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※ご注意※
この話は「いじめ」がテーマです。暴力、罵詈雑言などの直接表現はありませんが、読まれる人によっては不快に感じる表現があるかもしれません。ご注意ください。
なんだか毎日生徒会室に来てる気がするけど、次の日は普通の定例会議だった。文化祭は来月末だからそろそろ本腰入れないとマズい。
一番乗りかと思って生徒会室に入ったら、優がブツブツ言いながら山積みにした本を読んでいた。
「お疲れ、優」
「ん、お疲れ。……すると、議論の落としどころの見極めが…」
見ると、会議の作り方や、ディスカッションのハウツー本だ。
「何、これ買ったの?」
「まさか。お父さんの」
今考えてる企画のために勉強してるわけだ。優は指定校推薦とれたから、かなり余裕こいてる。
「おい、高嶋」
忙しそうに飯野先生も入ってきた。優は読んでた本を置いて立ち上がる。
「あ、先生。こんにちは」
「今度の企画のことだがな、時間がないから手短かに話すぞ」
まさかボツ? わたしも優もにわかに緊張した。先生は手に持ったプリントで無造作にあおぎながらドカッと椅子に座る。
「俺の昔の同僚に県の教育委員会に移った人がいてな、今いじめとか学級崩壊とか、そっちの対策を専門にやってるんだ」
ちょうど早瀬くんたちもやって来た。
「その人がな、協力してもいいって。話を聞きたいと言ってる」
「ホントですか!?」
目がイキイキしだした優のところまで早瀬くんが来て、「やったな」と肩をたたく。
「しかしお前たちがその人にちゃんと自分らの考えを伝えて、人任せにせずに、かつ謙虚に教えを請わないといけないぞ。どうだ、会ってみるか?」
「はい! お願いします!」
一気に視界が開けた。難しい企画なのは百も承知で、結論をどう持っていくかを悩んでいたんだ。専門家の見解が聞けるなんて願ったりかなったりだ。
「おもしろい企画ですね。生徒のみなさんが自主的にやるというのも、また意義深いことです」
飯野先生が紹介してくれた教育委員会の小松先生に「しゃべり場」の説明をした。物腰柔らかで気さくに「『先生』なんて堅苦しい。『こまっちゃん』と呼んでください」とわたしたちに接し、飯野先生に「そういうのはいいから」とあきれられていた。
「小松先生、率直なところどうですか? うまくいくと思いますか?」
「『先生』はやめましょう、『小松さん』ぐらいで。そうですね、分科会がどうなるかはパネルディスカッション次第でしょうね。それが導入になりますから、どこまで話を掘り下げられるかがカギになります」
わたしと野々村くんは書記として板書とメモとりに必死だ。普段の定例会議ではありえない真剣さで小松先生……、小松さんのアドバイスを書きとる。
「パネルディスカッションの人選は?」
「これからです」
「よーく考えてくださいね。昔いじめられたことがあるとか、逆にいじめたことがあるとか、傍観してたことがある、解決例を知ってる、いろんな人を集めたいですね。ですが前に出てもらうので、慎重に依頼しなくては」
「はい。彬、探せる? 難しい?」
「大丈夫ッス。やります」
「どんな話をしてもらうか事前にうちあわせた方がいいですね。テレビの『しゃべり場』はアドリブだったようですけど」
「そのつもりです。内容は…、あたしと早瀬で考えようか」
「そうだな。パネラーへの依頼は黒岩が行くよりオレがした方がいいだろ。探したら教えろよ」
「了解ッス」
小松さんのアドバイスをすぐさま優は具体化していく。
「美紗には、分科会の進行役のうちあわせをやってもらいたいけど、どう? あたしのお父さんの本ね、会議の進行についても載ってるから読んどいて。分科会も大事だから、あたしも手伝うし」
「高嶋先輩! 自分たちは? 何かできることありますか?」
「洋三と聡は告知をやってもらおうかな。いじめがテーマってのはここだけの話だから、最初のお知らせはハデにパーッとやっていいよ」
「任せてください!!」
「分かりました」
「芙美ちゃんはね、テーマは公募ってことになってるからヤラセなんだけど、一応公募の準備して。どうしよう、箱作るかなぁ…」
小松さんは興味津々でわたしたちの会話を聞いているけど、せっかく来てもらってるのに放ったらかしだ。
「優、優。小松さんいるから、うちらの話し合いはあとにしよう」
「そうだ、スミマセン! 勢いついちゃって」
「気にしないで。チームワーク抜群ですね。ところで、本番での司会進行はどうするんですか?」
それが一番難しい。不自然でなく「いじめは許さない」という結論を引き出し、全員で決意を新たにするには。
「良ければ私がパネルディスカッションの進行を務めましょうか? 本物の『しゃべり場』も『元10代』みたいな形で大人が出てくることはありましたし。飯野先生たちが出てくるよりは、部外者の私の方がやりやすいでしょう」
スゴいスゴい。小松さんに仕切ってもらえば論点が変な方に行かないようにできるだろう。
「でもね、企画全体の総合的な進行はみなさんでやるべきです」
「はい、あたしもそこまでは頼れないと思ってます。でも小松さん、こう、『いじめはダメだ』って全体で結論を出すのが、どうしようって感じなんです。行き当たりばったりになりそうで」
「それでもいいんじゃないですかね。むしろ結論が出なくてもいいと思いますよ。一人ひとりが自分と向きあって、『いじめは許さない』と決意することの方が重要かもしれない」
「………」
目からウロコという表情で、わたしたちは小松さんを見つめ続ける。
「…じゃあ、無理に結論を出すんじゃなくて、自分との誓いを形にしたらどうですか?」
「何か案あんのか、菊池?」
「その、単純でいいんです。カードに書くとかで。財布とか生徒手帳とかに入る大きさで、提出もしないで、自分だけの心にとどめておけるようにするんです」
小松さんは椅子に深くもたれてうなずいた。
「その手法はよく使いますよ。他のだれでもない、『自分との誓いカード』。議論が深まっていれば、自分に向きあうことで充分ですから」
企画の大まかな骨組みができてきた。でも具体的にしていくのはこれからだ。小松さんの全面協力を得て、その日は遅くまでうちあわせを進めた。
「真剣10代!」
「しゃべり場!!」
葛目くんたちが作った告知動画は大ウケだった。本物の「しゃべり場」のオープニングを模して始まり、葛目くんと野々村くんが白い背景の部屋で椅子に座って向きあい「ふたりしゃべり場」をする。この時点で絵面がシュールすぎる。絶妙なボケツッコミが繰り広げられ、最後に野々村くんが「こいつとふたりじゃ話にならない! だれか一緒に参加してくれ!」とカメラに呼びかけて終わる。
テーマの公募は、結果としてはヤラセなんだけど、20件ほど反応があった。公募〆切りの翌日、テーマを「いじめ」と発表し、パネラーと分科会進行の人を依頼する。
文化祭の準備に食いこませたくないから、「しゃべり場」の日程は無理に近々にねじこんだ。
「菊池、ちょっといいか?」
慌ただしく生徒会室へ行こうとしてたら、香山先生に呼び止められた。
「忙しいとこ悪いな。例のあれな」
あれってどのことだろう。「お母さん、あれ取って」じゃないんだから。
「ハハ、案外余裕だな、お前。あれだ、担任が本人に話を聞いたそうだ」
あ、会沢さんのことね。
「今回の企画があるから、これが終わったら担任から改めて、やってた側に事実を聞くという流れにしたらしい」
「じゃあ『しゃべり場』でどんな空気になるかも関わりますね」
「そうだな。しかし高嶋には無用の心配だろうけどな、菊池は特に気負うなよ。飯野先生からいろいろ聞いたが、結局は自分とどう向き合うかが肝心なんだから」
「はい…、……あの時は本当にすみませんでした」
「ほら、それだ。気にするなと言っただろ? お前がちゃんと気づいて、感情的になるほどに問題視したから、みんなでなんとかしようって動きだしたんだ。そうだろ?」
「………」
「引き止めて悪かった。行ってこい。また聞かせてくれよ」
認めてくれる人がいる。胸の奥がツンとする。わたしは香山先生に深く頭を下げて、生徒会室へかけ足で向かった。




