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第一六話 イベント・チョイス

 本話より、蒼流祭の前段階の話に入ります。

 そしてその後は文化祭イベント。青春、青春。


 そして、彼女も動き始めます。

「……ということで、我々高等部2-Dの今年の蒼流祭クラス・イベントは……ビュッフェに決定しました」



 黒板前に陣取った雁飛かりとが淡々と告げ、右一ゆういちが黒板に書かれた「ビュッフェ」と言う文字の下に赤いチョークで線を引く。

 少し遅れて拍手、そしてノリのいい生徒の「おー」とか「いえーい」とかいう声。


 俺も、その中で拍手を送っていた。


 まったく、毎度のことながら、蒼流祭のクラス・イベントというのはどうしてこうもグダグダになるのだろうか。

 いや、碌に意見も出さずに静観していた俺が言うのも、お門違いかもしれないけれども。


 ビュッフェ。つまり立食パーティ。適当に軽食をつくって、適当に販売して、適当に食事場所を与える。そんな感じだ。

 何と言うか、アクティブな生徒が少ない我が2-D精神、ここに極まりだ。ゆるくて上等。楽しんだっていいじゃない、お祭りだもの。


 蒼流祭では、クラスと部活、さらに委員会と有志のサークルが別々にイベントを出す。部活や委員会に参加していない生徒は殆どいないから、殆どの生徒がクラスの出しものと部活&委員会の出しものの間を行き来しつつ、合間に自由行動をとる、といった感じになる。

 ちなみに、蒼流祭は七月一〇日から一三日にかけて行われ、一日目が市民文化ホールでの出しもの、二日目と三日目が学園での出しものになっている。


 高等部のみならず、ほかの部も参加するから、かなり大規模なマンモス祭りとなり、この市の名物の一つだ。



「それでは、次に各員の役割を決めたいと思います」



 しかし、消極性マックスの我がクラスも、出しものまで決まってしまうと、否が応でも積極的になる。……主に、楽なポジションにつくために。


 かくいう俺も、その一人というわけだ。ミューにも構わないといけないし、あんまり遅くなるとギンが心配だから。

 クラスメイトに話せば、絶対怒られる類の理由だが。いや、お前らだって同類じゃん、と突っ込めないのは、孤軍奮闘する者の悲哀だ。


 他にも躑躅堂つつじどうさんのこともあるし、美香月みかづきと一緒に図書館のイベント――――毎年恒例の古本市――――もこなさなくてはいけない。


 自由時間が程良く確保できる、そんなポジションにならないとなぁ。


 ちなみに我が蒼流祭のクラス・イベントでは、学年ごとに人気が出たイベントを選考し、表彰するというものもある。因みに、賞品はアイスクリーム。時期が時期だけに、生徒の身にはたまらない御馳走だ。やる気を出す生徒も少なくないわけで、その中でも例外が、我がクラスというわけで。



「おい、神ノ瀬(かみのせ)


「ん?」


「早く、ネームプレート貼りに行けよ」


「おっと」



 隣の席の湖崎こざきにせっつかれ、俺はゆっくりと黒板の前へと歩き出した。



「そうだな……」



 暫く悩み、俺は会計係のところに自分のネームプレートを貼りつけた。

 そして、結果は一次希望通りになった。



「それでは買出し係希望の人、ジャンケンで決定してください」


「お前料理できるんだから調理係やれよ、配膳係は俺がやるから」


「ええー、無理無理、味噌汁くらいしか自慢できねーっての」



 どうしよう、もうすることがない。

 隣の湖崎も決まってしまい、早々に鞄から本を取り出して読み始めている。


 俺もそうしようかと思ったが、もうじき六時限目のチャイムが鳴る頃だ。


 と、担任の加古島かこしま先生がパンパンと手を叩いた。



「そろそろ時間だ、後は放課後にしよう」



 それを皮切りに、全員席に戻っていく。



「マジかよ、部活あるのに!」


「仕方ないよね、アイディア全然出なかったもん」



 若干の不満も残しつつ。

 まぁ、俺は終わったけどね。






「ゴメン、遅くなったね。宇井うい君が最後までゴネてね……彼、結局調理係だよ」



 廊下で待っていると、雁飛が苛立ちを隠すように乱暴に鞄を華奢な肩にかけながら、大股で歩いてきた。



「御疲れ、右一は?」


武笠むかさ君かい? まだ教室だよ。男子連中と喋ってると思うけど」


「そっか、じゃあいいや。雁飛は今日、部活休みなんだよね?」


「あぁ、メンバー数人が喉をやってしまってね。テノール組が全滅さ。折角だし、休みになったよ」



 2-Dがある校舎のすぐ横には音楽棟がある。放課後、そこから漏れ聞こえてくる合唱が、この学園では一つの風物詩だ。



「それにしても、ビュッフェとはね。内装は如何したものかな」


「オシャレ女子組が何とかするだろうさ」


「……あのかしましい連中かい? 何となく業腹だね。ボクはあの手の人種が苦手だよ」


「はは、俺もだ」


「気が合うね、君とは」


「何を今更」



 茶化したようにそう言うと、雁飛は俺の顔を見上げ、フフッと笑った。



「ところで、ビュッフェというのはあれだろう? 立食パーティ。正直、あまり良い思い出がないね」


「料理に不満が? というか、リアルでパーティに出席経験のある高校生って、あんましいないと思うけど?」


「いや、料理はまぁ、舌鼓したつづみを打たせて貰ったよ。集まった連中が問題さ。やってられないね」



 ストレスがたまっているのか、雁飛は彼女にしては珍しく、投げやりな口調で鼻を鳴らした。



「この後は、深雨みうさんと?」


「あぁ、でも彼女は、今日買出しだから、すぐにわかれ――――」



 そこまで言って、俺は足を止めた。

 それに合わせて、雁飛も足を止める。


 視界に突然入ってきた、夕日差し込む廊下に突っ立っている生徒は――――。



「美香月……?」



 後輩の図書委員が、どことなく、夢心地な様子で立っていた。



「……セイ先輩、お時間、もらえませんか……?」



 その瞬間、隣の雁飛が歯を食いしばる音を、聞いた気がした。








 次話は図書委員とのお話。あと、そこに茶道部員も加わるかも。


 文化祭の話を書いていくとか、私的に胸熱です。こういうのが書きたかった。

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