異界の門②
砂の上に横たわるエイの様な魔獣を庇う様に緑色の魔法石をちりばめたメイジスタッフ(魔法の杖)を構える少女と、まがまがしい魔力を纏った漆黒の巨大な剣を構えた神奈が対峙する。
その脇では、クレーターから目を回しながらはい上がってきたラズロットとリズロットを叱り付けるリタの姿がある……
そのためか、少女と神奈の緊迫した状況にも関わらず、その場の空気に緊張感のカケラも感じられない。
『あんた達、何者なの?返答次第ではボコるわよ!!』
『私は崎守 神奈、そこの双子の邪神様に魔法を習う身で、その双子を叱っているのがその世話役のリタ オプテラさんです。』
『ふ~ん、私はラスティー ノワルよ。
……それにしても嘘はもっと上手くつきなさいよね。
あんなチンマイのが伝説の邪神な訳ないじゃない!!』
どうやらラスティーは、神奈の説明が嘘だと判断してしまったらしい。
実は彼女の世界には、魔族の危機を救った邪神の伝説が語り継がれているのだ。
長い年月をかけて美化された邪神伝説を聞かされてきた彼女の持つ邪神像と、目の前の双子とのギャップは掛け離れたものだ……。
『まぁ……このお二人が神に見えないのは事実ですが、一応最上位の暗黒神に入るお力を持っていらっしゃいますよ。』
双子を叱り付けながら会話を聞いていたリタが、話しに割り込んできた。『神に見えないとか失礼極まりないのだ!』
『一応とかどういう意味ですか!』
そのリタの説明に頬を膨らませ反論する双子、やはり偉い神様には見えないというか、わがままな子供そのものである。
『だって見えないし……』
ラスティーの指摘はごもっともだが、完全にバカにされたラズロットとリズロットは完全にシンクロした動きで彼女を睨みつけ、
『なら証拠を見せるのだ!』
『あの魔法が通じないエイモドキを瞬時に治療してやるのです!』
と、ラスティーの心を読んであの魔獣に魔法が効かない事を知っていた双子達は、その魔獣を瞬時に治療して、神であることを証明すると言い出した。
どうやら双子達は完全に頭に血が上り、怒りに任せて行動している。
『邪神様!落ち着いて下さい!!よりにもよって魔獣を……』
『うるさいのです!!』
『神様はナメられたら終わりなのだ!』
『何もたついてるのよ……実はできないとか言うんじゃないでしょうね!』
プチッ(双子達の何かが切れた音)
『むきゃああああ!!』
何とか双子をなだめようとするリタだったが、ラスティーの最期の挑発がトドメとなり双子はシンクロして奇声を上げ、完全にブチ切れモードとなってしまった。
『今やる所だから、黙れなのです!』
ラズロットは苛立ちながら、右手をリズロットに差し出し、それをリズロットが掴む。
すると、辺り一帯の地面が半透明となりグリッドが表示され、至る所に謎の文字列が流れる半透明のボードが浮かぶ不思議な空間が構築さていく。
『ロウビルドゾーン(法則製作空間)……邪神様!それは秘匿能力です、迂闊に使っては……』
それを見たリタは慌てて止めようとするが、双子達はそれを無視し謎の空間の構築を続け、ついにコーンと言う堅い不気味な音と共に空間構築が完了した。
次に双子達は魔獣の元に歩み寄り、それに軽く触れた。
魔獣の身体がワイヤーフレームの様な表示となり、更に無数のボードが表示される。
ボードには、謎の文字列そして振動する紐の様なものの集合体が表示されている。
ラズロットは文字列のボードを、リズロットは紐が描かれたボードをそれぞれ自分の近くに集め、ボードを、タッチパネルの様に操作しはじめる。
すると、ワイヤーフレーム表示となった魔獣は、パーツ毎にバラバラなり、破損したり欠損した部分がみるみる間に修復され元通りになっていく。
その様子を神奈とラスティーは唖然とした顔で、リタは呆れた顔で見守る。
その間にも魔獣の修復は進み、組み立て作業に移っている。
双子達は無言のまま黙々と作業を進めているが、不思議な事にお互いが何を考えているのかが解るかの様に完璧なコンビネーションで手早く作業を進めていく。
そして、魔獣のパーツが組み上がった所で、魔獣の上に一際大きなボードが浮かび上がり、赤い色の文字列が表示され、次々と青色に変わっていき、全ての文字列が青色に変わった瞬間に、ボードは溶け込む様に消滅し、魔獣もワイヤーフレーム表示から通常表示に戻り、元通り元気に動きだした。
『いったい、何をしたんですか?』
目の前の光景に頭が完全に追いついていない神奈が双子達に説明を求めたが、双子達は『壊れた所を直しただけ』としか答えなかった。
『これで、ラズ達が神様だって信じたですか?』
構築したロウビルドゾーンを元に戻しながらラズロットは得意げにラスティーを見る。
『な……なかなかやるじゃない……まあこれぐらい当然よね。』
強がってみせるラスティーだったが、さっきは見事に驚き唖然としていたのは確かである。
『おもいっきり驚いてた癖になのだ♪』
当然リズロットがそこをからかい気味につっつき『うるさい!こんな程度で私が驚くわけないでしょ!!』と怒鳴り付けてごまかそうとした彼女だったが、双子達には火に油でしかない。
『きゃはははは♪ツンデレなのです♪』
『ツンツンモードなのだ♪デレはいつくるのだ♪』
当然ながら双子達は更に彼女をからかいはじめる。
『黙りなさい!何よそのツンデレって言うのは!!』
『ツンツンなのです♪』
『デレはまだらしいのだ♪』
『あ!この、待ちなさい!!』
怒りをあらわにするラスティーを逃げながらからかい続ける双子達……そして更にヒートアップしながらそれを追いかけるラスティー……
その様子を見てため息を漏らすリタ……
『ギュウ……』
同情する様に鳴き声をあげる魔獣……
ダメな主を持つ者同士、少しだけ心が通じ合えた気がしたリタだった……
『デレ来いなのです♪』
『ツンツンツンなのだ♪』
『待ちなさい!この~!!』