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第一〇話 闇夜の憤怒 後編

 姉妹二人の日常です。

 少しアグレッシヴになったミューをお楽しみください。

 “夜のとばりが下りる”という言葉がある。

 翠ヶ丘市の闇夜は、まさにその言葉を体現したようだった。

 ビルが立ち並び、眠らない街さながらの夜景を演出している地域はほんの一握りで、しかも、私たちの家とは少し距離がある。

 つまり家の近辺は、それこそ街灯と星くらいしか目立たないような場所だ。


 そんな中を、私と銀夜は駆け抜けていた。

 駆け抜けるといはいえ、別に全力疾走しているわけでもない。必要もない。

 マラソンのように、ペースを崩さず、程良い速度で駆け抜けていく。


 二人揃って、そこそこ目立つジャージ姿だった。銀夜は、夜でも目立つ白い髪を束ね、さらに黒のキャップ帽を被っている。

 そして、首からライトをぶら下げて、先を照らしていた。

 不必要に周囲を警戒し、目立たないような格好で闇夜を歩くよりかは、こうやって堂々としていた方が自然だ。

 警察官の巡回もあるが、“闇夜”とはいえもう一、二時間かすれば、黎明を迎える時間帯だ。早朝ランニングで十分通じる。



「朝食の仕込みは出来ておりますが……本当に今日、やるのですか?」



 銀夜の問いかけに、私は思わず顔を顰める。

 やはりこの女は、慎重すぎるきらいがある。その上、屑共を侮っているのだから始末が悪い。



「黙れ。あいつ(・・・)はやるつもりだったのよ……少し見誤っていたわ。あいつは想像以上に短絡的だった」



 まさか、放課後いきなりお兄様を呼び出そうとするとは思わなかった。念には念を入れ、注意しておかなければ、最悪あの屑とお兄様が会話をするような事態になっていたのかもしれない。

 その際、もしあいつがお兄様に暴言の一言でも吐き、殴りかかりでもすれば――――想像しただけで、恐怖と怒りで腸が煮えくり返りそうになる。


 運が良いことに、その場で“処理”できたが……銀夜には、その経緯について話していたはずなのだが。

 全く、お兄様以外は莫迦ばかりだ。



「それはわかります。私が言いたいのは――――」



 其処まで言い、この白髪莫迦は私を睨んだ。



「――――もっと、苦しませるべきなのではないか、ということです」


「……」



 そのことか。

 此の女は、相変わらず拷問好きだ。両親あいつらを殺す際にも、兎に角一秒でも長生きさせようと努力していたのを思い出す。

 私には理解できない。拷問のためとはいえ、屑を視界に入れている一分一秒が苦痛なのだ。

出来るだけ短い時間で、出来るだけ苦しめる。それが、私のスタイルだ。



「……そうね……じゃあ、先に私がやるから見ていなさい。残りカスを貴女にあげるわ」


「……せめて、心臓は動いている状態でくださいね? 前みたいに、脳だけ生きている死体を渡されても困るのですが」



 私のことなど、カケラも信じていない目で見てくる。まぁ、其れは私も同じだから文句は言わない。

 そもそも、お兄様以外は信じる必要性がない。






 家からさほど離れていない、広い場所。周囲にはまだらにある民家と里山くらいしかない。そこが、此の廃工場の立地場所だ。

 莫迦な連中が莫迦をやらかし、其れを莫迦がさらに塗り固めた結果が、需要など皆無で取り壊されもせず、放置されている廃工場である。

 取り壊しは殆どされず、備品・資材の撤去も開始して暖気運転も終わらぬうちに中止され、余程の危険物でもない限り、手付かず状態で埃を被っている。


 中は複雑で、密閉すれば音も光も漏れない。様々な機材があり、海にも近い。

 “処理”するには、まさに絶好の場所というわけだ。我ながら、こうも都合の良い場所が見付かるとは良い意味で想定外だった。

 私は神など信じないが、まさにこの“処理場”は天からの恵みだった。

 まぁ、神程度などお兄様に比べれば、何の価値もない塵に過ぎないから、礼もしないが。



「…………」


「…………」


「…………」



 其処のとある一室にいるのは、まず私。

 そして、私の後ろで椅子に座り、足をぶらぶらさせながら、本を読んでいる銀夜。

 最後に、お兄様を呼び出そうとした、此の屑。


 やはり、昼休みに告白を受けた時点で消しておくべきだったと反省しつつ、私は倒れているソイツの脇腹に蹴りを入れた。

 それ程強く蹴ったつもりはないが、屑の身体は大きく吹き飛び、多数のドラム缶が置いてあった場所に突っこんだ。

 大きく音を立て、ドラム缶が倒れて転がる。



「――――――ッチ。回収するのが面倒臭い……」



 独り言を呟きながら、私は既に何十回も蹴り、襤褸ボロ雑巾のようになった屑を見下ろした。

 いや、こんな呼び方は、襤褸雑巾に失礼だろう。襤褸雑巾には、襤褸雑巾なりの使い道がある。

 が、コレは存在する価値もない害悪だ。


 まったく、世の中というのは腐っている。

 何故、こんな輩がお兄様の廻りに集まるのだろうか。


 銀夜との約束で殺してはいけないので、本気の一割も出せない状況だ。殺意と力を抑えるのに、無駄に力を使ってしまう。



「お姉様、静かにしてください。いいところなんですから」



 口を尖がらせ、銀夜は恨めしげに此方を見てきたが、そんなことに意識を向けるのも億劫だった。

 無視して、使い古された裸電球を屑の口に捻じ込み、“処理”用の靴を屑の身体に当て、身体を起こさせる。

 辛うじて意識が残っているだろう、醜く歪み、煤と埃と血に塗れた汚い顔を此方に向けてきた。

 怖気が走り、思わず力を入れてしまった。


 屑の顔、正確には裸電球に爪先を当てるような蹴りを繰り出す。

 電球が割れ、飛び散った破片が屑の顔や身体を引き裂く。


 私の方にも飛んできたが、少し身体を逸らして避けた。

 後ろで何か音がしたので振り向くと、銀夜が本を閉じ、片手で破片を持って此方を睨んでいた。

――――当たらなかったか。

 まぁ、当然か。


 銀夜は態とらしくため息をつき、再び本を広げた。

 私も、次に進もうか。



「……テメェ、何勝手に寝てんだよ」



 ぐったりしている屑の顎を蹴りあげ、さらに何度も蹴る。

 コレが壁に叩きつけられるたびに、老朽化している壁が悲鳴を上げるが、そんなものは気にならない。

 寧ろ、壁が壊れずに済んでいるのだから、理性が感情を見事に抑え込み、力を十分に加減していることが成功しているという意味では、壁が上げる悲鳴は耳に心地よいとすら言えた。



「――――――ハッ。ったく、テメェみたいな屑に、何で告白なんてされなきゃいけねぇんだよ!」



 だからせめて、声くらいは。煮えたぎっている此の思いに、少しでも冷や水をぶっかけようと努力しながら、私の脳は短絡的に、思った通りの言葉を口に送り、吐き出させていく。

 腕、脚を踏み潰し、指を踏み躙る。

 返り血でべっとり濡れてしまう“処理用”の靴は、どうせ使い捨ての安物だ。同じものを、すでにバッグに入れて持ってきている。

 ジャージの方も、入念に洗濯しているし、まさかお兄様の御前でジャージ何ぞ着れるわけがない。

 体育祭中でもない限り、お兄様に御見せするのは制服、和服くらいだ。



「……な……で……」


「あ? 何でだって? ハッ! 決まってんだろ、テメェがお兄様に、近付こうとしたからだよ!!」



 屑の急所を潰し、私は告げる。自分が犯した罪にも気付かない、子羊にも劣る塵芥に。

 お兄様に近付く者には、私は常に疑念と殺意を持ってきた。其れは、此れからも変わらない。

 老若男女誰だろうと、お兄様に近付く者は全て、消すべき存在だ。


 それでも、お兄様が寂しがるから、お兄様に何かしようとしなければ黙認してきた。

 そのせいで鬱陶しい蠅が集ってきたが……勿論、お兄様を責めるようなことなどしないし、出来ようはずもない。

 私はお兄様のために、唯お兄様に捧げ尽くすのみだ。



「あ……が……」



 完全に動かなくなった屑を見下ろし、銀夜を見る。

 愚妹は大きく息を吐いて椅子から飛び降り、そこらへんに転がっていた木の棒を足で蹴りあげ、右手で取る。



「……漸くですか。夜明けまであまりないですね………………。

 では、此れから貴方にはバラバラになってもらいましょう。まずは四つに。最後には三〇程にバラけてもらいますよ。

 そして最後は、屑に相応しい汚れきったヘドロの海の底に沈めてあげますよ」



 其の儘高速で飛びかかり、木の棒で肉を打つ音を奏で始める白髪の愚妹。

 すでに私の興味は、今日お兄様に御造りする弁当の献立に移っていた。






 何回も書き直し、本気で悩んだ結果がコレです。

 まぁ、まだ序盤ですし……ね。


 ウォーミングアップくらいにはなりましたかね? ヤンデレの。

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