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第二章:第四話:“ありがとう”

誤字脱字と校正の報告ありがとうございました。


引き続き感想に評価、誤字脱字の報告をお待ちしております。


第二章の第四話目にきてようやく一日目が終わりました。


もう少し場面をスムーズに進めていきたいです……


そして、あの娘の登場は次回に先送りになりました。


期待していた方はすみません。


言い訳は後書きで(ぇ

「依頼書にある危険度はSSS級……これは、Sランクの冒険者が三人以上集まらなければ依頼を受けることができない超難関依頼だ。だから……どうか君の力を借りたい。―――天災カタストローフェ。」


 エンゲルの言葉に息を飲んだヴィントとアプリル。


「遠慮しとく。」


 だが、ヴィントはその誘いには乗らなかった。


「……どうして、と聞いてもいいかな?」


 良い返事が返ってくるとは思っていなかったのか、エンゲルは微笑みを崩さなかった。


「そんな伝説級の吸血鬼と戦いたくないからだ。大体満月喰らい モント・フィンスターニスってここ数年は噂すら出てきてなく、その住処すら判ってないだろ。」


 過去には各国の討伐隊を幾度となく退けた無類の強さを持つ満月喰らい モント・フィンスターニスだ。


 ヴィントでなくとも関わりたくないというのが心情だろう。 


 だが、七、八年前まではそれなりに噂を聞いていた満月喰らい モント・フィンスターニスだが、ここ数年はその名前を聞くこともなくなりを潜めていた。


「確かにね。でも、ここ最近噂を聞かないのはどうも死期が近く弱っているらしいよ。それに……ある情報筋によると旧聖王国・・・・の跡地に住処があるらしい。」


「ハッ、それこそ無理だろう。千年以上前の大陸歴以前に大陸から消えた旧聖王国の跡地をいまの今まで見つけたなんて話聞いたことないぞ。」


 旧聖王国……過去に大陸全土を統治し、栄華を極めた国だが何かしらの理由で一晩・・の内に滅びたという。


 その詳細はどの国の歴史書にも残っておらず、判っているのは現シェントゥルム共和国の何処かに王都があったらしいということだけで、その全貌は現在でも謎に包まれている。


 聖王国が滅びた後に各国が建国し、大陸歴が始まったということしか今のところ判っていない。


「そうだね……けど、実際に君の目で見たわけではないだろ? ギルドが創設されてから数十年、大陸内の未開の土地や遺跡は加速的に発見されてきた。」


「……」


「まだ仲間になってもらえたわけじゃないから詳しくは話せないけど、どうやら満月喰らい モント・フィンスターニスは旧聖王国時代に建てられたある古城を根城にしているみたいだよ。そして、その古城な周りを結界で隠し続けてたみたいだけど、弱ってきたからか、ひと月に一度その結界が緩まる時があるんだ。」


「なるほど。その時に発見したということか。」


「その通り。それでそのひと月に一度というのが―――二日後。」


「二日後……ん? ―――新月か?」


「ご明察。どうやら頭も回るみたいだね。これは是非とも仲間になってもらいたいものだね。」


「断る。それにもう必要人数は集まってんだろ? ならそいつらとやってくれ。俺は他にやることがあるんだ。」


 話はそれでお終いと言わんばかりにヴィントはアプリルを連れてギルドを出て行った。


「……フラれちゃったか。残念。」


 残されたエンゲルはその場でため息を吐いた。


「だから言ったじゃない。あんな奴要らないって。」


「念には念を、だよ。子守唄ヴィーゲン・リート。」


 気配もさせず、後ろから掛けられた声に振り返らずエンゲルは応える。


「その名前はギルド内で呼ばないでよ。二つ名の意味ないじゃない、鎮魂曲レークヴィエム。」


 その言葉にむっとした様子で言葉を返され、エンゲルは振り返った。


「ごめんね、クラヴィーア。」


 そこにはエンゲルの劣らないぐらい頭から靴まで全身真っ白の少女が紺碧の瞳で睨みつけていた。


 その顔立ちは幼げながらも可愛らしく、美少女という言葉がよく似合い、睨み付けにも迫力はなかった。


「それから子ども扱いはやめなさい。これでもあんたより年は上なんだから。それよりもさっさとシュタルクと合流しましょう。こんなゴミ溜めみたいな所にうんざりだわ。」


 クラーヴィアと呼ばれた少女は颯爽とした足取りでギルドの出口へと歩いていく。


 エンゲルもため息を一度吐くとその後を追いかけた。


 バタン


 扉が閉まり、誰かが呟いた。


「あれが大陸屈指の冒険者チーム、パラディースの二人……」




 † 

   †

     †




「あ、アイツのせいで宿屋の斡旋忘れた……」


「あ。そういえば……」


 二人はギルドから数分歩いた所で思い出す。


「まァ、こんだけでかい街だ。宿屋も何軒もあるだろうし、歩いてればその内見つかるだろう。」


「そうだね。」


 ヴィントの読み通り、そこから少し歩いた所に一軒の宿屋を見つけた。






「いらっしゃいませ。本日は二名様でのご利用ですか?」


「はい、二部屋で宿泊したいんですけど……」


「かしこまりました。少々お待ちください。」


 受付の女性が手元にある宿泊名簿を調べ始めた。


「あれ、二部屋取るの?」


「ん? そりゃリルもその方がいいだろ?」


 アプリルの質問にヴィントも問い返す。


 ヴィントとしては出会ったばかりの女の子が男と同じ部屋は嫌だろうという配慮からだったが―――


「申し訳ありません、お客様。今夜の空き室が一部屋しかなくて……」


 受付の人が申し訳なさそう言う。


「そうですか、他の宿屋をあたるか……」


「おそらく、この時分ですと他の宿屋も宿泊状況は同じかと……」


 ヴィントの提案に受付の女性が他の宿屋の状況を教えてくる。


 そこへ新たな客が宿屋に入ってきた。


「どこもかしこも満室かよー。」


 そんな嘆きが聞こえてきてはヴィントは何も言えない。


 もしここを諦めて他の宿屋をあたっても無駄に終わりそうだ。


「リル、悪いけど同じ部屋でもいいか?」


「仕方なさそうだしね……それに私は同じ部屋は嫌だなんて思ってないよ。」


 困った顔で訊ねる姿に苦笑で返したアプリルは上目使いでヴィントの顔を覗き込む。


「じゃ、じゃあその部屋でお願いします。」


 その仕草にドキリとしたヴィントは捲し立てるように言った。


「はい、判りました。こちらが204号室の鍵になります。そちらの階段からお部屋へどうぞ。」


 歩いて九二人を受付の女性(二十四歳独身)は微笑ましさ七に羨ましさ三といった眼差しで見送った。





 部屋で一息ついた二人は夕食を食べに再び街に繰り出す。


 雑談を交えながら食事処を探す二人は雰囲気のよさそうな店を見つけ、そこで夕食を取ることに決めた。


 美味しい料理に舌鼓を打った二人は大満足のお腹を携えて宿屋に戻る。


 部屋に戻ると先ほどは意識の外に追いやった部屋のかなりの面積を占めるダブルサイズのベッドに否応なく目を取られた。


「……」


「……」


 お互いに無言で部屋の入り口で立ち尽くす二人。


「と、とりあえずここでぼーっとしててもしょうがないし、風呂でも入るか。」


「え、一緒に!?」


 ヴィントの提案に驚くアプリル。


「あ、阿呆! 順番にだよ!」


「そ、そうだよね! あはは……」


 二人して真っ赤になってあたふたする姿は端から見たら滑稽だったが、この部屋にそれを指摘する人間はいない。


 しばらくしてようやく落ち着いた二人はアプリル、ヴィントの順で風呂に入った。





 ヴィントが風呂から出るとベッドの上で何やら四苦八苦しているアプリルが目に入った。

 

「うーん、上手くできないな……」


「どうしたんだ?」


 髪の毛をタオルで拭きながらヴィントが訊ねる。


「寝る前に髪を三つ編みにしようと思ったんだけど、上手くできなくて……」

 

「ん? いつもはどうしてたんだ?」

 

「お母さんに頼んだり妹がやってくれたりしてたんだけど……」


 そういって失敗した三つ編みを解いて髪を櫛で梳かしながら唸り声を上げるアプリル。

 

「それなら俺がやってやるよ。」


「あ……」

 

 ヴィントはアプリルの手から櫛をパッと奪い取ると、丁寧に銀色の髪を梳かす。


「大丈夫?」

 

「あぁ、三つ編みなら母さんによくやらされた。」


「お母さんのを?」


「そ。母さん、普段は幼いからやたら甘えてくるんだ。」


 ヴィントは苦笑しながら髪を優しく梳く。


 アプリルは慣れた手つきと苦笑交じりながらも優しげな声で言うヴィントから、母親への愛を感じた。


「お母さんのこと大好きなんだね。」


「まァ、な。俺を大切に育ててくれた人だ。殺されかけたことも数えきれないぐらいあるけど……」


「あはは!」


 後半はうんざりといった声色で話すヴィントだが、アプリルにはそれが照れ隠しなのが判った。


「よし、できた。」


「うん、ありがとう。」


 髪を梳かしながら緊張も解けたのか、二人はベッドの淵に腰掛けながら昔のことについて話し始めた。








「あの時は怖くて痛かっただろ……本当にすまなかった。」


 ヴィントはベッドから立ち上がると、床に手をついて土下座をする。


「え、え? ヴィオ?」


 ヴィントは当時の出来事を話す。


「そして、今日リルと出会って背中の傷を見るまで、俺はあの時のことを忘れてたんだ。リルの心と背中に深い傷を負わせてたのに、俺は……自分の過ちから目を逸らして生きてきたんだ。」


「……」


「リルはその背中の傷と向き合って生きてきたのに……それに、本当なら会ってすぐにでも気付かなきゃいけなかったのに……」


 アプリルは何も喋らず、ただヴィントの懺悔を聞いていた。


「……ヴィオ、顔を上げて。」


「……?」


 今まで黙っていたアプリルの言葉にヴィントが顔を上げるとそこには―――


 ベチン!


「痛っ!?」


―――でこピンがまさに放たれる寸前だった。


「もう、私はちゃんとあの時に言ったよ。赦すも何も初めから私は怨んでないって。それから、あれは私がお母さんの言いつけを守らないで森の奥まで入ったのもいけないんだから……それに、私もヴィオが背中の傷のこと言うまで、あの時の男の子がヴィオって気付かなかったしね。」


「けど……」


「それに、背中の傷はもう無いよ。ヴィオがあの時に約束してくれた通りに治してくれたよ。」


「確かにいつか必ず治しに来るとは言ったけど、俺は忘れてたんだぞ……今日出会わなければその約束も―――」


 ベチン!


「―――痛っ!?」


「だーかーらー、私が良いって言ってるでしょ。ちゃんと約束を思い出して、それで治した現在イマがあるんだから過去のことはもう忘れる! そんな私の傷が治らなかった場合の話をされても誰が得をするの? ヴィオ? 私? それとも他の誰か?」


「……そうだな、じゃあ最後に―――」


「ん、何かな?」


 ヴィントは憑き物が落ちたかのような穏やかな顔を見せ立ちて上がる。


 アプリルは立ち上がったヴィントの顔を嬉しそうに見上げた。


「―――またその笑顔を見せてくれて“ありがとう”。その笑顔のおかげで俺は俺をやっと赦せそうだ。」」


 ヴィントの穏やかな微笑みにアプリルは顔が熱くなったのを感じた。


 それは昔、アプリルが人狼ヴォルフに襲われて気絶し、目を覚ました時、傍にいた少年が自分を安心させるために浮かべた微笑みと同じだったからだ。


 そして、少女は同じ相手に二度目の恋をした。


「わ、私こそ、ヴィオにありがとう、だよ。」


「ん、どうして?」


「昔もそうだけど、私……本当はこの旅も不安でしょうがなかった。けど、ヴィオが一緒に旅をしてくれるって言ってくれたのすごく嬉しかった。私ひとりじゃこんな部屋に泊まることもできなかったし……だから、“ありがとう”だよ。」


 ヴィントは泣きそうになった。


 言葉を紡ぎながらその時のことを思い出したのか、目元から涙が零れそうになりながらも、浮かべた笑顔にヴィントは昔、助けてくれてありがとうと言った少女の顔と同じだったから……


 過去と現在イマ、時が流れても同じ笑みを浮かべた少女に、ヴィントは忘れてもなお在り続けた咎のしがらみがなくなった気がした。


 そして、その笑顔で―――





 その後、二人は他愛もない話に耽り、時計の針が夜の深まりを伝えるまで続けた。


 どちらかの欠伸を合図に、二人はぎこちなくベッドに入った。


 お互いにベッドの端に寝る二人。


「な、なんか……うぅ。」


 アプリルはなにやら葛藤しているようだ。


「……おやすみ、リル。」


「うぅ、おやすみ……ヴィオ。」


「あ、そうだ。」


「ど、どうしたの?」


 反対側に寝るヴィントの言葉にビクンと反応するアプリル。


人狼ヴォルフの時、俺のこと初恋の男の子(ヒーロー)って言ってたけど、昔……俺がリルを助けたときに浮かべた笑顔に一目惚れしたんだからな。」


「……え?」


「俺の初恋の相手はリルなんだ。」


 忘れてて何をって思うかもしれないけど、とヴィントがボソッと言ったがアプリルの耳には入っていなかった。


「それ、ほんとう?」


 アプリルは今までで一番、顔が熱くなっていくのを感じる。


「あぁ、それでさっきの笑顔を見て、



―――また、好きになった。」


 バサッ


 自分の問いにそれ以上の答えが返ってきて少女は思わず起き上がった。


「わ、私もヴィオのことが、好き! ……かも。」


 予想以上に大きな声と勢いに自分で驚き、恥ずかしくなったアプリルは余計なひと言を加える。


「かも?」


 アプリルの挙動や今の様子を見てたヴィントはニヤッとしながら訊ねる。


「うぅ、かもじゃないです……」


 アプリルは居た堪れなくなってシーツを頭に被せた。


「そっか、初恋は実らないって言うけど実ったかな?」


 ヴィントは頭の後ろで手を組みながら嬉しそうに訊ねる。


「でも、本当に?」


「ん、信じてくれないのか?」


「だって、なんか意地悪なんだもん、ヴィオ。」


 シーツから目元だけ出し、少し不満気なアプリル。


「男子ってのは好きな女子には意地悪したくなるもんなんだ。」


「けど、ヴィオは王族で私はただの村娘だし……」


 アプリルはなおもゴニョゴニョと喋り続ける。


 すると、今まで微笑みを浮かべていたヴィントの雰囲気が変わったのをアプリルは感じた。


 ヴィントは立ち上がり、ベッドを回ってアプリルの前に立つ。


「王族とか村娘とか関係なく、俺はリルが好きだ。俺とリルがお互いの近くに居続けるためにたくさんの障害があるかもしれないけど、それを理由に俺は諦めたりしない。」


「ヴィ、オ……」


「まだ信じられないなら、“言葉”で安心するなら百でも千でも、万でも好きなだけ言ってやる。けどな、言い損は願い下げだ。……俺を選べよ、リル。絶対に倖せにしてやるから―――」


 ヴィントは強引にアプリルの顎を上げて唇を奪う。


 一瞬、目を見開くアプリルだが、すぐにヴィントに身を任せた。


「―――返事は?」


「うん……」





 その晩、二人は抱きしめ合って寝る。


 二人が過ごした期間は過去を含めて一日に満たない時間だったが、そんなことは関係ないと言わんばかりに抱きしめ合う。


 時間が育む恋もあれば、一瞬で溢れる恋もあるのだろう。


 ただ、二人は自分の初恋が実ったことに、好きな相手が目の前にいることの倖せを噛み締めて眠りについた。


























言い訳


いやー、ヴィントとアプリルがそこまで深い理由も無く(?)恋人同士になったのが気に食わなくなったのも改稿を始めた理由なのに、会った日にアプリルに手を出したことが理由です。(ぇ


まだキスだけですが。


小説を書いていて毎回思うのですが、どうしてキャラって勝手に動き回るのでしょうね?


私だけか?


この調子でいくと龍のアザを~に追いつくのでしょうか……


9/27 00:16追加

ユーザーネームをキュルビスから小鳥遊奈鳥。に変更しました。


twitterはじめました。


ユーザー名はtakanashi_natorです。

更新情報や執筆状況などをつぶやいていきたいと思います。他にも小ネタや裏話などもつぶやけたいいな、など考えています。


http://twitter.com/takanashi_nator



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