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第二話 似た者憎悪同士

 ミュー回。


 まだまだヤンデレ成分薄めです。

 チラリ、と二階の、ちょうどお兄様の部屋がある辺りへと視線を向ける。もっとも、此処からは白い天井と其処から吊り下がっているシャンデリアくらいしか見えない。

……どうやら、お兄様は寝付いてしまわれたようだ。気配を探りつつ、ふぅ、と息を吐いた。

 やはり、お兄様はお疲れになっていた。お兄様と買い物という誘惑を断ち切ってまで、一人で行って正解だった。


 今日は体育のある日だ。お兄様の授業はサッカーをやっていたはず。

 危険なことはなかったはずだし、単にお疲れになっただけだろう。



「―――――――♪―――――――――――――――――♪」



 トントンと、リズミカルに包丁の音が聞こえる。

 料理は、好きだ。

 お兄様に喜んでもらうため。それだけのために、私は腕を磨き続けた。お兄様のお好きな料理や食材・調味料に味付けは勿論、お兄様の舌に合う温度や体調によって変わる食欲の度合いも、私は全て記憶している。

 栄養なんて、それ以前の問題だ。碌にバランスが取れていない腐った料理など、お兄様の御口に入れるわけがない。


 何より、食材は人間と違って捌くのに手間がかからない。

 人間ならおぞましい悲鳴を上げ、まるで羽を捥がれた蛾のようにジタバタと這いずりまわり、目、鼻、口から汚い体液を撒き散らしながら許しを請うてくる。何度見ても、吐き気がして……不快なほどに爽快になる。


 コトコトと音を立てるカレー鍋を見て、香りを嗅ぐ。……少し、スパイスが足りないか。

 準備は抜かりなく、そしてあの女からも注意を離さない。


テーブルを拭き、コップに飲み物を注いでいる銀夜ぎんやに声をかける。



「銀夜、首尾はどうなっている?」


「問題ありません、お姉様」



 銀夜は鬱陶しそうに私を見た。「話しかけるな」と目が言っている。

 当然、無視する。私だって、好きでお前なんかと口を利きたくない。



「いい加減、警察も諦めれば良いのに……連中は無駄しかすることがないのかしら」


「どんな無能でも、ここ一月だけで翠ヶ丘(みどりがおか)市に限っても数十人が行方不明になれば、何かあると疑うのでは? 

 全く、お姉様がいけないのですよ、脳筋なんですから……あれほど言ったではありませんか。消すならもっと慎重に動くべきだと。なのにお姉様ときたら、一夜で多い時には八人も……」


「仕方ないじゃない。引き籠ってお兄様のお荷物になることしかできない屑と違って、私はお兄様の敵が一秒でも放し飼いにされているのが我慢ならないのよ」


「……どういう意味ですか、それ」



 目を細め、銀夜がゆっくりと歩いてくる。



「料理の邪魔よ、消えろ」


「ふぅ、女の嫉妬は醜いですよね」


「……嫉妬?」


「今日、お兄様に頭を撫でてもらいました」



 トン、と包丁が止まる。私は顔を上げ、唇を噛み締めた。



「一つ年下の妹と比べれば、四歳下の妹の方がずっと可愛いに決まってますものね」


「何が言いたい?」



 目の前で嗤う雌豚を斬り刻みたい衝動を堪えつつ、お兄様を起こさないよう慎重に、小さな声で呟く。



「知っているんですよ? 私は生まれつき日に弱く、髪も傷みやすい。だから、ずっとお兄様がつきっきりで私の傍にいてくれました……そのことに、嫉妬している雌がいるということくらい」


 スッ、と。お兄様に聞こえないよう、出来る限り騒音を堪えながら……私は、銀夜に蹴りを叩き込んだ。

 ほぼ無音。しかし、並みの人間の腹を貫く程度には強力な蹴りを両手で受け止めた銀夜は、ニヤリと笑いながら拳を突き出してきた。


 それを紙一重でかわし、銀夜の関節を締める。



「カレーが焦げてしまいますよ?」


「雌豚の駆除には、一秒も必要ない」


「……もう約一秒経ってますけど?」


「そうね、此処は一時休戦が吉か」



 直ぐに鍋の前に戻り、カレーをかき混ぜる。雌豚に蹴りを入れるついでに切っておいた食材を投入し、再びかき混ぜる。



「まったく。お兄様の負担にしかなっていない雌豚が。貴女なんて、死んでいれば良かったのに」


「その御言葉、そっくりそのまま返します。それに、お姉様だってお兄様に迷惑をかけていたではないですか」


「……」


「優秀な天才妹……そのことで、両親も親戚も、お姉様ばかり可愛がっていましたよね? お兄様は妹より遥かに劣る出来損ないと蔑まれ、それでもお姉様の前ではいつも笑ってましたよね? そしてお兄様は……一人で、泣いていました」



 雌豚の語るそれは、忌まわしい記憶。嘗て持て囃され、天狗になっていた頃の自分。其れでいて、何食わぬ顔でお兄様に甘えてた自分。自分のせいで、お兄様がどれだけ苦しんでいたかも知らずに――――。

 叶うなら、過去の自分をくびり殺してやりたい。


 ある日、たまたま泣いていたお兄様と、お兄様を殴る親を見かけた私は全てを悟った。

 同時に憎んだ。

 天才と言われながら、何もわからなかった自分の脳に。わかろうともしなかった自分の心に。

 だから、私は――――。



「あいつらを、殺した」


「思えば、其れが面倒の始まりでしたね」



 ため息をつく銀夜。



「親族を全員黙らせて三人で暮らせるようにして、金の亡者どもを追い払って遺産の相続を済ませて……まったく、両親あれらを殺すのなら、せめてお兄様が働ける年齢になるまで待つべきだったのですよ」


「それまで堪えてろというの、お兄様が傷付けられるのを」


「殺さなくても、洗脳するとか馬鹿をけしかけて犯させるとか、手はあったんですよ」


「その程度でお兄様を傷付ける罪が消えるとでも? 大体、貴女も拷問には参加してたじゃない」


「私だって、腸煮えくり返る思いでしたから。お姉様が遊び始めたので、便乗しようかな、と」


「……銀夜、私は貴女が大嫌いよ」


「奇遇ですね、私もお姉様は大嫌いです」


「そう、私たちが信じるのは――――」


「「お兄様だけ」」



 同じように同じ言葉を呟き、私たちは睨み合った。



「……で、次は誰を?」


「そうね……あの傷女はどうかしら?」


躑躅堂つつじどう先輩ですか?

あれはもっと後に、もっと時間をかけてやるのでしょう?」


「……言ってみただけよ」



 思い出すだけで腹が立つ。まさか私の目の前で、お兄様に告白するなんて。

 お兄様がいなければ、即座に首をへし折ってやるところだった。

 本当に、殺したい。

……が、忌々しいことにあいつはお兄様とは知り合いだった。容易に消すわけにもいかない。


 そう、時間はまだある。



「だから、殺しはしないということよ」


「あー、そういうことですか」



 頷く銀夜は、その後笑って私を見る。



深雨みうお姉様は本当に怖いですね」


「貴女に言われたくないわ」



……結局は、姉妹ということか。






 う~ん、流石に二話目にして此れは早まったかな……いや、二人のキャラだとこうなっちゃうんですよね。


 次回は学園パートです。


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