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第二章:第一話:既視感

お待たせしました。


第二章突入です。


感想に誤字脱字の報告をお待ちしております。


「ふぅ……美味しかった。」


「そりゃよかった。ほれ。」


 シチューの入った大皿に黙々とスプーンを突っ込んでは口に運ぶという作業を繰り返していたアプリルは、最後の一口を嚥下して溜息を吐き、感想を一言。


 そんなアプリルの姿を紅茶を飲みながら眺めていたヴィントは、新しいカップに紅茶を注ぐ。


「ありがとう。」


「どういたしまして。食器下げるから貸してくれ。」


「あ、うん。」


 アプリルから食器を受け取ったヴィントは、魔術で水を呼び出してあっという間に綺麗にした。


「魔術って便利なんだね。」


「まァ、こんな使い方してる奴もあんまりいないだろうけどな。」


 感嘆の声を上げるアプリルに食器を拭きながら応えるヴィント。


 実際にこの大陸での魔術の活用方法はもっぱら戦闘にのみ使われている。


 食器を拭き終わったヴィントは、傍らにある縦60cm、横90cm、高さ80cmほどの木造の宝箱の形をした箱に食器をしまう。


「その箱も魔術?」


 アプリルは魔法陣の上に佇む箱を指差して訊ねる。


「あぁ、無限の箱エントリッヒ・シャハテルっていう魔術だ。この箱の中は無限大に広がっていて、さらに箱の中では時の流れが止まっているから食べ物も腐ったりしない。」


「本当に便利だねぇ……」


 目を丸くして驚くアプリルにヴィントは苦笑する。


「いや、この箱にもいくつか制限があって、生物や箱より大きい物は容れられないし、何が入ってるか覚えておかないと容れた物を出せないとか……他にも細かい制限はあるけど大まかにはこんな所か。リルが食べたシチューも王宮のコックが作ったものをしまっといたんだ。」


「わ、王宮の人達ってあんなに美味しい料理を毎日食べてんだぁ……」


「その代わりに毒殺におびやかされる毎日だけどな。」


 王宮での食事に思いを馳せる少女にさらりと現実を突きつけるヴィント。


 アプリルは引きつった顔でお腹に手を当てる。


 だが、ヴィントの言葉には語弊がある。


 毒殺に脅かされていたのはヴィントとシエロだけで、他の王宮内の人間にはそんな心配はない。


「えぇーっと……」


「今食ったシチューなら安全の保障はされているから大丈夫だぞ。」


「あはは……」


 乾いた笑いしか出てこないアプリルだった。




 † 

   †

     †




 一息入れた二人は旅路の支度をする。


「さて、そろそろ出発しないと国境は越えられても日没までに一番近い街に入れないな。」


「ごめんね、私のせいで大分遅れちゃったよね……」


 荷物を片付け手ぶらになったヴィントは、馬の手綱を握りながら何と無しに言うと、それを聞いてしゅんとするアプリル。


「気にすんな。拾った責任はちゃんと取らないとな。」


「……」


「場を和ます冗談だ。だからそんな目でこっちを見るな。」


 ジト目で睨むアプリルから視線を外しながらどうどうとジェスチャーするヴィント。


 その姿に表情を緩めるアプリル。


「もう……」


「ほら、先に馬に乗ってくれ。」


「うん。よいしょ! ……私、馬に乗るの初めてだ。」


「慣れない内は乗り心地悪いから覚悟しておけ。よっ!」


 期待感に胸を膨らませるアプリルに現実を突きつけたヴィントも馬の後ろ側に跨り手綱を握る。


「よし、行くぞ!」


「うん!」


 二人を乗せた馬は緩やかに脚を進める。










 道中をとりとめもない話で花を咲かせるヴィントとアプリル。


「そうだ、リルって今何歳? 俺とあんまり変わらない気がするけど……」


「16だよ。ヴィオは?」


「17だ。」


「1歳違いだね。」


「そうだな。」


「あ、ヴィオって―――」


 そんな朗らかな雰囲気に包まれる二人に近寄る影が忍び寄る。


「……」


「急に黙ってどうしたの?」


「ん? いや、どうしようかなと思って。」


 今までの地獄の修行で見出された超感覚とも言えるべきモノが働いたヴィントは臨戦態勢に入った。


「そうだよね、いきなりこんな質問されても迷っちゃうよねぇ。でも、私は―――」


 アプリルとの雑談に意識を3割、周囲に意識を巡らせるのに7割と思考を分割させる。


―――この気配は魔物か……国境沿いのこの森に生息して、かつ群れるのは……人狼ヴォルフ


 人狼ヴォルフと呼ばれる魔物は狼が二足歩行したような姿で、鋭い爪と牙を持ち、体長は二メートルに迫らんとする獣人タイプの魔物である。


 特徴としては十頭前後で群れをなし、原始的ながらも武器を持つ。


 主に森深くに生息するが、稀に人里に下りては人間を襲い、獰猛ながらも知能が高くてチームプレーもするので危険度はかなり高い。


「ねぇ、聞いてる?」


「あぁ、悪ィ……ちょっと考え事してた。」


 振り向いて少し不満気なアプリルに、思考の海から戻されたヴィントはばつが悪そうにする。


 その時、少し離れた所から「ワォーーーン」という鳴き声が聴こえた。


「い、今の鳴き声って……?」


人狼ヴォルフの狩りの合図だな。」


 身を竦めたアプリルが怯えながら瞳を揺らす。


 ヴィントが答えると、アプリルの体が異様に震えた。


「? どうした、リル?」


 疑問に感じたヴィントが問いかけるが、アプリルは反応せずに歯をガチガチと鳴らす。


 ただならない様子を感じたヴィントはアプリルを抱きかかえて馬を駆けさせる。


「舌を噛むなよっ!」


 後ろからは人狼ヴォルフが追いかけてくる気配がする。


 森の中を駆け抜けながら思考を巡らせるヴィント。


―――人狼ヴォルフの群れぐらいなら俺一人でも何とかなるが、リルがこの調子だと足手まといにしかならない。頭の良い奴らだ。絶対にリルから狙ってくる。とにかく魔術で牽制して―――


 ヒュンッ


「!?」


「ヒヒ―――ン!?」


 風切り音が聴こえたと思ったら時すでに遅く、人狼ヴォルフの投げた石が馬の脚に刺さり、派手に転倒した。


 何とかアプリルを抱きかかえて倒れたヴィントは、素早く態勢を整えて剣を抜く。


 右手に剣、左手に魔力を込める。


 傍らのアプリルはうつ伏せに倒れてピクリともしない。


 どうやら落馬の衝撃で気絶したようだ。


 その姿を見て既視感を覚えるヴィント。


―――いつだ、俺はこの光景を見たことがある(・・・・・・・・・・)? 思い出せ! 俺はこの後の出来事を後悔して―――


「痛っ!?」


 すでに戦闘は始まっているのに、目の前の敵に集中していなかったヴィントの左手に石が当たった。


 痛みに顔を歪めるは一瞬、すぐさま臨戦態勢に入ったヴィントの目に映ったのは、今にもアプリルを鋭い爪で切り裂かんとする人狼ヴォルフの姿……


「―――っ!?」


 自分にも人狼ヴォルフの攻撃が迫っているのを無視して、必死に剣を振るヴィント。


 アプリルへ爪が到達するよりも速く、ギリギリで人狼ヴォルフの首を刎ねたが、慣性の法則で伸ばされたままの腕の先にある爪が―――










































幼キ少女ノ背中ヲ切リ裂イテ鮮血ヲ撒キ散ラシタ。


ソレハ幼キ日ノ少年ガ驕心ヲ持チ続ケタタメニ起キタ出来事。










最後に


bibliomania様


分かり難かった文章のご指摘ありがとうございました。


次話は順調にいけば、今夜にでも投稿します。


最悪でも土曜日には投稿します。


では、今後もよろしくお願いします。

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