①
うちの生徒会は変わっている。
メンバーが変な人、という意味ではない。いや、もちろん変な人などではなく個性的なだけで。
そうではなく、世代交代の流れが独特なのだ。うちの高校は10月下旬に文化祭か体育祭を1年ごとに交互に開催していて、その一大イベントを新旧の生徒会役員が合同で運営するという伝統がある。ちなみに今年は文化祭。
1学期の期末試験が終わり、生徒が結果に一喜一憂している空気のなか、新しい生徒会役員選挙がつつがなく執り行われた。ここで当選した新メンバーと文化祭を作りながら、引き継ぎしていくことになる。
「……私この度、晴れて生徒会長に当選いたしました、葛目洋三でございます!!!!!」
「………」
「………」
1学期最後の定例会議で新旧の初顔合わせをするわけだけど、新生徒会長はこの調子だ。指定の開襟シャツをキチンと着て、いかにもな銀縁メガネ。絵に描いたような委員長タイプだ。
せまい生徒会室なのに演説調の自己紹介を披露され、めずらしく優が勢いに飲まれている。次に黒岩くんが笑いをかみ殺しながら立ち上がった。
「改めまして、新副会長の黒岩彬です。優先輩たちを目標に頑張ります!」
黒岩くんは続投で、副会長に立候補して見事当選した。心なしか貫禄が増したように見える。早瀬くんが「イヨッ!」とかけ声をあげた。そして次は。
「こんにちは。会計の馬上芙美子と申します。紅一点ですが、締めるところはキッチリ締めていきたいと思います」
しっかり者な感じ。黒岩くんたちはいい具合に尻に敷かれていくだろう。
最後に長身の男子が立ち上がった。
「書記をさせてもらいます、野々村聡です。1年はオレだけですね。会長が変人なんで不安ですが、やることはやるんで、よろしくお願いします」
ニコリとも笑わずに早口で言い、すぐに座った。
「………えーっと…」
さすがの優もどう対応したものか困ってしまっている。この暑いのに空気が凍ったように固まり、セミの鳴き声が急にうるさく聞こえてきた。しばらくすると沈黙を打ち破るかのように、黒岩くんが肩を震わせ始めた。
「…クックックッ…、ハハハハハ」
「!? 何、彬どうしたの?」
「スンマセン、だって洋ちゃんも聡もおかしくて」
笑い転げる黒岩くんを葛目くんが鋭くにらんで「洋ちゃんはやめろ」と抗議する。
「ハハハ…、優先輩、大丈夫ッスよ。このふたり別に仲悪いとかじゃないから」
「やめてください。こんな人知りません」
野々村くんは眉ひとつ動かさず話す。
「いや、つーかさ、葛目と野々村は元々知り合いなわけ?」
「はい。自分と野々村聡は、学年は違いますけど幼なじみなんです」
「なるほどねー」
「何が幼なじみだ、家が近所なだけだろ。ことあるごとに年上面しやがって、2か月しか誕生日変わらないのによ。まったく洋三、お前はな、あの演説はなんだ? 勢いだけでよく当選したな」
息もつかずに、でも相変わらず淡々と野々村くんは言った。早生まれ・遅生まれで学年が違うってことなのね。
「まぁ、あたしも勢いだけだけどね」
「会長はある程度勢いがあった方が」
「限度ってもんがあるでしょう? だからオレは、こいつが当選したらこの学校は終わりだと思って……」
ああ、そうか。これは仲が悪いんじゃないな。
「それで? 葛目くんが心配で一緒に生徒会やろうと思って立候補したんだ?」
野々村くんの時が止まった。黒岩くんが声も出さずに笑いながらわたしに向かって親指を立て、何十回とうなずいている。
「…そ、そんなわけ…」
見る間に顔が赤くなっていく。
「それに、葛目くんは当選するものだと思ってたんだね。信頼してるんだ」
「菊池先輩、そんな、あることないこと…、…っ……」
「ツンデレだ」
「ツンデレだね」
「これがツンデレという生き物か」
「そう、ククッ、聡はいいツンデレッスよ」
現生徒会の面々の好奇の目にさらされ、野々村くんは小さくなってしまった。葛目くんが軽くため息をついて、もったいぶって立ち上がり、大振りな仕草で野々村くんの席の横に立って言った。
「なんだ聡、せっかく一緒に生徒会やれると思ってオレはうれしかったのに。昔みたいに『洋ちゃん、洋ちゃん』ってついてきて助けてくれないのか」
「オレも洋ちゃんって呼びたいー」
「黒岩は却下だ」
葛目くんは素直に「うれしい」とか言える人なんだ。わりと素直な人なのかも。肩に葛目くんが手を置いて、野々村くんはイヤイヤするみたいに振りはらう。
「だれがそんな風に呼ぶか」
「でも聡、同じ高校に受かってくれて、生徒会まで一緒で、うれしいのは本当だぞ。これからよろしくな」
「……生徒会はちゃんとやるよ。他の人じゃお前の手綱とれないだろ」
「エンダアアアアアアアア!!」
「彬うるさい!」
「だまれ!」
「落ち着け、黒岩!」
一斉にツッコミが入り、みんなでお腹を抱えて笑った。新メンバーもにぎやかだ。涙目の野々村くんが「やっぱやめようかな」とつぶやいて、すかさず馬上さんが「もう、かわいそうでしょ」と援護する。このメンバーでうまくいきそうだな。
「遅くなって悪かった。会議が長引いて」
派手な音をたてて生徒会顧問の飯野先生がやってきた。優がサッと立ち上がり先生に向き合う。
「先生、こんにちは。言われた通り先に自己紹介しちゃいましたけど」
「構わん構わん。開票結果出てから、すぐに葛目たちは俺のところにあいさつに来たからな」
飯野先生は普段は生徒会は放置気味だけど、今日は初顔合わせだから来てくれた。
「ちゃんとあいさつしたの? 彬たちやるじゃん」
「芙美子の提案ッス。こいついないとオレらグダグダかもね」
「ダメだろ、それじゃ」
飯野先生は一番奥の席に着き、わたしたちの顔を一人ひとり見て、ゆっくり話しだした。
「さて、早くも打ち解けているようで結構なことだな。夏休み中も文化祭の準備を進めるのだろう?」
現生徒会のわたしたち中心に大きくうなずいた。
「くれぐれも事故を起こさないこと。それから休み中も生徒たちの様子には気を配れ。生徒会のメンバーだけで楽しむようでは何の意味もない」
「はい」「はい」
優と葛目くんがそろって返事した。
「しかし気を楽に、存分にポテンシャルを発揮しろよ。高嶋、期待してるからな。葛目たちも、よく勉強させてもらえ」
小さい優は精一杯胸を張って、バシッと葛目くんの背中をたたいて、
「任せてください!」
と答えた。
「じゃあ、夏休み中も会議やるけど、ひとまずお疲れさまでした!」
「ご苦労さん。さぁ、俺はまた会議だ」
1年生の学年主任をしている飯野先生は、実際忙しいのだ。
「オレも部活行くわ。お疲れ」
「タカさん、頑張ってー」
早瀬くんはわたしたちに背を向けながらガッツポーズで応じてくれた。
剣道部は見事、団体戦でのインターハイ行き切符を手に入れたのだ。個人戦は早瀬くんも部長も第3位で、第2位までしかインターハイには行けないらしく残念な結果となった。
「……早瀬もう行った? ちょっと集合集合」
優が奥の机にわたしと黒岩くんを集めて、あからさまなヒソヒソ声で話し始めた。
「今年のインターハイはさ、近くでやるから見に行けるじゃん」
「あ、もしかしてタカさん応援に行くとか?」
「いいねいいね。内緒で行こうよ」
「オレ日にち調べとくッス」
「あのー…」
おずおずと葛目くんが話に割って入ってきた。
「自分たちも同行してよろしいでしょうか?」
野々村くんは「オレも?」という具合にキョロキョロしてる。
「無理しなくていいよ。早瀬のことよく知らないでしょ?」
「いえ、自分は早瀬先輩を含めみなさんを尊敬しています。個人としても近しくなりたいと考えています。な? 聡も行きたいよな?」
驚いた。葛目くんって委員長タイプで、かたくるしいかと思ってた。こんなに率直に自分の気持ちをしゃべって、交遊を広めようと積極的になるんだ。わたしも葛目くんがどんな人なのか知りたくなってきたな。
野々村くんもあきらめの表情で返答した。
「まぁいいよ、分かりました。洋三が高嶋先輩たちに迷惑かけないように、オレも行きますよ」
「オッケー、じゃあみんなで行こう! 新旧生徒会の最初のミッションは、栄えある剣道部の激励である、ってところかな」
優はニカッと笑ってスキップしながら生徒会室を後にした。
夏本番。高校生活最後の夏休みが始まろうとしている。




