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第一話 二人の妹

 こんにちは、皐月二八です。


 ゆっくりのんびり修羅場や拷問を書いていきたいです。

 私立蒼南(そうなん)学園高等部(どーでもいい注釈だけど、中国蒼南県とは一切関係ない)には、二大アイドルがいると言われている。

 一人はまぁ置いておくとして、もう一人は俺もよく知っている人間だ。



「お兄様」


「あぁ」



 校門前で待っていたミューに手を振ると、彼女はお嬢様らしく優雅に会釈した。

 長い。墨を塗ったような黒くて艶やかな髪と瞳。細身だけどスタイルは完璧で、ザ・大和撫子といった風貌の少女。

 いや、実際に大和撫子だけどねぇ。



「ミュー、息災かい?」


「お兄様の御顔を見れて、実に宜しいです」

 

「そっかそっか。うん、何より」


「では」


「ん」



 ほぼ毎日変わらない挨拶をしながら、俺は鞄を持ち直して歩き出した。その一歩後ろを、給仕のようについてくるのがミューだ。



「あ、晴渡せいと先輩、深雨みうさん、さようならー」


「ほい、さよーならー」



 野球服姿の一年生が手を振って挨拶をしてくる。俺たちも笑顔で手を振る。

 部活がある連中は大変だよな。まぁ、其れが楽しいんだろうけど。



「フフフ、お兄様は人気者ですね。ミューも嬉しいです」


「馬鹿言え。皆お前目当てだよ」



 ミューはモテる。其れこそ、高等部・中等部・小等部にまでその噂が広まっているくらいモテる。何しろ超が付く程の美少女で、おまけに一応社交的だ。性格も清楚で御淑やかで……うん。対面的には、問題ない……はず……なんだよなぁ。



「そうですか? それはそれは……不毛なことをしますね」



 ミューは誰もいないのを確認すると、直ぐに笑顔を消した。まるで、携帯の電源を切った感じで、カチリという擬音が聞こえてきそうなほど、瞬時に。



「私には、お兄様以外必要ありませんのに」


「……」



 ふぅ、と妹には聞こえないように溜息をつく。

 ミューは昔からそうだった。両親よりも真っ先に俺に懐き、何時でも俺の後ろをひょこひょこついてきた。

 親から何を言われても、決して俺から離れようとせず……もう一人の妹のことも、見向きもしなかった。

 もう一人の妹……ギンも、ミューの事を快く思っていないみたいだけどなぁ。

 そして、何故か俺以外の人間全員を敵視し、外面だけの笑顔を振りまくことくらいしかしなかった。


 当然、数え切れないほどの告白も一刀両断している。ていうか、ガン無視している。



「あ、お兄様。今日はなににしましょうか? 昨日は煮込みハンバーグでしたね。今日は……」


「ん、あ、そうだなぁ……うん、カレーが食べたい」


「わかりました。腕によりをかけておつくりしますね」


「ありがとう」



 我が家の家事は、主に二人の妹が担当している。基本的に炊事は交代交代、掃除・洗濯はギン、買い物はミューがやる……という分担が、何時の間にやらできていた。



「では、私は買い物に行ってきます」


「手伝おうか?」


「御気持ちだけで結構です。お兄様を煩わせる価値などありませんので」


「……そうか」



 名残惜しそうに俺に一礼したミューは、速足でいつものスーパーに向け歩いていった。






「おかえりなさい」



 玄関のドアを開けると、無駄に広い玄関にてギンが待ち受けていた。

 正座し、深々と頭を下げている。

 ミューと同じように長い、けどミューと対比するかのようにシミ一つない真っ白な髪がフローリングの床を這っていた。



「ただいま、ギン」


「はい、お兄様」



 立ちあがったギンは、深紅の瞳で俺を見つめた。彼女は先天性色素欠乏症アルビノだった。

 フリルのついた黒のゴスロリチックな服を着ている。此れも、いつも通りだ。

 身長は、長身で俺と然程変わらないミューと比べればかなり小柄だけど、服の上からでもわかる胸は中学生とは思えないほどに大きくて、ミューよりは小さいけど十分大きい。


……どうして、ウチの姉妹は二人揃ってかくも胸が大きくてしかも美少女なんだ。何時まで経っても慣れやしない。



「ギン、本当に何で俺の帰宅が分かるんだ?」


「お兄様の匂いが感じましたので」



クスクスと笑い、ギンは俺の鞄を手に取った。



「冷たい御飲物を用意しています」


「ん、何時もありがとう」



 ギンの頭をゆっくりと撫でる。彼女の髪は傷みやすく、容易にに触れるとすぐに駄目になってしまう。

 だから、ギンの髪はギンを含め、俺しか触れてはいけないそうだ。ちなみに、俺はギンが小さいころからいつも彼女の髪を洗ったり手入れしたりしていたから、扱い方にかけてはプロだ。

……うん、プロだ。プロだからといって、何だというわけでもないけどさ。


 ギンは日傘がないと外に出られない。彼女が超が付く程の人間嫌いということもあって、一応中学生だけど学校には通っていない。特例で、蒼南学園中等部の通信授業を受けている。

 身も蓋もない言い方をすれば、引きこもりというヤツだ。



「お兄様、宅配便が届いていますよ」


「ん、そっか」



 予約しといた本が届いたみたいだ。ギンから手渡され、[神ノ瀬(かみのせ) 晴渡せいと]の宛名を確認した俺は、ギンに御礼を言って包装を解いた。



「やったやった。手に入ったぞ」


「それは?」


「ん、ガーデニングの本」


「お兄様は、ガーデニングがお好きですものね」



 俺が家でする唯一の家事は庭いじりだ。もっとも、家事というよりは趣味の領域だけど。



「最近、家庭菜園に興味が出てきてね」


「それは素敵です。お兄様が育てたのなら、それこそ至極の美味しさになるでしょう」


「はは、ありがとう」



 嬉しい気分になって、俺は自分の部屋へと戻っていった。



「あ、掃除はしておきましたよ」


「……自分の部屋の掃除くらい、自分でやるっていつも言ってるんだけどなぁ……」


「お兄様のお部屋の掃除は、ギンの仕事です」



 胸を張るギンの姿に苦笑しながら、俺は今度こそ自室に引っ込んだ。






「ただいま」


「あ、おかえり」


「おかえりなさい、お姉様」


「ありがとうございます、お兄様……そして、銀夜ぎんや



 買い物袋をぶら下げたミューは、直ぐに着替えをしに部屋に向かっていった。

 ちなみに、ミューは家では和装が多い。名門のお嬢様らしい格好だ。


 まぁ、俺とギンはあまりそういう格式ばった格好は好きじゃないんだけど。


 暫くして、キッチンから料理をつくる音とミューの鼻唄が聞こえ出した。


……疲れたし、少し眠ろうかな。


 そう思って、俺はベッドの上で瞼を閉じた。






 次回は二人の妹たちのターンです。

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