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第一章:第三話:隔世された意思




大陸暦1348年


 オステン王国の王城を後にしたヴィントは手綱を操り、ビューネ大陸の中央に位置するシェントゥルム共和国へと、できるだけ人目に付かないように大きな街道や町は避けながら向かう。


 格好も王族が着る煌びやかな服装ではなく、町に住む少年が着るような服装である。


 午前中一杯を急ぎ足で駆けたので、現在は国境付近にある森の入り口へと差し掛かった。


 ヴィントは手綱を引き寄せて馬を止め、今まで駆け抜けてきた道を振り返る。


 とっくの昔に王城は見えなくなっているが、自分の国を目に焼き付けようとして……


 国を出ることはもちろん初めてではなく、王家の人間として他国での式典に参加することも過去に何度かあったが、こういった形で国を出るということに感慨を覚えるヴィントだった。




 † 

   †

     †




 ヴィントの生まれ育ったオステン王国は、海と大地に恵まれ、人々の活気に溢れた国で、そこを統治する代々の国王の善政により、国民による王家への信頼も厚い。


 特に現国王のケーニヒ王は獅子の《王認紋》を持ち、政治に軍事と極めて卓越していることもあり、国民からは尊敬を込めて、他国からは畏怖を込めて獅子王レーヴェと呼ばれている。


 しかし、そんな獅子王レーヴェケーニヒも寄る年波には勝てず、さらにここ数年は病に伏せており、医者からも先は長くないと宣告されている。


 そのことで現在、オステン王国では後継者問題が起きている。


 ケーニヒ王には、ヴィントの母親であるシエロとその姉であるマールの二人がおり、王位を継ぐためには王家の証である《王認紋》の発現が絶対の条件である。


 現王家は竜の意志に気に入られているらしく、国王と次期後継者の二人だけしか発現しないというのが多い歴史の中で《王認紋》の発現が多く、長子のマールには狐の《王認紋》、次女であるシエロには蜂の《王認紋》が現れており、その子ども達も発現している。


 生物の格に多少は左右されても、基本的には長子や国王に一番近い血縁の者が王位継承するので問題は起こらないはずだった。


 問題になっているのはマールとその入り婿であるシュトラントが十五年前に事故に遭いこの世を去ってしまっていることである。


 次女のシエロは過去に起こしたある事件によって王位継承権を放棄させられている。


 そんな中でケーニヒには《王認紋》が発現している孫が三人いる。


 それがマールの息子であるザルツとヴァッサーとシエロの息子であるヴィントである。


 それぞれケーニヒとの血縁の近さは同じであり、《王認紋》も発現している。


 ここで問題になっているのが《王認紋》の格とその顕現についてである。


 王家では《王認紋》が模している生物を世界に顕現させることができるようになり、王になる資格が認められる。


 その為には心身が成熟した頃に母親による封印の解除と父親による《調律》の儀式が必要であるのだが、三人ともその儀式を行う前に親がいなくなっている。


 しかし、ここでネックなのが儀式前に母親が死ぬとその瞬間に封印は解除され、《調律》も竜の意志が然る時が来れば行ってくれるということだ。


 両親の出番は無さそうに思えるが、リスクもそれなりに高い。


 まず、母親が死去した時に子どものキャパシティーが足りなければ魔力の暴走が起こり、最悪死に至ることもある。


 父親の手による《調律》でなく、竜の意志による《調律》は荒く、こちらも最悪ショック死などを起こすことも過去に数例あり、それらは竜の試練などと呼ばれている。


 だが、ザルツとヴァッサーは竜の試練をマールとシュトラントが亡くなったその晩に軽く乗り越え、王や元老院を驚愕させ……喜ばせた。


 こんなに素質のある兄妹は歴代の中でも群を抜いてる、と……その時二人は8歳と6歳であった。


 だが、ヴィントに《王認紋》が発現して、二人の評価も国民の期待も元老院の思惑も全てがひっくり返った。


 何故ならヴィントに発現した《王認紋》は初代国王であるアインス王と同じであり、過去に一度しか発現しなかった竜だったからである。


 国民は、覇王竜フォーアヘルシャフトアインスの再来と歓喜した。


 そこに意義を唱えたのが元老院である。


 元老院としては、《王認紋》の格云々は置いといて、何よりも血統を第一に考えたのだ。


 現国王である獅子王レーヴェケーニヒの長子であるマールと王家の中で最も優秀なシュトラントの子どもであるザルツとヴァッサーの二人に対して、第二子であるシエロの息子であるだけで気に食わないのだ。


 そしてなにより、ヴィントの父親の素性(・・・・・)が分からず、現在は方不明になっていることである。


 そこにシエロの王位継承権の剥奪と母子二代に渡る元老院との確執が始まったのだが……




 † 

   †

     †




 幼少期のシエロは活発な子供であり、年齢が八になる頃にはマールもシュトラントと結婚して子供を身ごもっていたので、シエロは“自分は王位継承しない”と子供心に考え、歳を重ねるごとに周囲からお転婆娘と評されるようになっていった。


 大陸暦1330年


 シエロがもう十七になる頃、相も変わらず城下へと従者も連れずに繰り出していた時に彼女は不思議な雰囲気を持つ同年代の少年と出会い、そして恋をした。


 少年は遠くの地からの旅人で数ヶ月の王都での滞在時にシエロと出会い、瞬く間に愛し合うようになった。


 二人は様々な事を語り合い、王都内を巡り、時には国内の名所へ足を運びながら仲睦まじく過ごした。


 そんな二人が体を重ね合うのに長い時間は掛からなかった。


 だが、彼……ヴォルケはとある目的の為の旅路であり、どうしてもオステン王国へと腰を落ち着かせることはできなかった。


 ヴォルケが別れを惜しむように王都を旅立ってから数ヶ月後、シエロは妊娠に気付き、周囲からの大反対を押し切って子どもを産んだ。


 その子どもがヴィントだったのである。




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