魔王討伐に出た幼馴染の勇者が王女様と結婚したって聞いた時に「へーそうなんだ」と返す私の話
執着系好きです(笑)
4,000字程度の短編です。
サクサクと読んでください。
私には幼馴染がいる。隣の家の綺麗な男の子で名前はヴァル。小さい頃は弱っちくて、いつも私の陰に隠れている様な子供だった。
親からも『ヴァル君は、か弱いんだから丈夫なティオナが守ってやりなさいね』と言われちゃったら必然的に私がヴァルを守る事になる。
兎に角、ヴァルはどこに行くにも私にくっついて来た。他の誰が遊びに誘おうと、何をしようと私から離れようとしなかった。
小さい頃はまだ良かったのだが、ある程度大きくなってくると皆がヴァルの美しさに気づき始めたのだ。
そうすると村中の娘達がヴァルに近づこうとするが、ヴァルは『ティオナ以外要らない』なんて言ってくれちゃったのだから、さあ大変。
『ヴァル君を解放してあげて』だの、『私の方がヴァル君に相応しいわ』だの。くっついて離れないのはヴァルなのだから、そう言う事はヴァルに直接言って欲しいものだわ。
そんなヴァルにべったりされた時間を十年程過ごし、私とヴァルが十五歳になった頃、千年ぶりに魔王が誕生したというニュースが世界を駆け巡った。魔王が生まれると勇者も現れると言うのがセオリーである。
それが、自分とまったく関係の無い場所の話なら良かったのだけど。
ここまで言えば察しが付くと思うが、ヴァルがその勇者だったのである。
神殿にいる聖女様に神託が降りたとかなんとかで、国のお偉いさん達が『ヴァル様は勇者だと神からのお告げです。つきましてはヴァル様に魔王討伐をお願いしたい』と私達の村にやって来たのだ。
勇者しか抜くことが出来ないと言う伝説の聖剣を携えて。で、ヴァルはあっさり抜いちゃいましたよ聖剣、勇者確定だね。
まあ、ヴァルは当然の如く『ティオナが一緒でないと行かない』と宣ってくれちゃったのだ。
国のお偉いさん達から、是非とも魔王討伐に同行して欲しいと懇願された。それもそうだよな、世界の命運と私の命を秤にかけたら答えは簡単。
見事、生贄の羊になった私なのでした。
魔王討伐には勇者であるヴァルと聖女様、魔導師に治癒師に多くの剣士、騎士が参加している。
確かにヴァルは勇者として凄かった。魔王誕生の余波で、活性化した魔獣や魔物達の大群をいとも簡単に屠ったのだから。
ヴァルの美しさも相まって討伐軍の皆が心酔していった。
なのに、美しい勇者の側にいる普通の村娘。事情を知らない者達からの突き上げは凄かった。
「ヴァル様に付きまとう分不相応な娘。さっさとヴァル様から離れて村に帰りなさい」
「貴女程度でヴァル様の側に居るなんて許せないわ。出て行きなさいよ」
「アンタなんか魔獣の餌にでもなれば良いのよ!」
「ヴァル様に近づくな!村へ帰れ」
とまあ一事が万事、男女問わずこの調子。
「帰れるなら帰りたいですよ。でも私が帰るとヴァルも帰るって言い出しますよ。良いんですか?」
大抵の人はこれで引いてくれる。唯一引いてくれなかったのは、この国の第二王女で聖女のビルギッタ様だ。
「お前がヴァル様に付きまとっているという幼馴染ね。勇者であるヴァル様は王女であり聖女の、わたくしと結婚するのが相応しいの。身を引きなさい」
「身を引くも何も、私にくっついてるのはヴァルの方なので」
「どうせ体を使ってヴァル様を籠絡したのでしょう?穢らわしい」
「そんな事してません!」
体を使って?十五歳なのに殆ど成長しなかった、まな板の様なこの胸で?
「なんでもいいわ!レイヴン、この娘を処分なさい!」
王女様は護衛騎士に命じると、この場から立ち去った。残された護衛騎士のレイヴンさんと私。
ビルギッタ様の命令には逆らえないらしく、レイヴンさんに連れ拐われた。このレイヴンさんにも良心はあったみたいで殺されずに適当な所に捨てられた。
幸い、丈夫な私だ。捨てられた所の近くにあった村まで無事に辿り着けた。私が居なくなった事に気付いたヴァルがどうなるか考えただけでも恐ろしい。
勇者の力を手に入れたヴァルだよ?
ビルギッタ様、死ななきゃ良いけどね。
辿り着いた村の食堂で働かせて貰えて、二階の部屋も貸して貰えた。でも二日もしない内に村に響く絶叫。
「ティオナあああああああああ!」
絶叫と共にやって来たのは勿論ヴァルである。
丁度、休憩中で木陰で昼食を取っていた私を見付けたヴァルは一直線に向かって来た。思いっ切り飛び付かれた私は支えきれずに転ぶ。
私に抱き着いたヴァルは泣きじゃくる。
「ティオナぁ、どうして俺を置いていなくなっちゃったのおおおお!」
私の服に鼻水を付けないで欲しい。
「私、騎士の人に拐われて捨てられたんだよ、ぽいってね」
「ビルギッタの騎士だね?」
「そう」
「後で絶対シメる!でも今はティオナを堪能する」
「変態っぽいから、その言い方止めて」
私の平らな胸に顔を埋めてヴァルは離れない。
そうこうしていると魔王討伐軍の皆がヴァルを追って村に到着した。
「ヴァル様、またそんな娘に抱き付いて。嫌ですわ」
ビルギッタ様は私を見て顔を引きつらせていた。殺した筈の私が生きているのだから。
ヴァルは私を抱えたまま立ち上がり、ビルギッタ様を睨みつける。
「お前〜!ティオナを捨てたんだってなあ〜」
ヤバい!ヴァルが本気でキレてる。ビルギッタ様が殺されるぅ。
「ヴァル様〜、そんな村娘よりわたくしの胸の方が大きくて柔らかいですわよ?」
「嫌だ!そんな贅肉。それにお前臭いから嫌いだ!」
「ぜっ、贅肉…。臭い?わたくしが?」
「そんな事よりティオナを捨てた事は許さないからなぁ。覚悟しろよ!」
「勇者様!お許しを。ティオナ様を捨てたのは私です!」
あ、レイヴンさんだ。
「お〜ま〜えがあぁ?ティオナに触ったのか?」
「も、申し訳ありません!」
「許すわけ無いだろう!」
レイヴンさん、ヴァルに殴られて飛んでっちゃったよ。大丈夫かな?
「さあ〜て、ティオナを捨てる様に命じたのはお前だよな、ビルギッタ」
「ヴァル様に纏わりついて迷惑されていると思ったのですもの。だから排除して差し上げようと…」
「へ〜排除ね。おい、そこのおっさん達!」
急に呼ばれたのは騎士団の団長達。彼らは私が魔王討伐軍に同行する理由を知っていた筈の人間だ。だけど私がちょっかい掛けられてるのを黙認してたんだよね。
「は、はい、勇者様。何か?」
「お前ら、ティオナが側にいる事が魔王討伐に行く必須条件だって知ってたよな?」
「はい!ですが他言無用との命が…」
「誰?そんな事言ったの?」
団長達は一斉にビルギッタ様を見る。
て、事はビルギッタ様は私がヴァルの側に居なければならないって知ってた事になる。とすると、ヴァルに迷惑だから私を排除するって言う理由は通らない。
「へ〜、じゃあ魔王討伐や〜めた」
討伐軍の全員が真っ青になっている。
「そんな勇者様!世界が滅んでしまいます!」
「終わりだ〜!!」
全員が口々に叫んでいる。
「約束を破ったのはお前達だろ」
「ヴァル様!ティオナ…様を捨てた事は謝ります。お願いですから魔王を討伐して下さいまし!」
流石のビルギッタ様も事の重大さに気付いたようだ。
「嫌だね」
あ〜あ、ヴァルが拗ねモードに入っちゃったよ。仕方ないなあ、もう。
「ねえヴァル?私、ヴァルがカッコよく魔王を討伐するところが見たいなあ?ヴァルの側の特等席で。勿論、ヴァルは私のお願い聞いてくれるよね?」
「カッコいい俺好き?」
「うん。魔王討伐したヴァルはとってもカッコいいと思うよ」
「じゃあやる!」
「早く魔王倒して村に帰ろう?」
「分かった。ティオナがそう言うなら」
そこからのヴァルは彼の方が魔王だって言われても可笑しくないくらい強かった。実際、討伐軍はヴァルの戦いを見てるだけ状態だったんだから。
私捨てられ事件から討伐軍の皆の態度があからさまに変わって面白かった。ビルギッタ様ですら嫌々だろうけどティオナ様って呼んでくる。
ヴァルの活躍であっと言う間に魔王城に到着した。生まれたばかりでも魔王は魔王。強い…はず…?
はい!終わりましたあ!
もうね、一言も喋る暇もなくサクッと魔王は倒されちゃいましたよ。おまけに二度と魔王が誕生しない様に、魔王が生まれて来るとされる核(本来は破壊不可)をもサクッとね、割っちゃいましたよ。
どこまで規格外なんだヴァルは?
「終わったよ!ティオナ。俺カッコ良かった?」
「うん。凄くカッコ良かったよ!」
「俺の事好き?」
「大好きだよ、ヴァル」
「頑張って良かった。ティオナ、村へ帰ろう」
「うん」
これで村に帰れる…と思ったが、あっさり帰らせては貰えなかった。王都に連れて行かれて、やれ祝勝会だ凱旋パレードだって引っ張り回されて、ヴァルの機嫌は急降下。
後で宥める私の身になりなさいよね!
まあ、国から魔王討伐の報奨金をたっぷり為めたけどね、ヴァルが。
全て終わらせて、やっと村に帰れる事になったが、最後の最後にビルギッタ様にやられましたよ。
魔王は討伐されたし、私がヴァルの側にいる必要は無いだろうと、私だけ先に馬車に押し込められて村へ帰された。ビルギッタ様はまだヴァルを諦めていなかったみたい。
村に着いて馬車から一人で降りてきた私を見た友人達から、哀れむような視線を向けられた。
「久しぶり。元気だった?」
私が声を掛けると、友人達から思いも寄らない言葉を掛けられる。
「ティオナ、大丈夫?」
「何が?」
「だって、ヴァル君は魔王を討伐した勇者だから王女様と結婚するんでしょ?」
「知らないよ?」
村では王女様とヴァルが結婚するという噂で持ち切りらしい。
「やっぱり勇者は王女様と結婚するのが相応しいよね」
それはあり得ないと、私が答えようとしたら代わりに答えられた。
「誰が王女と結婚するって?」
「だって村の皆が言ってるよ」
「そんなのデマだよ。俺はティオナしか要らない」
私の後に怒オーラ全開のヴァルが立っていた。
「そっ、そうなんだ。お帰りヴァル君。魔王討伐おめでとう」
友人はヴァルからの視線に耐え切れず、そそくさと逃げ帰った。
「ヴァル、おかえり」
「ただいま。最後の最後にビルギッタにやられたよ。ティオナだけ先に村に帰すとかさあ」
ヴァルは呼吸が乱れていた。
「まさかここまで走って来たの?」
「だって、ビルギッタはしつこいし、ティオナは居ないし。早く村に帰りたかったし」
「お疲れ様。頑張ったねヴァル」
「ティオナの為に頑張ったんだ。いっぱい褒めて」
頭を撫でてやるとヴァルは嬉しそうに笑った。
それから暫くして成人と同時にヴァルと結婚した。ヴァルは魔王討伐後も能力は無くならなかったみたいで冒険者になった。私は村で小さな雑貨屋をやっている。
時折、村に訪れる旅人や行商人が私の店に寄ってくれた時に言われる言葉かある。
「この村から魔王を討伐した勇者が出たんだってね。その勇者は王女様と結婚したって言うじゃないか。めでたいねえ」
未だに、この噂は流され続けている。どれだけヴァルと結婚したかったんだ?ビルギッタ様は。
「へーそうなんだ」
私は笑顔で返す。
でも、ヴァルは私のものだからね。
Fin
最後まで読んで頂きありがとうございます。




