第二章:第二話:愛おしい人
まずはじめに、
bibliomania様
誤字脱字のご指摘ありがとうございました。
今回の話は長すぎたので二話に分割しました。
後半が短く急ぎ足だったので納得いかずに加筆しました。
だから投稿が早くできたのですが、自分の中では結局一話目なんですよね、この話も。
ともかく、第二話をお楽しみ頂けたら幸いです。
幼キ少女ノ背中ヲ切リ裂イテ鮮血ヲ撒キ散ラシタ。
ソレハ幼キ日ノ少年ガ驕心ヲ持チ続ケタタメニ起キタ出来事。
「ウワァァァーーー!!!」
ドンッ
―――アプリルの背中のすぐ真上で吹き飛んでいった。
「ハッ!?」
絶叫と共にヴィントの昂った魔力が体から溢れ出て周囲を蹂躙した。
ヴィントが意識を戻すと、魔力の暴走により自分を中心に周囲の木々はなぎ倒され、大打撃を受けた人狼の群れが壊滅状態に陥っていた。
首無しの人狼の死体は間近で暴走の煽りを受けたせいか、少し離れた所で随分とずたぼろになっていた。
「ハァハァ……痛ぅ……」
無茶な魔力の行使をしたせいで全身に激痛が走るヴィント。
何とか意識を保ってアプリルの様子を伺う。
不思議なことにアプリルの周囲は魔力の暴走の被害を受けなかったようで、傍らの馬も脚の怪我以外は無事だ。
アプリルも服が切り裂かれて背中がパックリ見えているだけで、怪我をした様子は見受けられない。
ただ、それは今回の話だ。
少女の白い背中には、昔に鋭い爪で切り裂かれただろう傷痕が痛々しく残っていた。
ヴィントがアプリルを抱きかかえると、所謂お姫様抱っこの状態になった。
「うぅ……あ、れ……ヴィ、オ?」
すると、意識を取り戻したアプリルがぼーっとした視線でヴィントを見つめる。
「いつの間にか心の奥底に沈めてたんだな……これは俺の過ちなのに……」
「……? ヴィオ?」
「でも、心の何処かで告げてたんだろうな。リルを見捨てるなって。だから旅を……」
言葉は消える。
「どうし、て……そんな、辛そ……うな、顔してるの?」
「それで赦してくれなんて言わない、言えない。でも……背中の傷は―――」
―――俺の
独白のような告白をアプリルは、人差し指をヴィントの唇に当てて遮る。
突然の感触にヴィントが閉じていた目を見開くと、そこには弱々しながらも穏やかな微笑みを浮かべるアプリルの顔が映った。
「……赦すも、何も……初め、から……私は、君の、こと……怨んでなんか、いなかったよ。」
「リ、ル……」
「むしろ、君は……私を、助けてくれた……初恋の男の子なんだから。」
目を潤ませる腕の中の少女を少年はどこまでも愛おしく思った。
「……」
「だから……うわぷっ!?」
今度はヴィントがアプリルの言葉を遮った。
突然の抱擁で……
アプリルは地面に足を付けた状態でぎゅっとヴィントに抱きしめられる。
「今の今まで記憶の奥底にあったけど、あの別れた後に必死に魔術を学んで、どんな怪我も治せるようになったんだ。今度こそその背中の怪我を治すために……だから―――」
ヴィントは抱擁を緩めるとアプリルの目を真剣に見つめる。
「うん、それじゃ……お願い、しようかな。」
言い終わると同時にアプリルも愛おしそうにヴィントの背中に腕を回し、コツンと額を胸に預けた。
「あぁ、任せてくれ。
―――You were born for all these people you love.《愛されるために生まれてきた》
This world, full of precious people. 《そんな愛おしい人でいっぱいの世界》
To fulfill your love.《あなたも愛するために》
Go,《行こう》“April”《アプリル》
―――全てを癒す空の祈り」
ヴィントが魔術名を唱えると世界は優しい光に満ちた。
本来なら、どんな死の淵にいる怪我人でも回復させることができる治癒系魔術最高峰の全てを癒す空の祈りを慈しみを持って唱えたヴィントはアプリルの頭に口付けをした。
通常の治癒魔術では補填できない血の回復や失われた四肢や臓器の回復もできる。
例え体の半分が消え去っても、生きていれば回復させることができる……それは、すでに修復の域だ。
もう復元と言っても良いだろう。
そこにゼクレは勿論、シエロも到達できていない頂。
そんな魔術を目の前の女の子が持つには痛々しすぎる古傷を持った少女に使う。
それは償い。
それは幼き日に交わした約束。
それは―――
「―――!?」
驚くアプリルの背中を淡い光が撫でた。
†
†
†
昔の話。
一人の少年は母親に深い森の中へ投げ込まれた。
手に持っているのは一本の剣。
少年はがむしゃらに一日一日を生き延びた。
初めは空腹を満たすことも大変だったが、いつしか獲物を捕まえるのが上手になった。
魔物の群れから命からがらに逃げていたのが、いつしか追い回す側になっていた。
少年は強さに酔っていった。
ある日、魔物の群れを返り討ちにし、追い打ちをかけていたら……一頭の魔物の前に
一人ノ少女ガイタ。
少女ノ手ニハ薬草ガ握ラレテイル。
興奮シテイル人狼ハ逃ゲル少女ニ鋭イ爪ヲ―――
ズサッ
気ガ付クト少年ノ前ニハ滅多刺シニサレタ人狼ト血塗レノ少女。
少年ハ自分ガ使エル治癒魔術ヲ掛ケテ掛ケテ掛ケタ。
傷ハ塞ガッタガ……少女ノ背中ニハ痛々シイ痕ガ残ッタ。
少女ノ顔ガ…悲シミニ満チタ心ヲ隠シ、助ケテクレテ……アリガトウ、ト言ウソノ笑顔ガ少年ノ網膜ニ焼付イタ。
少年ハ深イ自責ノ念ニカラレタ。
それは、昔の話。
†
†
†
「背中……治ったの?」
「あぁ、綺麗になった。」
顔を埋めて訊ねるアプリルの頭を撫でながら確認もせず答えるヴィント。
「そっか……」
「あぁ……」
二人は静かに抱きしめたまま動かない。
「……そろそろ行かないと、ほんとに日が暮れちゃうよ?」
先に沈黙を破ったのはアプリルだった。
「そうだな……そろそろ行くか。」
二人は名残惜しそうに離れた。
ヴィントはアプリルにローブを出して着せると、馬の脚を治して出発の準備をした。
ヴィントはアプリルに目深くフードを被せる。
それから辺りに倒れている人狼に無表情でとどめを刺していく。
それは、溢れんばかりの感情の濁流に流されないように……
アプリルも何となくヴィントの心情を察し、ただひたすらローブの裾を握る。
その後、特に盗賊や魔物に遭遇することなくシェントゥルム共和国との国境を越えた。
そして、日没前には国境沿いの街、アンファングに着いた。
えー全てを癒す空の祈りの詠唱は特殊なので、英語ですが通常の魔術は違います。
それから、訳を読んですんなり落ちない方もいるかもしれませんが、本来は死の淵(三途の川辺り)を彷徨う人が現世(世界)に戻ってくるための詩ですので……そんなスゴイ魔術をリルに使ったんだ、と思って下さい(汗
誤字脱字に感想、評価お待ちしております。