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第一四話 合唱部員の考察

 お久しぶりです。


 本話は雁飛視点、次話は銀夜視点で二人を書いていきます。

 ドアを開けた後、ボクは思わず、客人である身分としてはあまりに失礼な態度だが、暫し呆然としてしまった。

 それは入った部屋があまりに散らかっていたから――――何て言うギャグ的なオチではなく、あまりにも、そう、あまりにも想定外すぎる光景が広がっていたからだ。


 部屋はいい。個人の私室のインテリアに、客人の身で文句を言うつもりなんてないし、そもそも言おうとも思わなかった。きちんと整頓された部屋は、誰が見ても難癖の付けようがない部屋だろう。


 ボクの目を奪ったのは……ベッドに腰掛けた、不思議なドレスを着込んだ白髪の少女だった。

 ゴシックドレスというのだろうか? 機能性などなさそうなそのドレスに包まれた少女は、まるで人形のようだった。飛切高価な西洋人形だ。

 瞬きをし、呼吸もしているにもかかわらず、一瞬でも人形ではないかと疑ってしまう程美しく――――無機物に近い、冷たさを感じた。



「……マツカゼ カリトさん」



 少女はゆっくりと、頭から言葉を引き出し、復唱するように呟いた。

 あまりに機械的だったため、その言葉の羅列がボクの名前だということに気付くのが遅れてしまった。



「銀夜さん、だったね? 初めまして、松風 雁飛だ。晴渡の親友をやらせてもらっているよ」



 晴渡の名を出すと、銀夜さんは一瞬だけ、紅い瞳を光らせた。

 予想通りだ。目を見ればわかる。彼女は、いや、彼女たち姉妹は、ボクと同類だ。


 こう見えても、ボクはそこそこ鋭い方だと自負している。

 しかしそんな僕でも捉えきれない存在が、神ノ瀬 深雨だった。

 晴渡の場合も、ボクはいい意味で彼の本質を誤った。ボクが思った以上に彼は世話焼きで、そして優しかった。


 しかし、彼女は違う。

 思うに、深雨さんは晴渡とは対極の存在だ。一体どういう環境で過ごせば一つの家族の中でこんな両極端の存在が生まれるのか、はっきり言ってわからない。性格の問題じゃあなく、性質・・の問題だ。


 そう。ボクと同じ、敢えて名前を付けるとすれば――――「闇」の存在だ。

 別に格好付けているわけじゃあないよ。理系のボクは、ボキャブラリが結構少ないから、これ以外にこの属性を示すいいワードが思いつかないんだ。

 いや、名前なんてどうでもいいか。



「……初めまして」



 銀夜さんはそう言って、クイッと手招きし、床を指さした。クッションが置かれている。

 そこに座れ、というところだろう。


 そう解釈して、ボクはゆっくりと室内に足を踏み入れた。

 さぁ、斥候となってみせようじゃあないか。






 晴渡は、あまり家族の話をしたがらない。とは言えボク自身、晴渡の事について根掘り葉掘り調べようとも思わなかった。――――深雨さんが現れるまでは。


 いや、噂には聞いていたんだ。とっても可愛い女の子がいて、それが晴渡の妹だということくらいには。現に晴渡に「深雨ちゃんを紹介してくれ」なんて下心丸出しの頼みをした男連中など、今まで何回も見てきた。本当に呆れるほどにね。


 その情報は、ボクにとって晴渡がクラスメイトから親友にアップしてからは重要度がグンと増した。親友の家族が同じ学校にいるんだ、顔くらい覚えておいても罰は当たらないだろう――――当時のボクの心境と言えば、おおむねこのようなものだと思ってくれればいいはずだ。


 しかし、そんな想いは、実際に対峙して吹き飛んだ。

 わけが分からない。それが、ボクの頭に浮かんだ最初のフレーズだった。うん、絶対あの時は混乱していたんだ。とは言え、ボクは人見知りする方でもない。……何故混乱したのかは、すぐにわかったよ。


 怖い。異質なこの存在が、この「怪物」が怖い。

 素直にそう思ったんだ。

 性格が怖いとかそういう次元ではない。まるで突然断崖絶壁に連れられ、荒波が迸る海に向かって突き落とされようとしている。足がすくみ、背筋が凍り、涙が自然と流れる。例えるならば、そんな感じだったろうね。



「晴渡が危ない」



 次にボクが思い浮かべたのが、これだ。当時のボクは、深雨さんのこの「怖さ」の矛先が晴渡に向く可能性に気付き、怯えていたんだと思う。


 しかし、晴渡に接する深雨さんの様子を見て、すぐに違うと分かった。

 深雨さんの発する「怖さ」は、晴渡を見事に避けているんだ。別に晴渡が鈍いわけじゃあない。彼からすれば、彼女が……生まれた時からずっと家族として共に過ごしてきた深雨さんがまさか自分以外に「怖さ」を振りまいているなど、わかるはずもない。


 しかもその「怖さ」は、余程勘が鋭い第三者でもない限りは気付かないし、気付いたところで然程深刻には受け止めないだろう。他者との関係を憂うのは、思春期の女の子にとっては当たり前の事ですらあるからだ。


 本来なら、ボクもそう思っていただろう。しかし、ボクは何故か深雨さんの「怖さ」を感じ取った。そして、その山勘以外の何物でもない動物的本能を、そっくりそのまま信用した。何故かは本当に分からないんだ。女の勘というか、第六感というか。

 当然説明しろと言われたところでできないし、言うつもりもなかった。


 極論を言えば、晴渡にさえ危害が加えられないのなら、他の誰かを助ける意義など欠片も見いだせないからだ。深雨さんが他者をどう思おうが扱おうが、それは彼女の自由だ。ボクが口出しをすることではないからね。


 とはいえ、ボクはこんな「怪物」が晴渡を憎く思っていないことに心から安堵した。でも、それはすぐに焦燥へと化けることになる。

 深雨さんは明らかに、家族以上の愛情を晴渡に注いでいる。「怖さ」の中、巧みに彼にだけは、深雨さんは本当の愛情を捧げているように感じられた。


 その時、確信した。何が異質な怪物だ。何がわけが分からないだ。彼女は僕と同じ。彼に惹かれた、誘蛾灯に誘われた蛾なんだ。


 こうなると、あとは明るい光の取り合いだ。どちらかが諦めるか、力尽きるか……そんな単純な話だったんだ。


 そうなってみると、途端にボクの中に焦りが生じる。一緒に住んでいて、共に分かち合ってきた時間も比較にならない。顔やスタイルもボクなんかよりはずっといい。はっきり言って、考えれば考える程にボクは不利だった。


 しかも、だ。

 晴渡の話を聞く限り、彼にはもう一人妹がいると言う。その妹も、聞く限りでは相当に晴渡に懐いているようだ。……いや、懐いているで済む話なのか?


 そう思い、ボクは、本来なら接点など生まれようはずもない、引きこもりの少女と出会う道を模索することとなる。



「……さて、銀夜さん。少し、お話をさせてほしいのだけど――――」






 雁飛のコンセプトは「真面目に恋愛を捉える親友」。主人公と恋人になりたくて、主人公に盲目的になりながらも理性的に努力し、冷静に客観視して主人公との仲を進展させようとする。

 そんな、真面目に恋する女の子が雁飛です。

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