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Tiny Little Soldiers ~香山センセイの二足のわらじ~  作者: ちひろ
第七話 文化祭編(10月)
29/51

衣替えからしばらくすると空が高くなってきた。抜けるような青空にうろこ雲がどこまでも続いている。

2学期の中間試験が終わり、文化祭の準備がいよいよ本格的になってきた。生徒会長の優、副会長の早瀬くん、そして書記のわたしはこの文化祭で引退だ。新生徒会長の葛目くんたちにバトンタッチをしていかなくてはならない。

優は過去の文化祭のパンフレットを何年分か何気なくめくりながら、わたしに呼びかけた。

「ねえ美紗ー」

「ん? 今年はパンフレットどんな感じにする?」

「あのさ、書道部って地味だよね」

「……はい?」

失礼な。6月まで書道部にいたわたしをバカにしているのか。そりゃアクティブだとは言えないけど。

「いや、ゴメン。そういうつもりじゃなくて」

「どういうことよー?」

「文化祭でもさ、書道部とか写真部とか美術部って目立たないじゃん。ステージやる吹奏楽部とか演劇部は脚光あびるけどさ」

確かにそうだ。文化祭ではもちろん書道部も写真部も展示をする。でもたいてい部室は特別棟のすみっこ。当たり前だけど、墨や、パネルののりや、油絵の具のにおいが充満していて、なんだかジメッとしており、人はそう来ない。2年前の文化祭のとき書道部の展示の店番はヒマで仕方なかった。

「ええ、おっしゃる通り地味ですよ」

「ゴメンゴメン、ケンカ売ってるんじゃないって。文化部なのに文化祭で目立たないって、本人たちはどうなんかなと思って」

「そういうもんだとしか思ってないよ。どうぞハデな子は目立ってくださいって感じ」

「ゴメンってー」

「高嶋先輩、菊池先輩、お疲れさまでっす! どうしました? 菊池先輩むくれて」

「葛目くん、お疲れ。なんでもないの。演劇部どう?」

演劇部の葛目くんと吹奏楽部の馬上さんは、部活のステージと生徒会を両立させなきゃならないからかなりハードだ。

「あまり練習に顔出せないので、ピンで寸劇やるんです。見にきてくださいね。斎木先輩のシナリオなんです」

「そっか、だいぶ前に菜摘言ってたの聞いた。葛目くんのためにひとり芝居のシナリオ書いたって。それやるんだ」

キレキレの葛目くんをうまく生かしたシナリオを書けたと満足してた。面白くなるのは火を見るより明らかだ。

「洋三、宿題の方はどう?」

「任せてください! バッチリですよ」

「何? 宿題?」

「そう! 『地味な文化部にスポットを当てる生徒会企画を考えて』って洋三に投げてたの」

いつの間にそんな動きを。書道部だったわたしがツッコむのもなんだけど、難しいんじゃないかな。



「じゃあ生徒会企画はそれでいこう!」

「意義なし。やるな、葛目」

「書道部には美紗先輩が行きますよね?」

「うん。漫研も菜摘と行ってくる」

「化学部に友だちいるんで、自分行きますよ」

「パソコン部オレ行ってきます」

「じゃあオレ美術部と写真部行こうかな。どんなのできるかな、楽しみッスね!」

生徒会企画が無事に決まり、いわゆる「地味文化部」の全面協力を依頼していくこととなった。優の目のつけどころ、葛目くんの発想に舌を巻いた。

「パンフレットの構成もこんなもんだな。表紙どうする? こっちも漫研に頼む?」

「うちらで作ろうよ。ねえ洋三、ふたりで合作しない?」

「いいですね。この際シンプルでいきましょう」

「うん、あんまり時間かけたくないね。メインテーマをロゴにする感じで考えようか」

優は備品をひっくり返してマジックを探し当てた。さっそく書こうとするところを、馬上さんがあわてて紙の下に新聞紙を引く。

「よし、『感』…、『動』…っと」

「サブテーマもです。『You CAN DO it!』」

今年の文化祭のテーマは「感動 ~You CAN DO it!~」。感動とCAN DOをかけてある。

優が書いたシンプルな文字を葛目くんが器用にロゴ化していく。

さあ、これから一層忙しくなる。



クラス企画や部活の出し物を紹介するパンフレットにも、各々の「感動ポイント」を掲載する。ひねりがない企画は生徒会(主に優)が許さない。我が3年F組の企画は飲食店に決定して、担任の香山先生の知識や蔵書を拝借して古代ローマ帝国の食事を再現することにした。

文化祭当日まで1週間をきり、クラス委員長中心に準備は着々と進んでいく。

「菜摘、ポスターできた?」

「2種類しかできなかったよー、お姉ちゃんにも手伝ってもらったんだけどね」

「充分だよ、斎木。サンキュサンキュ。コンビニでカラーコピーとってこよう」

「わたし今日は生徒会室いるから、すぐ掲示OKのハンコ押すからね」

「衣装は? いつユザワヤ行くんだっけ?」

みんなが準備に忙しい中、1眼レフのカメラを首から下げた男子が入ってきた。

「こんにちはー、写真いいですか?」

「何? 写真部?」

「はい、準備のところ撮らせてください」

古代ローマの食事や建築についての文献に当たっていたり、看板を作っていたり、シーツで古代ローマ風の衣装を試作したり、準備の様子を何十枚も撮影してくれた。わたしからも一言かけておこう。

「ありがとう。けっこう撮れた?」

「はい、クラスはだいたい撮れたし、軽音部とか美術部とかもかなり撮れましたよ」

「部活の展示もあるから大変だよね。大丈夫そう?」

「写真部いつも目立たないから、生徒会企画に参加できるとかビックリです。目立つの好きじゃないヤツもいるけど、撮るだけだったらってみんな思ってます」

「良かった、部長さんによろしくね。あ、自分たちのことも撮っておいてね!」

さて、生徒会企画に力を貸してくれてるし、書道部にも寄ってこう。

廊下や昇降口も文化祭関係の掲示が増え、お祭りムードが高まってきた。すれ違うみんなの表情も光り輝いている。

「こんにちはー」

「美紗先輩、こんにちは!」

わたしたち3年生3人が6月に引退して、書道部は現在2年生3人、1年生5人のたった8人だ。部を存続させるには5人必要だから、毎年が綱渡りだ。今の部長は数々のコンクールで入賞している実力者。この子に生徒会企画への協力をお願いしてあった。

ちょうど部長は奥の机でひとり集中し、文化祭のメインテーマ「感動」を書こうとしていた。わたしに気づいてないみたいだ。

墨をすってはすずりに溜め、スポイトで水を数滴足し、また墨をゆっくりする。これを何十回とくり返しながら心を落ち着かせ、これから書く「書」をイメージする。筆の運び、身体の軸をどう動かすか、どのタイミングで息をつくか、鮮明にイメージできてから筆に墨を含ませる。筆を下ろし、部長は一気に「感動」を書ききった。舞うような動きで一切迷いがなかった。

筆置きに筆を寝かせ、ホッと一息ついたようなので声をかける。

「お疲れ。ありがとね」

「美紗先輩! これどうですか?」

「自分ではどう?」

「気に入りました。これ使ってもらえますか?」

わたしは部長をハグして「もちろん」を伝えた。乾くのを待たなきゃダメだから明日また取りに来よう。

美術部の方は完成してるみたいだし、パソコン部の方も準備・試作ともに問題なし。化学部はぶっつけ本番だけどしょうがない。ビラは漫研が作ってくれて配布済みだ。生徒会企画、みんな感動してくれるといいな。

史上最高に感動的な文化祭に必ずしてみせる!

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