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※ご注意※

この話は「いじめ」がテーマです。暴力、罵詈雑言などの直接表現はありませんが、読まれる人によっては不快に感じる表現があるかもしれません。ご注意ください。

9月に入って急に日が短くなった。中庭の隅に勝手に生えてる彼岸花が、秋の訪れをもの悲しく告げている。

香山先生に会沢さんのことを聞いてもらった翌日、優と早瀬くんを生徒会室に呼び出し、わたしの知る限りを洗いざらい話した。うまく話せるか不安で香山先生に同席してもらったおかげで、取り乱さずにすんだ。

ずっと理系の早瀬くん、去年は理系にいた優。3つある理系クラスの中で、ふたりとも会沢さんと同じクラスになったことはない。それでもすぐ近くのクラスでいじめが起こってたと知り、ショックを隠せない様子だった。

「会沢ね、あたしも知ってるよ。去年体育が合同だったから話すこともあった。……メッチャ背ェ高いじゃん、ふたりでしゃべってるとさ、幼児に話しかける不審者みたいで、後ろから写メ撮られて超おかしかった。……感じ変わったなとは思ってたけど、まさかそんな…、あたし何見てたんだろう…」

優は手で目を覆って下を向き、そのまま無言になる。

「高嶋、オレも気づかなかったよ。オレら生徒会だから、あんまそういうの耳に入ってこないだろ」

「そうだ。その分、高嶋たちは目安箱にちゃんと目を通して、こうして問題も発見できたんだ」

「ねぇ優、気づけなかったことを悔やむなら、気づける環境をどう作るか考えよう」

わたしの言葉にみんなが顔を上げた。香山先生は口元に微かに笑みをたたえて、しっかりと見守ってくれてる。

「問題はね、会沢さんがだれにも相談できない状態だったことにもあると思うんだ。それに会沢さんの件は氷山の一角かもしれない。話しやすい環境がないと何度でもくり返すよ」

「話しやすい環境か、難しいな」

「ううん、考えてみる。美紗、1日ちょうだい。『いじめは許さない』って空気を作ってやる」

何かの神様が優に降りてきたようだ。目の色が変わっている。

「じゃあまた明日、この時間に集まるか」

「そうしよ。早瀬、飯野先生にも来てもらえるか聞いといて。できれば彬たちも全員」

すでに優にはアイディアがあるようだ。この小さな身体にどれだけの引き出しがあるんだろう。いや、気にしない。自分とは比べない。わたしはわたしにできることを頑張るだけ。

「分かった。聞いとくよ」

「香山先生、ありがとうございました」

「うん。会沢の担任には俺から話そう。菊池の証言が必要になるだろうから、一緒に来てくれるか?」

「はい、もちろんです」

今の会沢さんの担任は今年赴任したばかりのオバチャン先生だ。授業を持ってもらったことはないからどんな人か分からないけど、経験豊富ではありそうだから、頼りになると信じてすべて話そう。それぞれが堅い決意をし、生徒会室をあとにした。



翌日、急な集合にもかかわらず、飯野先生も含めて全員集まってくれた。人が多くて暑いけど、話が話なので生徒会室は閉めきった。

「そうか、3年の間でそんなことが……。よく話してくれた。うやむやにするのが一番良くない」

「美紗先輩も大丈夫ッスか? 抱えこんでない?」

黒岩くんの心づかいがうれしい。

「大丈夫。優と早瀬くんとか、信頼できる人に聞いてもらえたから。ありがとう」

立って話をしてた優が黒板の前に移動し話を続けた。わたしも立ち上がって優の隣に行く。

「それでみんなで議論したいのが、このいじめ問題に対して生徒会はどう働きかけるか」

「今回の件についてはすでにその子の担任の先生にも話してあって、個別の対応の方は先生たちに任せることになります。でもわたしたち生徒会としては、絶対にいじめを許さない環境作りをしたいと思ってます」

「もちろんです! やりましょう!」

「先生方のご協力もたくさんお願いすると思います」

「当然だ。しかしそこまで言うからには、すでに何か考えがあるようだな」

ガッ! とチョークをつかみ、優は黒板に文字を走らせた。そして重い空気をぶち壊す勢いで読み上げた。

「緊急企画、『真剣10代しゃべり場』!!」

「……何ですか、それ?」

「知らない? 10年ぐらい前にEテレでやってた」

「知らねーよ」

「また懐かしい。俺もたまに見てたな。どうするんだ?」

優の顔に「よくぞ聞いてくれました」と書いてある。お世辞にもキレイとは言えない企画書を取り出して、黒板の前をウロウロ歩きながらわたしたちに説明してくれた。



コンコン、とノックし、社会科教員室を早瀬くんとふたりでのぞきこむ。

「失礼します。あ、香山先生、今いいですか?」

「おお、菊池、早瀬。いいよ」

生徒会のみんなで話し合ったことを香山先生に報告しにきたのだ。ソファーに座ると不揃いのグラスで麦茶を出してくれた。

「今日みんなで会議してたんだったな」

「はい。高嶋さんの発案で企画を立ち上げることになりました」

先生が「ほう?」という表情をしながらわたしたちの正面に座る。優の企画書をそのまま見せた。

「『真剣10代しゃべり場』? なんだ、高嶋はまたこっち系か。『未成年の主張』といい、なんか発想が俺らの世代だよなー」

詳細はこうだ。

Eテレで以前放送していた若者の討論番組「真剣10代しゃべり場」をもじった、というかまんまパクった企画で、生徒があるテーマについて議論する。テーマは対外的には公募という形をとるけどそれは見せかけで、今回の問題「いじめ」をテーマとする。この見せかけは会沢さんや、もしかしたら隠れているかもしれない当事者を刺激しないようにする配慮だ。

議論の持ち方に工夫があって、最初は代表の生徒何人かがパネルディスカッションを行い、質疑応答はせずに時間を切る。次は生徒全員をグループに分けての分科会だ。クラスや学年もすべてバラバラにし、ランダムにグループを作ってほとんどが初対面の状態で議論をする。分科会の進行は3年生が務める。あらかじめ議論の項目をまとめ、進行の練習もしておくけど、グループのメンバーはその本番まで公表しない。

そして一番のミソは、先生を会場に入れないことだ。見物することすら遠慮してもらう。

「なるほど。考えたな。じゃあ大人はだれも入れないのか?」

「それは飯野先生ともかなりやりあいました。収拾がつかないんじゃないか、結論が出ないんじゃないか、先生も成果を確認したい、とかいろいろ」

「でも高嶋はそこは譲らなかったんです。なるべくしがらみとかをなくして、本音で話せるようにしたかったんです」

「いじめは、あると思います。でも、本心から人を傷つけたいって思ってる人は、いない…はず。自分のしてることはいじめだって、ホントはやめたい、そう思ってる人もいるはず。クラスの雰囲気とか、お家のトラブルとか、わたしたちにだっていろいろあるけど、それでもダメなもんはダメだって意見が1グループからでも出れば、そこへ全体の方向をもって行きます」

感極まりそう。泣いちゃダメだ。麦茶を一気飲みする。

「難しいぞ。収拾がつかないってのはな、そこまでの手腕が菊池たちにあるのかどうかってことだ。できるのか?」

「……」

「飯野先生にもハッキリそう言われました。オレも実際そう思います。自信ありません」

「どうするんだ」

「…考えてます」

早瀬くんと香山先生は無言で会話しているように見える。早瀬くんの男の意地を見たような気がした。

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