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Tiny Little Soldiers ~香山センセイの二足のわらじ~  作者: ちひろ
第三話 剣道部編(4月~5月)
11/51

部活動説明会後の定例会議に、早瀬くんは来なかった。剣道部で緊急ミーティングをすることになったためだ。

「タカさん大丈夫かな?」

「んー、早瀬は抱えこむからねー」

定例会議が始まる前に剣道部の部室をのぞいたけど、3年生と顧問の先生がミーティング前に打ち合わせをしているらしく、なんとも重い雰囲気だった。

「なんでこんなことになっちゃったのかな?」

剣道部はみんな浮わついたところがなくて、今年は生徒会はもちろん、PTAからも期待されている。それでピリピリしすぎちゃったのかな。でもそれを乗り越えてこそだし、早瀬くんたちならできると思う。

「真面目すぎるとか」

「期待背負っちゃったとか」

「なんか『タカさん分析』になってきた」

「確かに。早瀬くんだけじゃなくて剣道部全体の問題なのにね。早瀬くんだけにフォーカス当てるのはおかしいね」

「彬、剣道部にコネあるっしょ?」

優は空を見つめながら何か考えている。

「コネってか、友だちは何人かいますよ」

さすが黒岩くん。わたしも剣道部の友だちはいるけど何人もはいない。

「ちょっとその子らにね、目安箱を超アピールしといて。しばらくはあたししか見ないようにするからって。何か入ってくるかも」

「了解ッス、言っときます」

「わたしも友だちいるから言っとくね」

「いや、美紗はいい」

わたしを見ずに優は続けた。

「多分2年生の意見が重要なんだ」

ポンッと音をたてるかのように優は立ち上がって、ニコリと笑った。

「早瀬がしっかりしてくんないとシマんないよね! ちょっとお節介しよ!」

優は今、すごくすごく大きく見える。



「剣道部、というか早瀬、大変みたいだな」

提出し忘れたプリントを出しに社会科教員室に来たら、香山先生から「ちょっと聞かせてくれるか?」と早瀬くんのことをたずねられた。

「そうなんですよ。あ、ミルク買ったんですか?」

「目ざといな、お前。コーヒー飲むか?」

「やった、入れてください」

「担任にコーヒー入れさすかね、普通…」

「親でも使いますよ、立ってる人は」

ミルクと砂糖、それとマグカップになみなみと入れられたコーヒーを持ってきてくれた。これじゃミルクとか入れられないじゃない。苦いまま一口飲んで減らす。

「で、早瀬は?」

「それが最近『もしドラ』とか読みだして、ますますピリピリしてますよ。しかも『しばらく部活に専念したい』って。大きな行事6月までないから、高嶋さんもOKしたんですけど」

今日はわたしはソファーに座ってて、先生も向かいのソファーに座った。

「そうか、必死だな。早瀬ひとりの責任じゃないんだし、肩の力を抜けたらいいんけどな」

「それはわたしたちも言ってます。高嶋さんも心配してて」

「菊池は、どうして剣道や柔道に団体戦があるんだと思う?」

「え…? なんでだろう…」

わたしは根っからのインドア派で、吹奏楽部や演劇部のようなチームで協力し合う部活も縁がない。突然の質問というだけでなく、どうもピンと来なくて答えに窮する。それでも、以前香山先生が「いいチームだ」って言ってくれた今の生徒会が好きだ。

「じゃあな、早瀬はなんで剣道に団体戦があるか、考えたことがあると思うか?」

あるかな? あるようには見える。部員が辞めたときの落ち込み具合と言ったらなかった。でも早瀬くんたちがその答えをつかんでいたら、あんな感じに辞めちゃう部員はいないんじゃないか。無言で考えるわたしを眺めながら、先生はスローモーションのようにゆっくり微笑む。

「チームとは何か、役割とはどういうことか、早瀬たちなりの答えを見つけないとな」

「……」

力強いまなざしから、わたしは目をそらせなかった。先生は真っ黒なコーヒーをグイッと飲んで、少し横を向いて脚を組む。

「うちのバド部にさ、ふたりとも個人戦では3回戦止まりだけど、ダブルスだと県ベスト4っていうペアがいるんだよ。部内でも誰も歯が立たないわけ」

「へぇー、なんかいいですね、そういうの」

「だろ? そのふたりが考える『チームワーク』ってのも、また独特でさ……」

さっきとは打って変わって、明るく茶目っ気たっぷりに話す香山先生。でも先生の本質は、熱心に生徒に語りかける顔にあると思う。

「じゃ、早瀬たちによろしくな。引き止めといて悪いけど、これから職員会議だ」

「あ、はい。コーヒーごちそうさまでした」

「ん」

社会科教員室を後にし廊下からグラウンドを眺めると、いくつかの部が競うようにランニングをしている。1年生が入ったばかりだから、基礎作りや体力チェックをしているのだろう。どうやら剣道部もランニング中のようだ。早瀬くんが先頭に立って1年生らしい生徒10人弱を引き連れて延々走っている。他に上級生はついていないようだ。ちょっと様子が気になったので、しばらく観察することにした。

「よし、10周終わり。部室戻ろうか」

「はーい」

グッタリ気味でゾロゾロ部室の周りに集まった。部長が待ち構えている。

「じゃあ次、素振りだな。初心者もいるから今日もちゃんとやるぞ。自分の竹刀持ってるやつは取ってこい!」

「はい」

早瀬くんも取りに行くようだ。部長が前で素振りの手本を見せる。

「正確なフォームを意識して…、重力に任せずひじを柔らかく使って…、降り下ろす時は左腕もピンと伸ばし…」

丁寧になされた説明の後、1年生はそろって100回素振りをした。

「よし、同じ正面素振りをもう100回、今度は自分のペースで」

1年生に混じって早瀬くんも素振りをする。というか、1年生と同じメニューをこなしているように見える。何種類かの素振りの後は、初心者は足さばきの練習を始め、経験者は剣道場の半分を使って技の練習。早瀬くんはそっちに入った。道場のもう半分では上級生がインターバルをとりながら打ち合っている。早瀬くんは1年生を指導するでもなく、ただ彼らと同じ行動をとっているだけだ。

結局日が暮れるまで見てしまった。しょっちゅう子どもを観察してる香山先生のこと言えないな。部員は片付けを始め、1年生が道場を雑巾がけする。なぜだか早瀬くんは雑巾組。心をこめて雑巾がけするのはもちろん大切なことだけど、たいていは1年生がするものだろうし、そもそも上級生は早瀬くんしかやってない。

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