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第一章:第四話:白昼に響く悲鳴



 そうしていたのが数十秒か数分かは分からないが、我に返ったヴィントは国境を越えてシェントゥルム共和国へと向かうために手綱を握る。


 太陽は真上まで昇ってきたが木々や葉に生い茂った森の中の道には木漏れ日が漏れる。


 ヴィントは木陰で昼食と馬の休憩を取り、寝転がって大陸の地図を広げる。


「ハァ……しかし、本当に親父なんか見つけられんのか? う~ん……」


―――手がかりは名前と髪と瞳の色だけ……名前はヴォルケ。銀髪で蒼眼紅眼と……容姿はかなり特徴的だから大陸中を虱潰しに探すしかないな。


「死んでないのは確かだろうけど……」


 ボソッと呟いて瞼を閉じる。




 † 

   †

     †




 《王認紋》を持ち《調律》を終えていない子どもの父親が死んでいる場合は最低15、6歳には竜の意志の働きかけがあるものだがヴィントにはそれがまだ来ない。


 という事は、父親がまだ生きている証明になる。


 よって、竜の意志による《調律》は期待できず、父親の手による《調律》をしなければ、いくら覇王竜フォーアヘルシャフトアインスの再来と呼ばれても竜を世界に顕現させることができず、王になる資格が認められない。


 そのことでヴィントは父親がすでに死んでいることを期待していたがその期待は裏切られ、元老院を喜ばせた。


 元老院としては決してヴィントに王位は継承させたくなく、《王認紋》の顕現ができなければどんなに素質があろうが国民からの支持があろうと、王位継承の大前提が成立しないからだ。


 邪魔者であるヴィントは幼少期から今に至るまで元老院からの暗殺の危機に晒され、ヴィントの封印の解除を終えた時からはシエロも暗殺の危機に晒されるようになった。


 封印を解除する前にシエロが死ねばヴィントの封印は確実に解除され、父親が死んでいればザルツとヴァッサーの例のようにヴィントも正式な王位継承者となり、国民の支持の高さからもヴィントの次期国王への声を止めきれないと元老院は考えていたが、それも杞憂に終わったからだ。


 このままケーニヒ王が亡くなれば王位はマールの第一子であるザルツが継ぐだろう。


 ザルツ自身はシエロには興味を持っていないがヴィントには劣等感を持っている。


 性格は気高いので暗殺などをたくらむことは無いが、元老院のたくらみからヴィント達を擁護することもないだろう。


 そうなれば、二人の生きる道はほぼ閉ざされることになる。


 二人の能力がずば抜けて高くても、ゼクレなどの一部の協力的な使用人なかまがいるとしても、権力を持った敵意のある人間の悪意というモノは防ぎきれない。


 生き辛い世界を変えるためにヴィントは父親を探しに行くことにした。




 † 

   †

     †




 木漏れ日から漏れる太陽の光を瞼の裏に感じ、ヴィントの意識が落ちようとした時……


「きゃぁぁぁーーー」


 森の奥の方から静寂をつんざく悲鳴が聞こえ、沈みかけていた意識が浮上する。


―――若い女性の悲鳴……何かあったのか?


「聞こえたからには無視はできない、か……せめて最悪の事態にはなってくれてるなよ。」


 ヴィントは怠慢な動きで頭をボリボリと掻きながら起き上がり、目を見開く。


 紅の双眸が猛禽類を思わせる鋭いそれに変わり、森の奥を見つめると傍らにいる馬には跨らずに駆け出した。


 一歩、二歩と足を踏み出すとその速度は馬が走る速度と遜色なくなった。


 さらに木の幹や枝を器用に伝い、森の中を駆け抜けていく姿はまるで忍者のようだ。


 駆け出して数分に満たないぐらいの頃、ヴィントの視界に数人の男と一人の少女の姿が映りこんだ。


 遠目から見たところ、少女に怪我や着衣の乱れはなさそうなのを確認したヴィントは、手ごろな木の枝に立ち止まり、瞼を閉じると深呼吸して呼吸を整える。


 しかし、次に目を開けた時にヴィントの目に映りこんだのは、少女が地面にへたり込んでいて、三人の男が少女に迫ろうとしている瞬間だった。


―――クソッ! 何で気を抜いた、俺。修練中にこんなところを母さんやゼクレが見ていたら拳か魔術が飛んでくるぞ!


 思考は一瞬。


 ヴィントは数十メートルあった距離を一瞬で詰めたかと思うと、四人が知覚する前に先手を打つ。


怒りの雷(エルガーン・ドナー)


 ドッシャーーーン


 稲光と共にけたたましい轟音が森に響き渡る。


 ヴィントが膨大な魔力に物を言わせて使った魔術は、本来なら雷の精霊に呼びかけるための詠唱を飛ばし、魔術名を唱えるだけで世界に魔術を発動させる無詠唱だった。


 無詠唱は普通に詠唱した時よりも倍から数倍近い魔力を消費し、発動も不安定になりやすい部分があるが、速効性に優れた高等技術であり、基本的には遠距離戦や前衛をつけて詠唱時間を稼ぐ戦闘を常識とする魔術師が、接近戦での高速戦闘にも一人でも対応できるようにしたものだ。


 そんな中で、ヴィントの発動した魔術は一般的な“怒りの雷”となんら遜色が無いどころか威力も規模もそれを大きく上回っている。


 ヴィントの“怒りの雷”の発動を知覚した時にはすでに手遅れ。


 火や水などの属性を持つ魔術の中でも最速の雷に二人が地面に沈んだ。


 ただ一人だけが“怒りの雷”の効果範囲から逃げられたようだ。


「よく避けることができたな。完全に不意を突いたと思ったんだが……」


「ゼェゼェ……何なんだ、テメーはよッ!?」


 突然木の上から現れたヴィントに声を荒げる赤毛の男。


「悪党に名乗るほど俺の名前は安くはないんでね。お前も沈め。」


 ヴィントは男に一瞬で迫ると、鳩尾に拳を叩き込む。


「うがっ……」


 ドサッと音を立てて倒れこんだ男に一瞥をくれると、先ほどから静かな少女に目を向ける。


 すると、少女は座ったまま気絶していた。


 どうやら“怒りの雷”の稲光と轟音に驚いたようだ。


 ヴィントは少女の元へ歩み寄り、少女を横に寝かせる。


 どうやら、気絶から睡眠へとシフトしたようで、スヤスヤと寝息を立てている。


「まァ無事のようで何より……ん?」


 今までは少女と男たちしか見えていなかったがよくよく周りを見回すと気絶している四人以外に、明らかな野盗といった風貌の男たちが十数人倒れていた。


「……あれ?」


 改めて先ほどの三人を見直すヴィント。


 こちらは野盗とは違う服装。


「もしかして、少女を襲う三人組じゃなくて、野盗に襲われる少女を助けに入った三人組だったりして……」


 その場に立ち尽くすヴィントだった。




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