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第二章:第三話:ギルド

今回の話は過去最高の長さです。


いつもの三倍はあります。


では、お楽しみください。


 シェントゥルム共和国にある北西の街アンファング。

 

 ヴィントとアプリルは馬から下り、馬の手綱を引きながら歩いて行く。


 日が沈んだ後も街には街灯が灯り、人々は商売や買い物に精を出している。

 

「もう日が沈んだのに賑やかだね。」

 

「あぁ、ここはオステン王国との貿易が盛んな街だからな。街の規模も共和国内では大きい方だし。」


「あ、ねぇねぇ……あの光ってるのって何かな?」


 アプリルは道端に等間隔で立っている街灯を指差して訊ねる。


「ん、あれは街灯って言ってズューデン自治区の技術だ。詳しくは知らないが昼間に光を集めて夜になると溜めていた光を灯す仕組みらしい。」


「ズューデン自治区って大陸の南にある所だよね? なんか大陸内で唯一“国”ってついてないのはどうしてなの?」


「それはズューデン自治区が五十年前に宗教間の対立からシェントゥルム共和国から独立して出来た場所なんだ。まだ独立してから時間が経ってないから大陸内では自治区扱いだけど、共和国よりも広い土地を持ってたから……数十年もしたら国として諸国に認められるんじゃないか?」


「ふ~ん……でも宗教観の対立ってズューデン自治区ってキルヒェ教じゃないの?」


 頭にクエスチョンマークでも浮かべていそうな表情のアプリル。


『キルヒェ教』

 

 ビューネ大陸で最も広い信仰を集めている《空の女神》を信奉する宗教である。

 教会は大陸各地の街や村にあり、日曜日には学校を開いて子供たちに読み書きなどを教えたりもしている。(アプリルはここで読み書きを覚えた。)

 大陸の中心であるシェントゥルム共和国の首都に総本山である《カテドラーレ大聖堂》がある。


「あぁ、大多数はクルト教(・・・・)ってのを信奉してるよ。まァ、だから国って認められてないってのもあるが、シェントゥルム共和国から独立した際に支配国より多く国土を奪い取るぐらいだ。大陸内での地力は相当なもんだぞ。技術力では大陸一だしな。」


「へぇ~……それじゃシェントゥルム共和国とズューデン自治区って仲悪いの?」


「昔はいざこざもあったが今はそうでもないよ。シェントゥルム共和国は大陸内の貿易の要だしな。ただ、国家間のいざこざは無くなっても個人間のいざこざは今もあるらしい。」


「そうなんだ。他の国とは?」


「なんだ? 大陸情勢なんか気になるのか?」


「ん~そうだね……今までは自分の村と近くの村ぐらいしか気にならなかったけど、こうやって国外に出たらちょっとはね……」


「成程な……それじゃ今いるシェントゥルム共和国から……この国は突出した資源は無く国土も狭いが、大陸の中心にあるから貿易で成り立ってる国だ。東のオステン王国からは鉄類や宝石などの鉱物資源、北のノルデン帝国からは牛や豚などの家畜、西のヴェステン国からは魔術具や魔法薬などの魔術関係の品物、南のズューデン自治区からは鉄砲や大砲なんかが集まって流れていくよ。だから国土は狭いけど全部の国に顔が利くし、周りも攻めようとは考えないからな。中立国なのはキルヒェ教の総本山である《カテドラーレ大聖堂》がある影響も大きいが……まァ、あそこは所謂ところの聖地・・だしな。」


 ヴィントは語尾に含みを持った言い方をするが、アプリルはそれに気付かずにただコクコクと頷く。


「ふむふむ……」


「北のノルデン帝国から……この国は広大な土地を生かした牧畜が盛んで、食用の家畜以外にも馬なんかも飼育している。それから広大な国土に見合った人口を持っていて徴兵制度も整っている。まァ、要するに軍事力が高い。国家間の関係だと……オステン王国とは一応友好関係を結んでるけど。二つの国の国境にある標高が高く険しいベルク山脈があるから攻めて来れないだけで、実際はオステン王国の鉱物資源を欲しいてのが本音かな。ヴェステン国とは昔から仲が悪くて国境付近は冷戦状態だな。理由は魔術至上主義と武力至上主義から……ズューデン自治区とは国挟んでるから直接は因縁が無いけど、あの技術力を欲しがってるだろうから何が起こるかは判らん。」


「ふむふむ……」


「で、西のヴェステン国は魔術大国だ。魔術を極めるならヴェステン国のクルーク魔術学院って言われているぐらいだ。魔術具や魔法薬の専攻国でもあるな。ここの国家間の関係だと……ノルデン帝国とはさっき言ったように険悪でシェントゥルム共和国とは貿易国として仲は普通だな。ズューデン自治区とは科学と魔術で反りが合わないのか微妙だな……間にグロース湾があって直接国が繋がってないし、今のところお互いに不干渉だな。まァ、物事を極めようとする姿勢は同じだと俺は思うけどな。ちなみにオステン王国とは仲が良いぞ。うちからは魔法の触媒に使う宝石を輸出してるし、向こうはオステン王国の人間のクルーク魔術学院へ留学する者を受け入れてくれるしな……要は持ちつ持たれつだな。」


「ふむふむ……」


「……急ぎ足だったのは悪いが、あまり判ってないだろ?」


「ふぇ!? そ、そんなことないよ?」


「疑問形で返されても……あぁ、最後に……ノルデン帝国は独裁政治、ヴェステン国は王政で十年周期の国民投票によって王が選ばれる、オステン王国も王政だが議会がある。シェントゥルム共和国とズューデン自治区は議会制の政治を取ってて、議長が実質的国のトップだな。」


「へぇ~良く判ったような、そうじゃないような……」


「まァ、頭の片隅にでも入ってればいいさ。」


「うん。」


 ヴィントが頭をポンポンと軽く叩くとアプリルは嬉しそうに目を細める。


「あ、ここだ。」


「ん? ここって?」


 ヴィントの視線の先を追うとそこには、周りの店よりも大分立派な建物があった。


「ここは冒険者ギルドだ。道中に掛かるお金も馬鹿にならないからギルドに登録しようと思ってな。」


「冒険者ギルド……?」


「あぁ、冒険者ってのは……簡単に説明するとビューネ大陸や異大陸の遺跡や未開の土地を冒険する人間のこと。まァ、数十年前……ズューデン自治区が独立する前に南である遺跡が一人の人間によって発掘されたんだ。そこには今のズューデン自治区の技術力を大陸一に押し上げたあるもの(・・・・)があったらしい。それを見つけた男は巨万の富を得て、現在のズューデン自治区の最高議長を務めている。」


「あるものって?」


「公表されてないから判らない。ただそのあるもの……旧時代の遺産を見つけた結果は今のズューデン自治区が証明している。それに遺産を発見したものはかなりの金額でズューデン自治区が買い取ってくれるらしい。」


 所謂、技術の独占である。


「ズューデン自治区はその遺産を効率よく回収するために冒険者のギルドを各地に設立。今まで賞金稼ぎや傭兵だった者はこぞって冒険者ギルドに入ったわけさ。ギルドに入れば様々な情報が入るからな。まァ、冒険者ギルドって言っても遺産の買い取り以外に賞金首や魔物の討伐なんかも請け負ってるけどな。」


 ギルドの設立によりズューデン自治区は遺産のもたらす技術だけでなく、かなりの情報網を各国に巡らせた。


 現在の国家間でのズューデン自治区の立ち位置はかなり高いとも言えるが、それは各国から疎まれている度合いも比例する。


 どの国も国内にギルドなんか置きたくないが、需要には逆らえない。


 実際に、国の手が届かない問題をギルドの人間が解決してくれたり、上納金の支払いも良かったりと扱いに困っているのが現状だ。


「ヴィオも冒険者になるの?」


「一応な。ギルドに入っておけばその地域の情報も判るしな。例えば、どこどこの街道は盗賊が出やすいとか。」


 結果、ギルドは各地での運営を許可され、大勢の人間が一攫千金を夢見て冒険者になった。


「あ、旅を安全にするために?」


「そういうこと。ついでに馬も換金してもらう。」


「えっ? どうして?」


「そりゃ……馬に乗ってたら如何にも“私はお金を持ってます”って見えるからだ。実際に馬は高いしな。だから、襲ってくるやつが多いんだ……特にシェントゥルム共和国では。」

 

「そっかぁ……でも、何でシェントゥルム共和国だと襲われるの?」

 

「それは、貿易が盛んな国だからかな……要するにシェントゥルム共和国は大陸の中心にあるから商人がこの国に多く集まる。それを目当てに富豪も集まる。商人や富豪を狙って盗賊なんかがいたる所に潜んでるんだよ。」

 

「ふぇぇ……中立国だからって安心できるわけじゃないんだね。」


「どこもそれなりにはな……さぁ行こうか。ついでに宿屋の斡旋もしてもらわないとな。」


「それは大事だね!」


 二人は馬を併設された馬小屋に預けてギルドの扉をくぐった。




 † 

   †

     †




 二人が足を踏み込むとそこは紫煙と酒の臭いが立ち込める薄暗く騒がしい空間だった。


 周囲を見渡せばガラの悪い男たちが数人、ニタニタと二人を見定めている。


 その視線に晒されたアプリルは身を竦めた。


 その姿を見たヴィントはアプリルを自分の体に引き寄せる。


「ヴィオ……?」


「悪ィ、こんな場所って判ってたら連れて来なかったんだが……」


「ん、大丈夫……だよ。」


 二人が身を寄せて小声で話している姿を見て、愛を囁いていると勘違いした数人の男がちょっかいを出してくる。


「オイオイ、ニーちゃんよぉ。ここはお前ェらみたいなガキがいちゃつきに来るトコじゃねーぞ?」


「ゲハハ、それともギルドに依頼か? なんなら俺らが受けてやんぜ。報酬は……そうだな、嬢ちゃんのカラダでどうだ? ゲハハ!」


 お前こんなガキが趣味かよ! という仲間のツッコミを受けて下卑た笑い声を上げる男たち。


 アプリルは怖いやら悔しいやらで薄っすら涙を浮かべる。


 それを見て今まで黙っていたヴィントが口を開く。


消エロ(・・・)。」


 男たちは自分たちを射抜く視線とたった一言の言葉に一瞬たじろぐが、すぐに先ほどの調子に戻る。


「ンだと、お前ェ! 伸されてェのか? アァ!?」


 一人の男が腕を思い切り振り上げた。


「!?」


 アプリルは思わず目を瞑った。


 ドサッ


「ぐはっ!?」


 何かが倒れた音がしてアプリルが恐る恐る目を開けると、先ほど腕を振り上げた男が仰向けに気絶していた。


「こ、小僧、一体……今何をした?」


 仲間の一人が何が起こったか全く把握できないといった様子で訊ねる。


「それが判んないだったら今すぐそいつを連れてギルド(ここ)から出てきな。二度目は斬る。」


 ヴィントはそれだけ言い残すとアプリルの手を引いて受付まで足を運ぶ。








「ようこそ、本日はどのようなご用件で?」


 受付ではギルドにはとても似つかわない妙齢の女性がいた。


「ギルドへの登録と馬の換金、それから宿の斡旋を。」


「かしこまりました。では、こちらの用紙に必要事項の記入と署名を。その後に簡単な審査などがありますので別室へお願いします。」


 女性は一枚の紙をヴィントに渡す。


 紙には名前の記入欄と性別や年齢、出身地の記入欄などがあった。


 性別と年齢は正確にという注意書きがあるのに名前の欄には偽名も可と書いてあった。


 但し、後の変更は不可能と書いてある。


 そして、最後には当人が死んでもギルドは一切責任を負わないといった旨の文章が書いてあった。


 ヴィントは最後まで記入すると紙を女性に渡す。


「ヴィオ・ライゼ様ですね。最後にこちらの結晶にご本人様の“血”を垂らしてギルドへの登録は終了になります。」


 女性は透明に透き通った二つの六角水晶を取り出した。


「結晶に血を?」


「はい。ギルドではお一人につき一度限りの登録を受け付けています。これは、ギルドの不正利用を防ぐためと、ギルド登録者から犯罪者が出た際に結晶に記録された血……個体識別情報を使って犯罪者の位置の特定などを行います。」


「ん? 詳しく聞いても良いですか?」


「はい。」


「一人につき一度ってのは判るけど、他のは?」


「はい。不正利用については、ギルドでは受け付けの際にこちらの結晶の提出を求めます。それからご本人様の髪の毛や血などをその場で頂きます。それは、結晶に登録された血とご本人様の個体識別情報を確認します。これによって犯罪者による他人へのなりすましを防ぎます。」


「なるほど。」


「もう一つは、犯罪者がギルド登録をしていると判った際は、すぐさま本部に保管されている片割れの水晶が黒く染まり、各地のギルドの利用不可と場合によっては懸賞金を掛けます。さらに、ある特殊な装置により犯罪者の個体識別情報を探知して大まかな潜伏地域を特定します。」


「最後のは犯罪者が結晶を身に着けてなくても大丈夫なんですか?」


「はい。犯罪者が結晶を持っていた場合はかなりの範囲まで絞り込めますが、例え結晶を捨てても犯罪者の“血”に反応しますので……精度は落ちますが。」


「そういうことか。説明ありがとうございます。」


「では、こちらに血を……」


 女性は小さなナイフをカウンターに置いた。


 ヴィントはそれを手に取ると人差し指を軽く切った。


 そして、血を数滴結晶に落とした。


 すると、結晶は鮮やかな紅に染まった。


「ありがとうございました。では、そちらを治療します。」


 女性はそういって一番簡単な治癒魔術を唱えた。


「どうも。」


「最後に別室にて身体測定と魔力量の測定をします。こちらへ。」


 ヴィントは女性に案内されて別室へ歩いていく。


 アプリルも慌ててそれに付いて行く。









 案内されたのは様々な装置が置いてある部屋だった。


「ここは……?」


「こちらは測定室になります。これからそれぞれの機器の説明をしますので指示に従ってご使用ください。」


「どうしてこんなことするんですか?」


 不思議に思ったのかアプリルが訊ねる。


「ギルドではランク制度を取っておりまして、それにより登録者に見合った依頼の提供と犯罪者になった際の危険度の設定に使われます。ちなみにこの検査は常に最新の情報更新のために三ヶ月に一度程の周期で受けてもらいます。」


「なんかギルドって大変だね……」


「だな……」


 二人は呆れた顔をした。


「規則ですので。では、まずこちらから……」


 ヴィントは女性の隣に立ち説明を聞き始めた。




 † 

   †

     †




「……」


「どうしました?」


「驚きました……全能力が高いのもそうですが、魔力量が十八万オーバーって……確か現ギルド登録者の最高値がヴェステン国の魔術師団総指揮官のリーズィヒ様の二十一万……それに次ぐ記録じゃ……」


「それってすごいんですか?」


 紙と睨めっこをしながらブツブツと喋る女性におもわず訊ねるヴィント。


「すごいなんてもんじゃないですよ! 大体各国の魔術師兵の魔力量平均が五百前後って言われてるんですよ。その中で十八万五千って……三七〇倍ですよ。それに他の能力も突出しているのがいくつか……」


 紙を改めて見直す女性。


「故障ってことは……」


 ヴィントとしてはあまり目立ちたくないので、一縷の望みをかける。


「昨日メンテナンスしたばかりです。更に言うと、魔力量の測定器は最新版です。」


 女性は事実を突きつけた。


「ちなみにそれって俺も見れますか?」


「はい。どうぞ。」


 ヴィントは渡された紙を恐る恐る見た。




ヴィオ・ライゼ

DAMダメージ・ヒットポイント:12,300

SP(魔力):185,300

攻撃力:880

耐久力:220

筋力:330

敏捷:750

魔術能力:8,800

耐魔術能力:5,700



ギルド評価:A+




「これは、えぇっと……」


「それでこちらがDランクの最低ラインです。」


 そういって女性はもう一枚の紙を渡す。


 ちなみに一番下のランクはEランクだが、こちらは特に最低ラインの規定は無い。





DAMダメージ・ヒットポイント:2,000

SP(魔力):500

攻撃力:100

耐久力:100

筋力:100

敏捷:100

魔術能力:100

耐魔術能力:100



ギルド評価:D




「殆ど百ですね。」


「比較しやすいのもありますが、それが妥当な数値だからです。」


「DAMとかSPは跳ね上がるけど、耐久力や筋力が跳ね上がらないのは?」


「それは、人間という生物には出せる限界値があるからです。ちなみに耐久力の最高値は今のところ三百二十で筋力が五百ですね。ともに、とても素敵な筋肉をお持ちでした。」


「はは、は……」


「それからギルド評価の方ですが、それはほぼランクと同等です。ライゼ様のA+というのは、本来ならSランクと同等……いや、SPだけ見たらそれ以上ですが、ゴホン。Sランクの資質を持っているのですが、ギルドへの貢献度……遺産の発見やランクに見合った賞金首や魔物の討伐をいくつかこなさなければなりません。なので、今回はAランク止まりになりました。」


「別に構いませんが……」


「Sランクはこの大陸で二十人に満たないんですよ。是非、取るべきかと。」


 ちなみにAランクは八十人ほどである。


 ギルドの登録者数は数万を超えるので、A、Sランクに至るのは相当狭き道である。


「はぁ……」


「あ、オホン。Aランクからは周囲の注目を浴びやすく、同じギルド登録者からも名声を得るために目を付けられやすくなります。それを防ぐためにも“二つ名”を名前以外に登録できますが、どうなさいますか?」


「二つ名が付いていたら結局は注目を浴びませんか?」


 ロートはギルドの登録していないが、その実力と戦闘スタイルなどから彗星コメートの二つ名がいつの間にか付けられた。


 その実力にランクを付けるとすればAランクのなかでも上位になるだろう。


 ロート自身は名前を隠していないので二つ名と名前が有名になっているが、そういった人物はギルドにも何人かいることにはいる。


 皆がシエロのような戦闘嗜好者バトルテイスタなのだ。


「それはそうですが、ギルド内では登録者の質の向上のために毎月百位までのランキングを出します。そこで名前が載ってしまいますとギルド内での呼び出しや、最悪街中で名前を呼ばれただけでバレてしまう可能性がありますが……それでもよければ構いません。」


「確かに……」


―――偽名で登録はしたもののファーストネームは愛称だしな。普通に街中でリルが名前を読んだだけでバレかねない。


 ヴィント自身は戦いが嫌いではないが、戦闘嗜好者バトルテイスタというわけでもなく、隣にはアプリルもいるので余計な面倒は避けたいと考えていた。


「何か良い二つ名は決まりましたか?」


「それじゃ―――」




 † 

   †

     †




 フロアに戻ってきた二人は依頼掲示板を見る。


 掲示板には乱雑に依頼を要請する用紙が張り付けてあり、二人が色々と物色しているとそこには国境沿いの人狼ヴォルフの討伐依頼が出ていた。


「あ、これって……」


「ああ、今日のだな。」


「えぇっと……討伐の証拠に人狼ヴォルフの肉体の一部など。で、報奨金額はいちじゅうひゃく……八十万!?」


 アプリルの驚きの声が上がる。


 八十万あれば一般の四人家族が三ヶ月は生活できるだろう。


「やっぱり出てたか……受付に行こう、リル。」


「え、もしかして……」









「えー、馬の換金が二十万ゴルトと国境沿いの人狼ヴォルフの討伐達成の報奨金額が八十万ゴルト、合わせて百万ゴルトのお渡しになります。」


「どうも。」


 ヴィントは先ほどの受付の女性から報奨金を受け取る。


 ちゃっかりと人狼ヴォルフの肉体の一部を持って来ていたのだった。


「うわ、そんな大金初めて見たよ。」


 ヴィントが手に持つ札束を見て驚くアプリル。


「俺も初めてだな……」


「え、そうなの?」


「あぁ、普通はこんな金額を持ち歩くこ―――」


「ヴィオ?」


 アプリルは突然押し黙ったヴィントが気になり視線を札束から顔に移す。


 そこには険しい顔をしたヴィントがいた。


「何の用だ?」


 ヴィントは静かな声で言葉を発する。


「おっと、そんなに警戒しないでくれないかな? 今のはちょっとした挨拶みたいなものだからさ。」


 アプリルが声のした方向へ振り向くと、そこには全身真っ白の柔和な笑みを浮かべる青年がいた。


 顔立ちは整っていて眉目秀麗という言葉がよく似合い、微笑みを浮かべたその姿は優男と表せそうだ。


 髪の毛は穢れを知らない雪のように真っ白で肌も白いため、薄暗いギルド内でかなりの異彩を放っている。


 これだけ浮いていたら先ほどのヴィントたちのように絡まれそうだが、誰一人近づいてこない。


 むしろ、遠巻きにひそひそと何かを話し合っている。


「挨拶? 人様に殺気を向けるのがか?」


 その様子を尻目にヴィントは、アプリルを背中の後ろで庇うために一歩踏み出した。


「まぁまぁ……気を悪くさせたらごめんよ。でも、あの一瞬の小さな殺気に気付くとは……どうやら、ちゃんと能力に見合うだけの経験も積んでいるみたいだね。」


「……」


 両手を上げて敵意のない様子を表す青年だが、ヴィントは警戒を緩めない。


「自己紹介が遅れたね。僕の名前はエンゲル。年齢は二十歳でランクはS。二つ名は―――」


 ニコニコと自己紹介をする青年の顔を見ていたアプリルは、エンゲルと名乗った青年と目が合った瞬間、背中に悪寒が走った。


「―――鎮魂曲レークヴィエム。」


 言葉では言い表せない不安を隠すためにアプリルはヴィントの外套をギュッと握る。


「……で、そのSランクの鎮魂曲レークヴィエムさんが俺に殺気を向けてまで何の用だ?」


「物怖じしない性格……うん、君なら僕たちの仲間に引けを取らないだろう。」


 目の前にいるのは冒険者の中でも最高位の強さを持つ人間。


 だが、ヴィントが今まで師に仰いできたのも他の追随を許さなかった化け物(シエロ)である。


「仲間?」


「そう……僕は大陸中に名を馳せるあの大吸血、満月喰らい モント・フィンスターニスのファーターを討伐するために仲間を集めているんだ。」


「なっ!?」


 エンゲルの口から出た内容には流石に驚くヴィント。


 満月喰らい モント・フィンスターニスのファーターと言えば数百年に渡って大陸中を席捲し、その存在はもはや民話として語られている。


 ヴェステン国では満月喰らい モント・フィンスターニスを題材にした絵本も出ているほどだ。


「依頼書にある危険度はSSS級……これは、Sランクの冒険者が三人以上集まらなければ依頼を受けることができない超難関依頼だ。だから……どうか君の力を借りたい。―――天災カタストローフェ。」








今更ですが、改稿前の面影がギリギリしか残ってない。


このりゅうかくを読んでる皆さんって、龍のアザを~も読んだ方ばっかしなんですかね?


それとも、このりゅうかくだけ?


なんか気になりますね(・。・;


ちなみに満を持してか判りませんが、次回かその次にはあの娘が出ます!


というか作者が出したい!


黒いアイツも出す予定です。


感想ありがとうございました。


引き続き、評価に感想、誤字脱字の報告をお待ちしております。



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