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虹色滴  作者: 桐 菊之
あい
3/10

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目に痛い白さを飛行機から眺める

着陸間近にもかかわらず

未だ雲の中にいるのではないかという錯覚を抱く

そうして寒さに肌を刺されたとき

この雪国に帰って来たのだと思った






そして同時に思い出される

俺の初恋の人が住むあの町のことを






何度も電車を乗り換えて

そうしてやっとこの最寄り駅に着いた

数年振りにもかかわらず

ここの風景は高校時代と全く変わらない


そもそも最寄り駅と言っても

学校に通うのに電車は不必要だった

実際に朝は徒歩で通っていた

第一この雪国では徒歩が確実だ




けれども

先輩が電車で通っていると知り

先輩がたった一人で帰っているとも知った


それから俺は少しでも先輩と過ごすために

先輩と一緒に帰ろうと思い至った



********************




「せ、先輩っ」

「なーに?」

「あの、1人で帰るのですか?」

「そーだね」


「先輩、電車通学ですよね」

「うん」

「あの、駅まで一緒にいいですか?」


「え?」


「えっ、と、あっ部活の事で先輩に聞きたいことがあって、あっ、でもそれだけじゃなくてもうこんな時間だし暗いし先輩1人だと危ないっていうか…」


「私とでいいの?」

「えっ、先輩と帰れるなんて光栄ですっ」

「光栄って、ふふふ」



********************




もう巷では春一番やら桜の開花やらで

浮き足だっているようだ


しかしここではまだまだ春は遠い

冬化粧は一向に解けそうもない

そんな雪道を薄着の俺は進む

あの頃と少し変わった街並みが俺の目を引くが

それでもこの白銀の世界だけは変わらない




けれども思い出すのは

先輩と一緒にこの道を帰った

たった1年間だけだった



********************




「先輩っ」

「なーに?」

「あのっ、文化祭で俺のクラスに来てください」


「教室に?」

「ではなくて

俺のクラスの出し物が体育館で演奏なので」

「へぇー、クラスの出し物が演奏なの?」

「リコーダーですけどね」

「きみは何するの?」

「お、俺は自分の楽器で…」


「ふふふ、目立っちゃうね」

「それが案外、目立つわけでもなくて」

「なんで?」

「各自、好きな楽器で演奏するので

ギターは数人いるし、トランペットもいて」


「楽しそうだね」

「そうですか?統一感がまったくありませんよ」

「いろんな音が混ざって私は楽しいと思うよ」

「本当にごちゃ混ぜですよ

それでリズムなんかも合わなくて」



********************




ふと気づくと

いつのまにか俺の足は家路を逸れ

高校が目の前にあった

無意識でここまで来てしまった自分に

呆れてしまう


雪の中に鎮座する白い建物は

一見辺りと同化しながらも

俺にその存在感を顕にさせる


立ち止まり耳を澄ませると

しんとした空気に紛れて

楽器の音が微かに聞こえてくる




そうすると必然的に思い出してしまうのは

先輩との部活動だった



********************




「…では、10分休憩後通します」



ガヤガヤ



「あの、今質問してもいいですか」

「なあに?」

「さっき注意されたところで

感情を込めてってどういうことですか?」


「私この曲大好きなの

この曲どういう曲か知ってる?」

「えっ、知りません」

「この曲はね、片思いの曲なの」

「そうなんですか」


「元が英語の曲でね

I love you,but I said I like youって歌詞で

ここはそのフレーズなの」

「英語のloveとlikeは全く違いますもんね」

「そうそう、とってもロマンチックでしょ」




「まるで




ガッシャーン(俺のようだ)








誰ー?

楽器は大丈夫?


ガヤガヤ






「え、なんて?」

「いえ、なんでもないです」






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