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間章:ロートの受難

 お待たせしたので一日に一挙二話公開です。


 感想に誤字脱字の報告をお待ちしております。

 ヴィントと別れてから一日後。




「なんか盗み以外で城とかに入るの初めてだな。」


「阿呆、もう城内に入ったんだ。言葉には気をつけろ。」


 ゲルプとブラウのやり取りを聞きながらロートは先ほどの門番の対応を思い出す。


―――国民からの人気は高くても城内での人望は無しか……


 ヴィントからの王家の紋章が入った紹介状を見せたときの門番の顔は蔑んだ顔が全てを語っていた。


 現在、アンペルの三人は門番の詰所の中にある小部屋にいた。


 王家の人間への客人への対応とは思えない。


 ここからもヴィントのことを軽視していることが伺える。


 コンコンコン


 ノックの音にロートは思考の海から戻る。


「どうぞ。」


「失礼します。」


 ドア越しにでも判る澄んだ声の持ち主がドアを開けた。


 燕尾服を着た蒼銀の髪を結い上げた若い女性……ゼクレはエメラルドグリーンの瞳で室内を一瞥すると一歩下がり、ドアを押さえる。


 そして、一人の美しい女性が金色の髪を靡かせて室内に入ってきた。


 三人は息を飲んだ。


「どうやら息子……ヴィントがお世話になったようで……あ、申し遅れましたが私はシエロ。こっちはゼクレ。」


 三人は鈴が鳴るような美しい声に聴き惚れる前に、目の前の女性の口から発せられた言葉に耳を疑った。


「あんたがヴィオの母親?」


 ロートは思わず立ち上がった。


「えぇ、そうよ。正真正銘ヴィオの実母よ。」


「?」


 急に雰囲気が変わったことに疑問を感じるロートを見てニヤリと笑うシエロ。


 余計に訝しむロートにシエロは言葉を紡ぐ。


「うちの息子を愛称で呼んでるってことはそれなりに信用されてんでしょ? まァ、そうじゃなきゃ私のところに寄越さないでしょうけど。」


 シエロの言葉を聞いてなんとなく人となりが掴めたロート。


―――どうやら頭は回るみたいだ。それに貴族特有の嫌味も無い。


「一応な。」


 ロートは口元を緩めて答え、ヴィントとの経緯を話す。




 † 

   †

     †



「―――で、あんたがヴィオの師匠って聞いたんだが、本当か?」


 一通り話したロートは最後に気になっていた質問を投げかける。


「まあね。なんなら確かめてみる?」


「いや、遠慮しとくよ……」


 戦い好きのロートとしても、昨日の今日でというのとヴィントの師匠とはいえ、自分がこれから仕える人間(しかも女性)と戦う気にはならなかった。


「それじゃシエロ。私の部屋から着替え持ってきて。私たちは先に……今の時間ってどこか演習場空いてるかしら?」


「へ?」


「今の時間は第一から第四まで埋まっているかと……」


 間抜けな声を出すロートを無視して、今まで沈黙を守り通していたゼクレが答える。


「なら、めんどくさいけど……久しぶりにあそこ(・・・)でいっか。」


「あの……俺、遠慮するって……」


「いつ襲われるか判んない世界で生きてきたんだからつべこべ言わない。」


 言っていることは正論だが、どこかウキウキしている目の前の女性をみてロートは悟った。


―――こいつ、戦闘嗜好者バトルテイスタか!?


「もうめんどくさいから着替えはいいわ。幻想空間イルズィオーン・ラウム


 グニャリと空間が歪み、すぐに戻るとそこには誰もいなかった。




 † 

   †

     †




「あれ、ここは……?」


 空も地面も灰色の何もない世界に五人だけが、ぽつんといる。


「……どうやら時空間干渉系らしいな。ここは差し詰め、彼女の世界だな。」


 ゲルプの疑問にブラウは驚愕しながらも答える。


 アンペル内で唯一魔術が使えるブラウは興味深げに辺りを見回す。


 ちなみにロートはリーダーで戦闘担当、ブラウが魔術担当、ゲルプは潜入担当だ。


―――そりゃヴィオも刻印魔術を使いこなすぐらいだから母親も同等かそれ以上って予想できてもこれは……


「反則だろ……何だよ、時空間干渉系を無詠唱って……」


「さて、まずはあなたたちの実力の把握からかしらね。」


 項垂れるロートを無視してシエロは話を進める。


「デーゲン。」


 シエロの言葉に虚空から一振りの剣が現れる。


 それをシエロが掴んだ瞬間、とんでもないプレッシャーを感じる三人。


「!?」


 殺気は感じられないが、精神的重圧が肉体にまで干渉しているように感じられた。


 ヴィントも強かったが、シエロは次元が違う。


「構えなさい。まずは赤髪の……ロートだったわね。あなたからつぶしてあげる(手合せ願おうかしら)。」


 シエロの言葉にロートは言い知れぬ不安を感じた。


 そして、それは正しかった。


 もし、ヴィントがこの場にいたのならばシエロの言葉を意訳できただろう。


 シエロの後ろに佇むゼクレも彼女の言葉を意訳し、憐みを込めた視線をロートに送る


 その意味にロートは後ほど気付くのだった。


「ゼクレ、私は三人を適当に半殺しにする(揉んでいく)から治癒魔術よろしく!」


 ゼクレが頷き、地面に刻印魔術――治癒効果と障壁の効果のある魔法陣――を描き始めたの確認すると、満面の笑顔を浮かべた。


「逝くわよ♪」


 三人は後に語る。


 あれは悪魔の笑みだったと……




 † 

   †

     †



 結果から言うと三人は、数時間で数えきれないぐらい死にかけた。


 ゼクレは三人をそれぞれ十回治癒した辺りから数えるのを止めた。


 致命傷だけ直接治し、細かい傷を魔法陣の効力に任せたゼクレは、近くで優雅にティータイムを楽しんでいるシエロの元へと歩み寄る。


 驚くことに彼女のドレスには破けたところも血の一滴の汚れもついていない。


―――あー端から見てるとホントに地獄よね、アレ。まァ、まだ四肢切断がないだけましね。


 すでに悟りのレベルまで至ったゼクレから見れば今回の地獄もまだ救いようがある。


 一番救いようのないのは、目の前の加虐嗜好者サディストだろう。


 通常、治癒魔術では傷を治せても失われた血を補填することはできない。


 では何故、致命傷を何度も負った三人が失血死をしなかったかというと、シエロは三人を切った際に飛び散る血や流れ出る血は空中に留めて自己輸血に利用し、切り裂かれた傷はすぐさま応急処置だけするなど徹底した管理を行っていたからだ。


 そのため、ゼクレの役目はもっぱら、打撲や骨折に内臓破裂、火傷や凍傷などの治癒だった。


 手っ取り早く強くなるにはこれが一番と幼少期から修行を受け続けたヴィントとゼクレの強さはいつしか尋常ではなく異常になったのだからシエロは正しいと言えば正しいのだろう。


 故事にも、獅子は我が子を千尋の谷に落とすとあるのでシエロだけが狂っているわけではない……ただ、彼らが落とされたのは地獄だっただけだ。


 ちなみに後日、その話を聞いたロートは顔を青ざめ、一番辛い修行内容は何かとゼクレに聞くと、いつもは泰然自若としている彼女はわなわなと震え、シエロに訊ねれば、えへへと少女のような笑顔で返された。


 ここ数日ですでにシエロの笑顔の意図が判るようになったロートは、ここに送り込んだヴィントを恨んだのだった。






 つづく?



 結局もう一話書き上げてからの間章になりました。


 しかもロートにスポットが!笑


 ついでにヴィントの強さの秘密が……


 まァ、こういうことです。


 第二章はシェントゥルム共和国編ということで、満を持して(?)あの娘の登場です。笑


 次回もよろしくお願いします。


 

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