瀬くん、もうすぐ終わりだよ。もうすぐ、わたしたち引退だよ。

この学校に関わるすべての人に何を伝えなきゃならないか、考えても考えてもまとまらない。時間は刻々と過ぎていく。

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