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目に痛い白さを飛行機から眺める
着陸間近にもかかわらず
未だ雲の中にいるのではないかという錯覚を抱く
そうして寒さに肌を刺されたとき
この雪国に帰って来たのだと思った
そして同時に思い出される
俺の初恋の人が住むあの町のことを
何度も電車を乗り換えて
そうしてやっとこの最寄り駅に着いた
数年振りにもかかわらず
ここの風景は高校時代と全く変わらない
そもそも最寄り駅と言っても
学校に通うのに電車は不必要だった
実際に朝は徒歩で通っていた
第一この雪国では徒歩が確実だ
けれども
先輩が電車で通っていると知り
先輩がたった一人で帰っているとも知った
それから俺は少しでも先輩と過ごすために
先輩と一緒に帰ろうと思い至った
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「せ、先輩っ」
「なーに?」
「あの、1人で帰るのですか?」
「そーだね」
「先輩、電車通学ですよね」
「うん」
「あの、駅まで一緒にいいですか?」
「え?」
「えっ、と、あっ部活の事で先輩に聞きたいことがあって、あっ、でもそれだけじゃなくてもうこんな時間だし暗いし先輩1人だと危ないっていうか…」
「私とでいいの?」
「えっ、先輩と帰れるなんて光栄ですっ」
「光栄って、ふふふ」
********************
もう巷では春一番やら桜の開花やらで
浮き足だっているようだ
しかしここではまだまだ春は遠い
冬化粧は一向に解けそうもない
そんな雪道を薄着の俺は進む
あの頃と少し変わった街並みが俺の目を引くが
それでもこの白銀の世界だけは変わらない
けれども思い出すのは
先輩と一緒にこの道を帰った
たった1年間だけだった
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「先輩っ」
「なーに?」
「あのっ、文化祭で俺のクラスに来てください」
「教室に?」
「ではなくて
俺のクラスの出し物が体育館で演奏なので」
「へぇー、クラスの出し物が演奏なの?」
「リコーダーですけどね」
「きみは何するの?」
「お、俺は自分の楽器で…」
「ふふふ、目立っちゃうね」
「それが案外、目立つわけでもなくて」
「なんで?」
「各自、好きな楽器で演奏するので
ギターは数人いるし、トランペットもいて」
「楽しそうだね」
「そうですか?統一感がまったくありませんよ」
「いろんな音が混ざって私は楽しいと思うよ」
「本当にごちゃ混ぜですよ
それでリズムなんかも合わなくて」
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ふと気づくと
いつのまにか俺の足は家路を逸れ
高校が目の前にあった
無意識でここまで来てしまった自分に
呆れてしまう
雪の中に鎮座する白い建物は
一見辺りと同化しながらも
俺にその存在感を顕にさせる
立ち止まり耳を澄ませると
しんとした空気に紛れて
楽器の音が微かに聞こえてくる
そうすると必然的に思い出してしまうのは
先輩との部活動だった
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「…では、10分休憩後通します」
ガヤガヤ
「あの、今質問してもいいですか」
「なあに?」
「さっき注意されたところで
感情を込めてってどういうことですか?」
「私この曲大好きなの
この曲どういう曲か知ってる?」
「えっ、知りません」
「この曲はね、片思いの曲なの」
「そうなんですか」
「元が英語の曲でね
I love you,but I said I like youって歌詞で
ここはそのフレーズなの」
「英語のloveとlikeは全く違いますもんね」
「そうそう、とってもロマンチックでしょ」
「まるで
ガッシャーン
誰ー?
楽器は大丈夫?
ガヤガヤ
「え、なんて?」
「いえ、なんでもないです」