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第二章:第六話:Sクラスの実力

誤字脱字校正の報告ありがとうございました。


引き続き感想に評価、誤字脱字の報告をお待ちしております。



「私の名前はアプリル。あなたのお名前は?」


「えっとね、メーヒのなまえはメートヒェンっていうの。」


 女の子……メートヒェンは可愛らしい笑顔を見せた。


「メートヒェンちゃんって言うの。」


「メーヒでいいの。」


 アプリルが名前を呼ぶとメートヒェンは首をふるふると振って愛称を伝える。


「メーヒちゃんね。それじゃ私もリルって呼んでね。」


「わかったの、リルおねーちゃん。」


 二人が微笑ましく自己紹介をしている後ろでヴィントは険しい顔をしていた。


「あ、こっちのお兄ちゃんはヴィオって言うの。」


 アプリルが振り向いてヴィントの紹介をする時には、険しい顔つきはなりを潜めていた。


「俺の名前はヴィオ。ごめんな、リルがぶつかって。」


「ううん。だいじょうぶなの。」


「えっと……俺もメーヒって呼んでいいのかな?」


「うん、メーヒでいいの。ヴィオおにーちゃん。」


「それじゃ、メーヒもここに泊まってるのか?」


「ううん、ちがうの。ままがおしごとしているあいだいるだけなの。」


「まま?」


「メーヒ!」


 ヴィントが訊ね返そうとすると、先ほど料理を運んできた女性が廊下の角から小走りで駆け寄ってきた。


「もう、勝手にお部屋から出ちゃダメじゃない。」


「あ、ごめんなさいなの……」


「あの、この子が何かしませんでしたか?」


 メートヒェンを軽く叱った女性は心配そうに二人を伺った。


「い、いえ……むしろ私がメーヒちゃんにぶつかっちゃったんです。」


 アプリルが慌ててことの成り行きを説明する。


「そうだったんですか……でも、今日は外に出ない方がいいですよ。」


「え、どうしてですか?」


 話を聞いた女性のキッパリとした物言いにアプリルが思わず聞き返す。


「それは……」


 アプリルの疑問に女性は言葉が詰まる。


「大丈夫ですよ。外と言ってもペンションの前ぐらいですから。」


「それなら……でも、あまり湖に近づいてはダメですよ。」


「判りました。それじゃ……行こうか、リル。」


「あ、うん。それでは失礼します。」


 ヴィントとアプリルは親子に会釈してその場を離れた。






 二人はペンションから出ると夜空を仰ぐ。


「わぁ……綺麗だね。」


「…………」


「ヴィオ?」


「ん、あぁ……綺麗だな。」


「どうしたの? 何か考え事?」


 どこか上の空のまま夜空を見上げるヴィントを疑問に思ったアプリルが首を傾げて訊ねる。


「まァ……」


「?」


 どうにも歯切れの悪いヴィントにアプリルはさらに首を傾げた。


 何となく星を見る気分でもなくなったアプリルは、何気なくゼー湖に視線を移す。


「あれ、ゼー湖っていつも霧じゃなかったっけ?」


 アプリルの目の前には月明かりが無いので見えにくいが、来た時にはあった霧が無くなっていた。


「え?」


 ヴィントもアプリルの言葉に視線をゼー湖に移した。


「結局、真っ暗で何も見えないね。」


 目を凝らしてみるも星明りだけでは何も見えない。


―――新月、普段は霧が立ち込める湖、それに……あの女の子(・・・・・)。どうやらあいつの話は本当だったのか?


「確かめてみるか……ハッ! ……太陽の輝き(ゾネ・グレンツェン)


 ヴィントは右手に魔力を溜めて湖の上空に打ち出し、魔術名を唱えた。


 湖上にはヴィントの魔力が膨張してできた疑似太陽が浮かぶ。


 光源を得たヴィントはゼー湖を見渡す。


「あれは……城、か?」


 遠目で細部までは判らないが、確かに湖に浮かぶ小島の上に古ぼけた城が建っていた。


―――確か……『満月喰らい モント・フィンスターニスは旧聖王国時代に建てられたある古城を根城にしているみたいだよ。そして、その古城の周りを結界で隠し続けてたみたいだけど、弱ってきたからか、ひと月に一度その結界が緩まる時があるんだ。』って言ってたよな。……ってことは、アレが―――


「―――満月喰らい モント・フィンスターニスの根城か。」


「ご明察。まさか君もここに来ていたとは……」


 ヴィントの呟きに応える声は真後ろ。


 すぐさまアプリルを背中に隠すように動き、臨戦態勢に入るヴィント。


鎮魂曲レークヴィエム……」


「もうこれは君を仲間に入れろっていう神の啓示かな? けど、その前に……その腰の剣に添えた手は下げてもらいたいかな。」


 相変わらず微笑みを浮かべる青年、エンゲルがそこにはいた。


「野外の夜で気配を殺して後ろに立つ輩が言うセリフか?」


「うーん……気配を殺してたのは別に君を驚かせるためじゃないんだけどな……」


「やっぱりそんな奴要らないって。」


「!?」


 突然、ペンションの上から聞こえた声にヴィントが視線を向けると、そこにはエンゲルと同じく真っ白な少女が屋根の上で不機嫌そうに足をブラブラさせながら座っていた。


 その後ろにはこれまた全身真っ白の……大柄の男がいる。


 だが、その風貌は不気味で顔の上半分―――目元から頭の天辺まで包帯で包まれていた。


「気配察知を怠っている。臨戦態勢に入るのが遅い。ついでに頭も悪い。どうしてこんな奴欲しがるのよ?」


「……聞いてれば随分な言い草だな。前の二つについてはまだ判るが、最後の頭が悪いってのはどういう了見だ?」


 年端も行かない少女の明らかに呆れてますといった言葉にヴィントは語調を荒げる。


「それに、簡単に心を乱す。」


「っ!?」


「まァ、あたしは優しいから教えてあげるけど……あんた自分でアレが満月喰らい モント・フィンスターニスの根城って言ってたじゃない。なら、ここはすでに敵地だと思わないの? そんな中を暢気に気配も隠さずにいられるあんたにあたしは驚くわ。」


「……」


 少女の言葉にヴィントは何も言い返すことができない。


「そもそもあんな馬鹿みたいな魔術使うし、あれじゃ敵に自分が来たことを知らせたようなもんじゃない。……ほら、敵さんもどうやらお怒りみたいよ?」


 少女が気怠げに古城を見やると、そこから一条の光が走った。


 ボンッ


 その光はヴィントが出した疑似太陽の中心を打ち抜き、辺りの光源は再びか細い星明りだけになった。


「はぁ……敵もこっちの存在に気付いちゃったみたいだし、もう静かに行く必要もなくなったわね。―――シュタルク。」


 少女は首を後ろに倒して大柄の男の名前を呼ぶ。


 名前を呼ばれた男―――シュタルクから魔力が漲っていくのがヴィントには感じられた。


「あぁ、……肉体獣化ケルパー・エンダン―――モデル アドラー!」


 バサッ


 シュタルクが魔術を唱えると闇夜にも目立つ純白の翼が背中から生え、数枚の白き羽根が舞った。


「相変わらず綺麗ね。」


 目の前に舞った羽根一枚を掴んだ少女は、それを羨望の眼差しで眺めながら呟く。


 その後ろではシュタルクが見る見るうちに全長五メートル程の真っ白な大鷲に姿を変えた。


「……」


「……」


 ヴィントとアプリルはその美しさに言葉も出ない。


「それじゃ、吸血鬼狩りに行こうかしらね。」


『お嬢の仰せのままに……』


 バサッ


 大鷲に化けたシュタルクは翼をはためかせて屋根から飛び立った。


 そして、空中を一度旋回すると少女の前で翼を羽ばたかせて滞空する。


「よっと!」


 少女は屋根からシュタルクの背中に危なげなく飛び乗った。


『さぁ、こんな所で油を売ってないでさっさと行くぞ。エンゲル。」


 背中に少女を乗せたシュタルクはそういうと、大きく宙返りをする。


「あ、コラ!」


 背中では少女が何やら文句を言っているが……


「そういうことだから……では、またの機会に。天災カタストローフェ。」


 最後にいつもの微笑を浮かべたエンゲルは、地上すれすれに滑空してきたシュタルクの脚に掴まり、そのまま湖へと飛んで行った。

「あれがSクラスの奴らの実力か……」


「なんかとにかくすごかったね……」


 二人はただ唖然とするだけだった。


 






「あ、さっき表が騒がしかったけど……何かあったの?」


 少し一人になりたいと言ったヴィントの申し出を受け、先に一人でペンションの戻ったアプリルにメートヒェンの母親が開口一番訊ねてきた。


「あ、実は―――」


 アプリルは先ほどの出来事を簡単に説明する。


「なっ……」


 話をする内にどんどんと顔を青くしていく女性を気にしながらも、アプリルは話し続けた。


 ドサッ


 最後に三人がゼー湖に飛んで行ったと話し終えると、女性は床に持っていた物を落として酷く狼狽していた。


「え、えーと……?」


 いきなりの出来事にアプリルもどうしていいか判らず狼狽える。


「どうしたんだ、リル?」


「どうしたの、まま?」


 そこに外から戻ってきたヴィントとペンションの奥からやってきたメートヒェンが二人の様子を訊ねた。


 ひとまずアプリルは女性からヴィントへ視線を向ける。


「あ、ヴィオにメーヒちゃん……それがね、メーヒちゃんのお母さんにゼー湖のお城にあの三人が飛んで行ったことを伝えたら……」


 アプリルはそこで言葉を区切ると床に座り込む女性に目を向けた。


「なるほどね……」


 その話を聞いたヴィントは納得がいったという表情で何故かメートヒェンを見る。


「ん? メーヒちゃんがどうかしたの?」


 ヴィントの視線の先を追うと、そこには首を傾げるメートヒェンがいた。


「メーヒなにかヘン?」


 二人の視線を受けたメートヒェンは自分の体を見下ろしてパタパタと触る。


 そんなやり取りを聞いていた女性がいきなり立ち上がってメートヒェンを抱きしめる。


「わぷっ!?」


「へ?」


 突然の行動に驚くメートヒェンとアプリル。


 そんなことはお構いなしにメートヒェンを―――我が子を庇うように―――抱きしめる女性。


「メーヒ、メーヒ……」


「えっと……これはどういうことなのかな?」


 全く訳の判らないアプリルは思わずヴィントに訊ねた。


「そうだな……大体の全貌は見えてきたが……メーヒ。」


「な、なに? ヴィオおにーちゃん?」


 名前を呼ばれたメートヒェンが反応するが、母親もビクンと反応する。


「もしかしてお前のお父さんの名前って―――」


「やめて!」


 ヴィントの言葉を遮るように女性が叫ぶ。


 その様子を見たヴィントは静かに告げた。


「―――やっぱり、ファーターだったか……」


 数百年に渡って大陸中を席捲し、大陸中に名を馳せる大吸血鬼満月喰らい モント・フィンスターニスの娘だと……


 その言葉を聞いて力が抜ける母親の心情など露知らず、メートヒェンは笑顔で答える。


「そうなの。」

 



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