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第一章:第八話:それぞれの理由

 まずはじめにbibliomania様。


 誤字のご指摘ありがとうございました。


 引き続き、誤字脱字の報告、感想受付中です!


 とりあえず息も絶え絶えになっていったロートを治癒魔術で回復させるヴィント。


「ん、これで治ったと思うが具合はどうだ?」


 横ではアプリルも心配そうにしている。


 彼女にとってはロートたちが命の恩人なのだから。


「ああ、問題無し。それにしても治癒魔術まで使えるとは……随分とオールマイティだな、お前。」


「まァ、な……さて、改めて言うが、ロートには俺の母親……シエロの護衛をしてもらいたい。」


「……確かに言うことを聞くとは言ったが、そういう長いスパンの命令じゃなくて、もっとすぐ済ませられるような命令はないのか?」


「無い。」


「サイデスカ。」


「……くす。」


 二人のやり取りを面白そうに見ているアプリルだった。


「俺の母さんは王宮で今、孤立無援状態なんだよ。今までも暗殺なんか後を絶えなかったんだが、俺と二分だった矛先が全部母さんに向かうとなるとちょい心配でな。」


「……お前、マザコンか?」


「マザコンと言うほどのもんじゃないが、俺を大切に育ててくれた人だ。心配するのは可笑しいことじゃないだろ?」


「そりゃ分らなくないが……ならお前が守ってやればいいじゃないか。」


 どこか複雑そうな顔をするロートを気にしながらも言葉を続けるヴィント。


「それができないからお前に頼んでるんだよ。」


 ヴィントはロートに父親探しの旅に出ることになった経緯を大まかに話す。


「……あれ? あの、質問いいですか?」


 おずおずといった感じのアプリルが律儀に手を挙げる。


「ん? どうぞ、お嬢さん。」


「えっと、ヴィント様の父親でシエロ様の旦那様ってフェルシュング様じゃありませんでしたか? どんな方かは知らないですけれど…」


「あぁ……それね。それは、違うんだ。フェルシュングってのは、名前だけの架空の……元々この世にいない人間だ。」


 それから俺のことはヴィオって呼んでくれ、ついでに様もいらないし敬語も要らないから、とヴィントは言った。


「あ、判りまし……じゃなくて、どういう事ですか? どうしてそんな国民を騙すようなことを…?」


「あぁ、実は―――」


 結局、敬語が抜けていないアプリルに苦笑しながら、ヴィントはシエロから何度も聞かされた二人の出会いを簡潔に話す。


「―――で、そんな不祥事が国民に知られたら王家の信用が落ちてしまうって心配した元老院がフェルシュングって架空の人物が出来上がり、そいつが俺の父親ってことになってるのさ。」


 そして、元老院との確執も説明する。


「ということで、俺は今朝旅だったわけさ。……勝負に勝ったのに俺のことダダ漏れだな。」


 ロートが出してきた条件に結局応えていることに気付いたヴィントは苦笑する。


「んじゃ、ついでに強さの秘密も教えてくれよ。」


 自分より年下のヴィントの強さの秘密が気になっていたロートはついでとばかりに便乗する。


「なら、こっちからも条件が一つある。」


「ん、なんだ?」


「どうして義賊なんかしてるんだ?」


 ヴィントの言葉にロートの表情が曇る。


「どうしても知りたいことか、それは?」


「……無理に、とは言えなさそうだな。ただ気になっただけさ。」


 ロートの心情を悟ったヴィントは伸びをして立ち上がる。


 どことなく微妙な雰囲気になり、複雑そうな表情のロートと立ち上がったヴィントを交互に見てオロオロするアプリル。


 それなりに時間が経ったにも関わらず、いまだに目を覚まさない二人の仲間を見つめるロート。


「……俺たちは捨て子だったんだ。」


 ぽつり、と独白のように喋り出したロートに二人は視線を向ける


「ロート……」


「決して気持ちの良くない昔語りを結果的には、お前にさせたんだしな……俺の話も面白おかしいモンじゃないぜ。」


「……」


 ロートの昔語りが始まった。




 † 

   †

     †




 北の大国、ノルデン帝国が俺らの生まれ故郷さ。


 お前ならノルデンの情勢もある程度判るだろ?


 まァ、俺は運の良いことに良識ある領主の治める領地のある孤児院の前に捨てられて、そこで育った。


 あいつらも同じさ……最初の頃は贅沢な暮らしからはかけ離れていても、優しい院長と血は繋がってなくても家族のようなみんなと笑顔で毎日過ごしてた。


 今から十年ぐらい前か……俺らが十二歳になった頃、領主が亡くなってその息子が新しい領主になったのが、ささやかな倖せの毎日の終わりだった。


 新たな領主は多大な税を徴収して私腹を肥やすクズ野郎で、今まで少しながらも援助してくれてた前領主と違い、税を納めるように言ってきやがった。


 俺たちは必死に働いて孤児院を維持させようとしたけど……そんな中で院長が体を壊した。


 なんとかギリギリで運営していた孤児院も院長が倒れてからは……それは悲惨なものだ。


 ギリギリの稼ぎじゃ足りないと思った俺は、孤児院の中でも腕っぷしの強い奴らを集めてアンペルを結成したのさ。


 帝国内でばかり暴れると孤児院に被害が及ぶと思った俺たちは大陸中で盗みを働くことにした。


 あくどい領主や貴族、商人の奴らの金を奪うってな。


 その道程で帝国内だけでなく大陸各地にも同じ境遇にいる人たちがいることを知り、自分たちの孤児院だけでなく、他の困っている人たちも……ってな。


 それが義賊をやっている俺らの―――




「―――始まりだ。」


 ロートの話を聞いていたヴィントは黙り込み、アプリルは涙ぐんでた。


「ぐす、ヴィオさん、ロートさんたちに義賊をさせてあげましょうよぅ……」


 否、号泣だった。


「それでも良いが、ロートの所の領主はそのまま私腹を肥やすだけだぞ。」


「それは……」


 ヴィントの言葉にアプリルは黙り込む。


 ロートたちが一番許せない領主は結局、なんの痛手も負わせることができないのだ。


「俺もそれは納得いかないが、孤児院に迷惑は掛けられない。」


 孤児院の為という大義名分はあっても殺しだけはしないアンペル。


 血に塗れた金などで孤児院を再建させたくはないからだ。


「俺に任せな。その葛藤を晴らしてやるよ。」

 ヴィントはニヤリと笑うと宙空に魔法陣を描き始めた。


「どうする気だ?」


「そういう手合いは上からの圧力に弱いってのが相場ってことだ。」


「「?」」


 ヴィントの意味深な言葉にクエスチョンマークを浮かべる二人。


 そんな二人を尻目にさらさらと直径五十センチほどの魔法陣を描き上げ、魔力を通す。


「よし! 繋がった。」


『……今、執務中なんだけど、ヴィオ。』


「まァ、そう言うなって……リンケ。」


 魔法陣から気怠しそうな声が聞こえる。


 その声の主に対して気軽に声を掛けるヴィント。


「ちょ、オイ……リンケってあの?」


「誰ですか?」


 声の主の名前を聞き、小声でかつ叫ぶという器用な真似をするロートとその声の主を訊ねるアプリル。


「要はノルデン帝国のお偉いさんだ。」


「ふぇーすごい人ってことですね。」


「ああ、すごい人だ。どうすごいかって言うと―――」


 傍らでどこか間抜けな会話をしている二人を半ば無視して話を続けるヴィント。


『そんなのはこの国じゃ日常茶飯事なんだけど……』


「それを無くそうとしている人間の言葉か、それ。」


『冗談だよ。判った、近日中に対応しておくよ。』


「サンキュー。 今度菓子折りもって顔だすわ。」


『遠慮しておく。貸しにしておくからいつか倍にして返してよ。』


 リンケの言葉が終わると同時に魔法陣が消える。」


「あ、あの野郎……強制解除しやがったな。」


 ヴィントは宙空に恨み節を呟く。


 気持ちを切り替えて振り返ると何故か魚の料理方法について話し合う二人。


「何話してんの?」


「魚の美味しい食べ方についてだ。」


「あっそ……孤児院についてはもう安心していいぞ。あいつなら領主に何かしらの制限をかけて助成金も出してくれるだろ。」



「本当か!?」


「ああ、だから安心して王宮に行ってくれ。」


「おうよ、任しておけ!」


 後顧の憂いが無くなったロートは威勢の良い返事をする。


「期間は……半年。半年で俺は父親を見つけて帰ってくるから、それまで母さんを頼んだ。」


「了解。……あ、そういえばお前の強さの秘密を聞いてないぞ。」


「ん? それなら母さんに会えば判るさ。あの人が俺の師でもあるから……剣技と魔術の、な。」


「……なあ、その人に護衛いるのか?」


「一応さ。さて、あいつ等を起こしてやるか。」


 ヴィントは倒れたままであるアンペルの二人と盗賊たちを見やる。


「そういえばあいつ等、あの騒ぎの中でよく目を覚まさないな……」


 ロートが当然の疑問を投げかける。


「俺が魔術で強制睡眠掛けてるからな。俺が効力を解かなきゃ目は覚まさねーよ。」


「なら、何で俺は目を覚ませたんだ?」


「唯一俺のことを認識してから気絶したんで魔術は掛けなかったんだ。」


 しれっと、三対一はキツイしな、と言って歩いていくヴィントに唖然とするロート。


 その後、ヴィントはアンペルの残り二人と盗賊たちを叩き起こした。


 アンペルの二人には大部分を端折っての説明をし、盗賊たちを途中の街で軍に引き渡すようにと話す。




 † 

   †

     †




 オステン側の森の出口までロートたちを見送りにきたヴィントは、離れていく背中に向かって声を張り上げる。


「それじゃ頼んだぞっ、ロート!」


「お前も父親探し頑張れよっ、ヴィオ(・・)!」


 初めて愛称を呼んだロートに、アイツ……と小さく口の中で呟いた。


「さようなら~」


 アプリルも大声で別れの挨拶をする。


 そこでヴィントは頭の隅に追いやっていたことを思い出す。


―――この娘のことすっかり忘れてた。この後どうしようか……


 名前しか判らない少女は健気に背中が見えなくなるまで手を振っていた。


 これで第一章は終わり、かなぁ?


 区切りが良いところで終わらすとなると、もう一話書かないといけないと思い、急ぎ足で書き上げた結果、今のところ最長になりました。


 そして、アプリルについて触れてない。(汗)


 それと、補足したいことが……


 もう一話続けるか、間章に回すかは書き上げてから決めます。


 でも、一段落は着きました。


 次話もよろしくお願いします。

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