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第一章:第二話:死の羽音


 部隊長の報告を頷きながら聞いていたラディカーレンが口を開く。


「なるほど、そのような恐れ多き事が……しかし、実際には被害も特に出ていないのですね。いやいや、シエロ様やこれから旅立つヴィント様の御身体に怪我がなくて安心しました。」


「……」


 ラディカーレンはいかにも仰々しい口上を述べるが表情の端には邪魔者を始末出来なかった悔しさが滲み出ている。


「ですが、この件を見逃す訳にもいきませんね……シエロ様、この者の処罰は私に任せて頂いてもよろしいでしょうか?」 


「えぇ、ラディカーレン大臣に任せますわ。」


「では、私はこれで……行くぞ。」


「ハッ!」


「あ、ラディカーレン大臣。」


 部隊長を引き連れて王城に戻ろうとするラディカーレンをシエロが呼び止める。


「何でしょうか、シエロ様?」


「そこのあなたは先にお城の入り口で待ってなさい。」


「ハッ!」


 シエロが部隊長を下げさせるとラディカーレンの表情が硬くなる。


「さて……あなたって確か元老院に入ってからまだ年数が浅いのでしたっけ?」


「はあ、そうですが……それがなにか?」


 シエロの質問の意図が分からずにラディカーレンは訝しげな表情を見せる。


「やっぱりね……ラディカーレン大臣は私の《王認紋》が何を模しているかご存知で?」


「? 確か、蜂ではありませんでしたか?」


「えぇ、間違いではありません。」


「「ッ……」」


 ラディカーレンの答えに微笑をもって応えるシエロにヴィントとゼクレは寒気を覚えた。


「ちなみに私の《王認紋》である蜂……女王蜂ヴェスペの能力はご存知ですか?」


 決してこの国の女王にはなれないだろう自分の《王認紋》が女王蜂ヴェスペとはどんな皮肉か……シエロは心の中で自嘲する。


「……いえ。」


「それはそうでしょうね……なんたって元老院内でも極秘事項のこの能力を下っ端のあなたが知るわけないわよね。」


 先ほどまでの少女を思わせるような微笑は鳴りを潜め、目の前の人間を嘲笑うそれに変わった。


((うわ、久しぶりの裏だ……))


 ヴィントとゼクレは顔を俯かせながら嵐が過ぎ去るのをただ待つ。


「なっ……」


「《王認紋》の格という括りからみれば、確かに私の女王蜂ヴェスペは高くはないわ、むしろ低いほうね……でも、ならどうして私は今まで元老院にも始末されずに生きてこられたか分かるかしら?」


「……」


「答えは単純よ。私のコトを恐れてるからよ……この女王蜂ヴェスペの毒をね。」


 左手で首筋の《王認紋》を撫で、「おいで(コメン)女王蜂ヴェスペ」というシエロの呼びかけと共に、体長3cm程の漆黒の蜂が《王認紋》から現れた。


「フンッ……そ、それなら知っているぞ。極秘事項というからどんなものかと思えば……お、お前の能力は蜂の針に仕込まれた麻痺毒だろう? 現王家の中で唯一の虫ケラを《王認紋》に持つ落ちこぼれが、ひぃ!?」


 シエロの見下すかのような態度に、ラディカーレンは今まで保っていた体裁のある態度を消し、怯えながらも憤りの言葉を上げる。


 しかし、シエロが顔の横でホバリングしていた女王蜂ヴェスペをラディカーレンにけしかけると短い悲鳴と上げて腰を抜かす。


「30点ね、その毒()持っているわ。でもね、他に猛毒もあるのよ……ラディカーレン大臣。」


 女王蜂ヴェスペの羽音が耳元で響き、ラディカーレンは恐怖で顔を歪ませる。


「まだいくつかえげつない能力もあるのだけれど……それは企業秘密。……金輪際、私たちにちょっかいを出さないと誓うなら今回のポイント稼ぎの暗殺計画も私に対する暴言も見逃してあげるわ。だから、今すぐ消えて。」


「は、はひぃ……」


 ラディカーレンは何度も転倒を繰り返しながら城へと逃げ帰っていった。




 † 

   †

     †




「さて、仕切り直しますか……」


「そうだな……」


 無事に嵐が過ぎ去り、げっそりした二人が嘆息する。


「ヴィオもゼクレもどうしたの? ほら、しっかり! せっかくの晴れの日なんだからさ!」


((原因がよくもまぁ……))


 この二人、小さい頃はシエロに魔術や体術を習い、毎日ボロ雑巾になるまで絞られていた為、シエロの高圧的な裏の態度が出てくると精神磨耗を引き起こすまでになった。


 現王家で最低格の《王認紋》を持ちながら(王族同士で戦うことはないので分からないが)おそらくは最強にして最凶の強さを持つシエロ。


 単身で時間は掛かろうとも、国を滅ぼすことが不可能ではない彼女の怒りに触れたラディカーレンは憐れとしか言いようがない。


 ……自業自得ではあるが。


「……はぁ、俺がいないからってゼクレに迷惑掛けるなよ、母さん。」


「なっ、そんなことするわけないでしょ!」


「そうであることを願います。」


「ゼクレまで……もう二人とも知らないッ!」


 頬を膨らませて腕を組み、そっぽを向くという歳を感じさせない目の前の母親の仕草に、ヴィントとゼクレは顔を見合わせて苦笑する。


 ヴィントは馬を手綱で引き寄せて背に跨ると、腕を伸ばして母親の頭を撫でる。


「拗ねるなって、母さん。」 


「……うん。」


 こうしていると母子にでなく、まるで兄妹だな……とゼクレはぼんやり考える。


「ゼクレ。」


「ん?」


 自分の名前を呼ぶ声に反応すると、ヴィントが拳を向けていた。


「誰かが見てるんじゃないの?」


 修練中によくやった拳と拳を合わせて“お互い頑張ろう”の意味を込めた自分たちのポーズだということに気付いたゼクレは、懐かしさと気恥ずかしさから軽口を叩く。


「流石にさっきのアレを見たら怖気帰ったみたいだ。元老院も当分は静かにしているだろうよ。」


 そんなゼクレの気持ちをなんとなく察しながら、ヴィントは苦笑して答える。


「そう……なら安心ね。」


 コツン


 二人は不敵な笑みを浮かべながら拳を軽く合わせた。


 懐かしい二人のポーズをシエロは微笑を浮かべて見つめる。


「さて、それじゃ行って来るよ。二人とも身体に気をつけてな。それとゼクレ、小父さんと小母さんによろしく言っといてくれ。」


 挨拶を済ましたヴィントは手綱を操り、母親と幼馴染のもとを後にする。


「「いってらっしゃい、ヴィオ。」」


 ここに、ヴィントの父親探しの旅が幕を上げた。




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