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第一章:第九話:旅の同伴者


 お待たせして申し訳ありませんでした。


 第九話です。


 

 



 ロートたちの後ろ姿も見えなくなり、手を振るのを止めたアプリルがヴィントの方をチラリと見やる。


「ん、どうした?」


「へ、あっあの……どうしたってわけじゃないんですけど……」


 段々と声が尻すぼみになっていく少女。


 どうやら急にヴィントと二人きりになったことを思い出したようだ。


 先ほどまでは王族に対しても恐縮しなかったロートがいたからか、特に意識し過ぎることもなかったが今は違う。


「さて、これからどうしたもんか……」


「えっと、父親探しに行くんじゃないんですか?」


 頭の後ろで手を組みながらぼやくヴィントに、アプリルは頭を傾げる。


「いや、俺じゃなくて君のこと。」


「へ、私ですか!?」


 ヴィントの言葉に驚くアプリル。


「そ。そういや、どうしてあんな場所に一人でいたんだ?」


 いくら昼間とはいえ森の奥など、とても安全な場所とは言えないだろう。


 今回は偶然にもアンペルという助けが入ったから良かったものの、普段なら魔物や―――


「えーと……ウサギを追いかけてたら森の奥まで迷い込んじゃって、そしたら盗賊の人たちに襲われそうになって……」


―――それこそ盗賊に襲われて命を落とす危険もある。


「で、ロートたちが助けてくれた。と……」


「はい……」


 アプリルの説明にヴィントは心の中で大きく息を吐く。 


「あーそれは判ったが、俺が聞きたかったのはどうして森に、ってことだ。まさか散歩してたわけでもないだろ?」


「あっ、……シェントゥルム共和国に薬を買いに行く途中で…」


「……薬を買いに?」


「はい、私の母親が少し前からちょっと難病に罹って……その病気を治す薬がシェントゥルム共和国にいけば手に入るらしくて……」


「まァ、シェントゥルム共和国には大陸中から様々な物資が集まるしな……だが、隣国とは言っても女の一人旅は危険だぞ。特に国境沿いは盗賊たちの縄張りで……」


 ヴィントは如何に危ないかを話し、アプリルは顔を塞ぐ。


「でも私が行くしかないんです!」


「!?」


 ヴィントの言葉をいきなり遮り、瞳に涙を溜めたアプリルは大きな声で叫ぶ。


「危ないことなんて私だって判ってますよ! でも! ……日に日に弱ってくお母さんに何もすることができない私がいて、私よりも幼い妹がいつも気丈に振る舞ってて……でも、夜中に泣いているのを見て、じっとなんかしてられなかったの!」


 瞳に溜まっていた涙は溢れ、慟哭する少女。


 地面にしゃがみ込み、子どものように泣く少女にヴィントは戸惑う。


 その間もアプリルは啜り泣いている。


 そんな姿を見て、ヴィントはしゃがんでアプリルの頭を優しく撫でる。


「ぐすっ……?」


「悪かった。大して事情も知らないのに……君の気持ちも考えないで無神経だったな、俺。」


 頭を撫でられて少し落ち着いたのか、アプリルは顔を上げて首をフルフルと横に振り、ヴィントは手を頭から降ろした。


「あ……」


 するとアプリルは少し寂しそうにする。


「ん? どうした?」


「えっと……」


 優しく問いかけるヴィントの言葉に言い淀むアプリル。


 そんなやり取りに心の中で首を傾げたヴィントは、再びアプリルの頭を撫でた。


「ふぇ……」


「ん? 頭を撫でられるのは嫌だったか?」


「いえ……私が小さい頃泣いたときは、よくお母さんが抱きしめながら頭を撫でてくれたか―――」


―――安心するんです。


 アプリルの言葉はヴィントの胸の中で消える。


「今日はいろんなことがあったろ? それから残してきた家族のことも、これからの旅路も不安だろ? だから、思い切り泣け。それですっきりしたら―――」


 ヴィントは抱きしめた少女の背中も優しく撫でる。


「―――俺が一緒に旅してやる。」


 その言葉に今まで抱えていた様々な感情がアプリルの中で弾け、少女は自分からもヴィントに抱きつく。


 いきなりの抱きつきに、ヴィントは態勢を崩して地面に倒れ込むが、胸の中の少女は構うことなく再び泣き始めた。




 † 

   †

     †




 十数分後。


 アプリルが泣き止み、どこかすっきりした顔を上げる。


「よう、すっきりしたみたいだな。」


「……はい。」


 目元は腫れて鼻も真っ赤だが、可愛らしい笑顔を見せる少女にヴィントは一瞬見蕩れる。


「……ん、んじゃ、そろそろ起き上がるとしようか。」


「ふぇ……」


 ヴィントの言葉にアプリルはようやく現在の状況を理解した。


 地面に倒れているヴィントとその上に覆い被さる自分。


「っ!!」


 アプリルは顔を真っ赤にして立ち上がった。


「あ、あの、すすすみませんでした!」


「いや、気にすん『ぐぅぅぅ』……」


 お腹を盛大に鳴らしたアプリルは顔から湯気が出る一歩手前になった。


「……昼飯食べてないのか?」


 いたたまれなくなったアプリルはヴィントの問いに小さく頷いた。


「とりあえず、ここから移動しようか……少し先に馬を置いてきたままなんだ。そこで今後の話もしよう。それで良いか?」


 蚊の鳴くような声でアプリルは返事をした。




 † 

   †

     †




 先ほどヴィントが休憩を取っていた場所までやってきた二人。


「あの木の下だ。」


 ヴィントの指差す先を見てアプリルは違和感を感じる。


 何か無理やり意識が外されるというか、意識を集中しなければ一瞬で意識が外れて違う所を見てる事に気付くアプリル。


 多分、指差されなければ気付くこともなかっただろう。


 それにどうやら記憶に霞が掛かるのか、一瞬何を考えていたのか分からなくなる。


「んん……」


「ああ、認識阻害の魔術を掛けてあったのを忘れてた……」


 何だか四苦八苦して目を細めているアプリルを見て、ヴィントは思い出したかのように解除をする。


 目の前の空間に罅が入ったかと思うと『パリィィィーン』という硝子が砕けるような音とともに砕け散った。


 すると、今まで何もなかった木の下に馬が一頭現れた。


「あ、ちゃんと見える……」


「あそこで昼寝でもしようと思って盗賊や魔物対策で魔法陣を描いたままだった。」


 ヴィントは何でもないかのように言うが、ここに魔術に精通したものがいれば目を見開いただろう。


 ただでさえ扱うのが難しい魔法陣を昼寝そんな理由で使うなんて、と……


「危ないですもんね……」


 そんなことは露知らずあっさり流すアプリル。


 二人は木の下までやってくると腰を下ろした。


「改めて……俺の名前はヴィント・シュタート・ナトゥーア。だけど、本名で呼ばれると色々と拙いんで、ヴィオって呼んでくれ。あ、もう一度言うけど敬語はいらないし、畏まった態度も取らないでくれ。自然に話しかけてくれた方が俺としては有り難いから。」


「えっと……私の名前はアプリル・フリューリング。私のことは―――」


 アプリルは一度言葉を止め、何かを決意するかのように手をギュッと握る。


「―――リルって呼んでね、ヴィオ。」


 花が咲いたような笑顔で手を差し出すアプリル。


「お、おう。これからよろしくな、リル。」


 ヴィントも笑顔で差し出された手を握った。


 ぐぅぅぅ……


 ピシッとアプリルの笑顔が凍った。


「そういえば昼飯を食いにここに来たんだったな。景気づけに今すぐ美味いのを用意してやるから待ってろ!」


 ヴィントが慌ててフォローするが、果たしてその言葉は目の前の少女に届いたのだろうか……







 それから少女はヴィントが用意したシチューの匂いが鼻孔を刺激するまで動かなかった。




 とりあえず、この九話で第一章を終えようと思ってるのですが、何となく納得いかないのでもしかしたら加筆修正するかもしれません。


 その時は最新話でお知らせします。


 するかなぁ?

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