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第二章:第五話:運命の邂逅

「ん、んん……」


 窓から差す朝日にアプリルは身を捩る。


「ん……ふぁ……」


 寝ぼけ眼を擦ろうと手を目元に持ってこようとするが上手く動かせない。


 仕方なく重い瞼を何とか持ち上げたアプリルの目に整った顔立ちが映り込む。


「!?」


―――そうだった、昨日ヴィオと……


 すぐさま昨晩の出来事を思い出したアプリルは顔が熱くるのを感じる。


 思わず起き上がろうとするが、ヴィントの腕に抱きしめられていた。


―――うぅ、どうしよ……ヴィオを起こす? それとも無理やり……


 アプリルは色々と考えるが、目の前のヴィントの寝顔を見て考えるのをやめた。


 昨日は凛々しい顔を見せていた目の前のヴィントだが、スヤスヤと気持ち良さそうに眠るその顔は幼く見え、あの日アプリルを助けてくれた少年を彷彿とさせたからだ。


 アプリルはヴィントの胸に抱かれながらその寝顔を眺める。


 それから数分後、ヴィントが目を覚ましたところで無性に気恥ずかしくなって顔を赤くしたのは別の話。







 二人は身支度を整え、無限の箱エントリッヒ・シャハテルに保管されていたサンドイッチで朝食を済ませた。


 食後の紅茶を飲んでいるヴィントにアプリルが訊ねる。


「これからどうするの?」


「ん、とりあえず街に出て俺の父親について調べようかな……それに、リルの母親の薬も探さなきゃいけないしな。」


「そうだね。」


「リルが探している薬ってどんなやつ?」


「えっと……メディカメントっていう薬だよ。」


「メディカメント、ね。それじゃ、もう少ししたら出かけるか。」


「うん。」


 紅茶で一服した後、二人は宿をチェックアウトして街に繰り出した。






 太陽が二人の真上を昇る頃。


 ヴィントとアプリルが喫茶店のテーブルで伏せっていた。


「そんなすぐに見つかるとは思っていなかったが……なんの手掛かりも無しか。」


「うぅ……コッチもメディカメントはこの街になさそうだよ。」


 お互いに色んな人や商人に訊ねが、成果は芳しくなかったようだ。


 かろうじてアプリルが所望するメディカメントがシェントゥルム共和国の西側にあるアポーテケという街にあることだけは判った。


 ヴィントにいたってはその尻尾すら掴めなかった。


「この後もお父さんのこと探す?」


「そうだな……でも、あらかた訊いて回ったしな……」


「うーん……あ、ギルドは? 確か大陸中に情報網があるって言ってたよね?」


 アプリル頬でテーブルの感触を味わうのをやめて体を起こす。


「リル……」


「え、な、何?」


 アプリルの提案にヴィントは神妙な顔をして起き上がった。


「お前頭いいなー。」


 ヴィントは手を伸ばしてアプリルの頭を撫でる。


 初めはいきなりのことに戸惑ったアプリルだが、その行為を受け入れて目を細める。


「えへへ……」


「そうと決まれば、昼食を食べたらギルドに行くか。」


「そうだね!」


「あ、アプリルはどうする? あんまりギルドの雰囲気よくなかったけど……」


「うーん……でも、一人でいる方が不安だし、ヴィントと一緒に行くよ。」


「そうだな、その方がいいかもな。」


 会話を終えたところで店員が注文を運んできたので、二人は昼食をとることにした。







 その後、二人はギルドに足を運んだがめぼしい情報は得ることはできなかった。


 まだ、日中だがこのまま次の街を目指しても野宿をしなければいけなかったので、二人は昨晩泊まった宿屋で再び部屋を取り、旅に必要な物を買い揃えることにして一日を終えた。




 † 

   †

     †



 翌朝。


 朝食を取り終えた二人はベッドに大陸地図を広げて、次の目的地を決める。


「すぐにでもアポーテケを目指してやりたいけど、少し遠回りをしてシェントゥルム共和国の首都、ハオプトを目指そうと思うんだけど、それでもいいか?」


「うん。ヴィントに旅路のお金全部出してもらってるのに、そんな我儘は言わないよ。」


「……母親の病気を早く治してあげたいと思うのが我儘とは思わないけどな。」


「お母さんは確かに早く治してあげたいけど、ハオプトに行ってもそんなに遠回りじゃないし、それに今すぐ死んじゃうってわけじゃないし大丈夫だよ。」


 アプリルは地図を覗き込みながら言う。


 実際にハオプトを経由してもそこまで遠回りというほどでもないのが実情だ。


「ありがとうね。私のお母さんの心配をしてくれて。」


「……」


 微笑むアプリルにヴィントは心を奪われた。


 そして、思わずアプリルを抱きしめた。


「ヴィオ……?」


「何だか無性に愛おしくなって……少しだけこのままでもいいか?」


「ん、しょうがないなー。でも、少しだけだよ? そうじゃないと出発が遅れちゃうよ……」


 首筋に顔を埋めてくぐもった声に少しくすぐったそうにしたアプリルは、言葉では仕方なさそうに言うが、内心嬉しそうにしながらヴィントの背中に手を回した。


 少しの間、抱きしめ合った二人は名残惜しそうに離れ、旅路の支度を整えて宿をチェックアウトした。






 二人は一路、シェントゥルム共和国の首都、ハオプトを目指してアンファングの街を出発した。


 休憩を挟みながら二人は道中を進めるが―――


「しかし、どうしてこうも魔物に出くわすかな……さっきので二桁だぞ。」


「あはは……」


 見晴らしの良い小さな丘で昼食を取りながらうんざりするヴィントの物言いに、アプリルは苦笑いしかできなかった。


―――その道程はただひたすら魔物との戦いだった。


 二人は知らなかったことだが、今ヴィントたちが通っている道はアンファングからハオプトまでの最短の道ではあるが、魔物の出没率が高く、余程腕に自信のある冒険者ぐらいしか通らない道である。


 普通は少し遠回りをするが安全な街道を通るのがベターだ。


 しかし、ヴィント自身はギルドでSランクとなんら遜色のない資質を見せたのだ。


 この程度の強行軍などヴィントにしてみれば、過去にシエロによって魔物の住処の中心へ投げ込まれた時に比べれば大したことではなかった。


 実際に二人はその強行軍のお蔭で、ハオプトまでの道程を三分の一縮めた。


 昼食を取り終えた二人は地図を見ながら現在地の確認をする。


「今この辺だから日没頃には……」


 ヴィントは呟きながら距離の計算をする。


 そして、指差した先は―――


「湖の辺り?」


―――シェントゥルム共和国最大の湖、ゼー湖だった。


「順調にこのまま行けばな。」


「そうすると野宿?」


「いや、ゼー湖はシェントゥルム共和国でも有数の観光名所だし宿屋ぐらいはあると思う。」


 アプリルの問いにヴィントは答える。


 常に霧が立ち込めるこの湖には昔から竜が棲むと謂われいる神秘的な場所として、足を運ぶものが後を絶えない。


―――竜、か。俺の《王認紋》も竜だしなんだか親近感が湧くな。


「この湖を横断すればハオプトに行けるね。」


「いや、聞いた話だと船とかは無いらしい。」


 アプリルの提案にヴィントは首を横に振る。


「え、どうして?」


「どうも霧が常に立ち込めている上に、昔から水難事故に遭う確率が相当高いらしい。なんか湖に棲む竜の怒りを買うからって今じゃ地元の人間は船も出さないそうだ。」


「え、湖に竜がいるの?」


「さぁな。そういう謂われがあるって話だ。真偽は判らんが水難事故が多いってのは事実だしな。……さて、そろそろ出発しようか。」


 地図を畳んでヴィントが立ち上がった。


「そうだね。」


 アプリルも立ち上がり、二人はゼー湖を目指して歩き始めた。








 西の空が暮れてきた頃、二人はゼー湖の畔にあるペンション、オルトに着いた。


 なんとか部屋を借りることができた二人はベッドの上に倒れ込んだ。


「流石に疲れた……」


「そうだね……」


 あの後も魔物に襲われ続けた二人は、ただでさえ一日中歩き通したのだから肉体も精神もくたくたになるのは当たり前だろう。


 少し一休みした二人は、ペンションで夕食を取ることにした。


「お待たせしました。」


 運ばれてきた食事に舌鼓を鳴らす二人。


「このムニエル美味しいですね。ここの湖で取れた魚ですか?」


 ヴィントはお冷を注ぎにきたペンションの従業員に訊ねる。


「そうよ、今日オーナーが釣ってきたばかりの新鮮なね。」


「ここの湖には竜がいるって聞いたんですけど、怒ったりしないんですか?」


 先ほどのヴィントが話したことを思い出したアプリルも訊ねる。


「そうね……湖上に出て釣りとかすると事故に遭いやすいけど、畔で釣りをするぐらいなら何も起きないわね……どうやら湖の主は湖に人間が入らなければ怒らないみたいよ。」


「そうなんですかー。」


 アプリルは納得したかのように頷いた。


「でも、そういう話聞くと本当に湖に何かいるのかもしれないな……」


「本当だね。」


 二人は湖について他愛もない話をしながら食事を続けた。








 部屋に戻った二人はベッドに座り雑談をしていた。


「ねぇ、湖見に行ってみない? 湖に着いた時もペンションにすぐ来たからちゃんと見れなかったし……」


 すると、ふと思いついたようでアプリルが湖へ行くことを提案した。


「いいけど、今日新月だから外は真っ暗だと思うぞ。」


「あ、そっか……」


 ヴィントの指摘にアプリルは肩を落として残念そうにする。


「まァ、すぐ外だし行くだけ行ってみるか。」


 その姿を見たヴィントはアプリルの提案を受け入れることにした。


「それに、月が無いってことは星がよく見えそうだしな。」


 そう言ってヴィントは立ち上がった。


「うん! 行こう!」


 アプリルも笑顔で立ち上がり、部屋から飛び出す。


「わぷっ!?」


「きゃっ!?」


 すぐ後にドサッという音とアプリルの短い悲鳴が聞こえた。


「どうした?」


 ヴィントがドアから顔を出すとアプリルと転んでいる女の子がいた。


「だ、大丈夫?」


「う、うん。だいじょうぶなの。」


 アプリルが心配そうに声を掛けると女の子は自力で立ち上がった。


「ごめんね、ぶつかっちゃって……痛くなかった?」


「うん。だいじょうぶだよ、おねーちゃん。」


 アプリルがしゃがみ込んで女の子に訊ねると、女の子は笑顔で答える。


「よかった……」


 改めて女の子を見てみると、年の頃は三歳か四歳でふわっとした黒髪が背中まで伸ばした可愛い女の子だった。


 そして、何よりもアプリルが目を奪われたのは、ヴィントと同じ紅色・・の瞳だった。


「私の名前はアプリル。あなたのお名前は?」


「えっとね、メーヒのなまえはメートヒェンっていうの。」


 女の子……メートヒェンはそう言って可愛らしい笑顔を見せた。




ようやくメートヒェンを出すことができました。


龍のアザを~とは大分違った展開での出会いですが……


かなり急いで書いたんで伏線やら今後の見通しが甘いかもしれない今話ですが、次回は納得いくまで書きたいと思います。


前回の後書きでも書きましたが、


ユーザーネームをキュルビスから小鳥遊奈鳥。に変更しました。


twitterはじめました。


ユーザー名はtakanashi_natorです。

更新情報や執筆状況などをつぶやいていきたいと思います。他にも小ネタや裏話などもつぶやけたいいな、など考えています。


http://twitter.com/takanashi_nator


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