表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

8.ポップ作り①~優花の意外な弱点~

「透ー! 昨日透からもらった本。全部読んだよっ!」


「早い、ね!?」


 月曜日の閉店後。僕がリビングのソファーで本を読んでいると、優花が隣に座ってきた。


 だから近いって……。


「いやぁすっごく面白くて、つい夜更かししちゃった!」


「そう……面白いって思ってくれたならよかった」


 僕はソファーの端により、なるべく優花から距離を取る。


「だからこの熱が冷める前にポップ作りたいの。今からポップの作り方教えてくれない?」


「今からって……優花はお腹空かないの?」


 時計は二十時過ぎを指していた。優花だってお腹が空いているはずだ。だが優花は引かず、ソファーに手をついて顔を近づけてくる。


「大丈夫! そんなことよりわたしは今、この面白さを誰かに伝えたくてしょうがないんだよっ!」


 凛とした目をキラキラさせる優花の息遣いが、僕の頬をくすぐる。ソファーについた手に体重を乗せた前傾姿勢。そのせいで、白のブラウス越しに胸元が強調されてしまっている。


 落ち着け落ち着け落ち着けっ……! いい加減この距離感になれようよ僕!


 目を閉じ深く息を吐く。そしてもう一度目を開いてみる。そこには、かわいらしく小首を傾げた美少女がいた。


 これに慣れるなんて無理でしょ……。


「わ、分かったから……とりあえず離れて。この体勢じゃ教えられないって」


「やった!」


 優花は分かりやすく喜ぶと、素直に離れてくれた。


 助かったぁ……。


「じゃあ、紙とペン取ってくるから待ってて」


「うんっ! ありがとう」


 僕は優花という直射日光から非難するように、足早に階段へと向かった。


***


「じゃあまずキャッチコピー──一番大きく書く、お客さんの目を引く文言を考えてみて」


 食卓に並んで座り、僕は優花にポップ作りを教えていた。


 すぐそばには楽しそうに微笑みながら作業する優花がいるけれど、僕は緊張やドキドキはしていない。なにせ本のことだ。ここで浮ついていたら、本に申し訳ないからね。


 それから何度か優花のキャッチコピー案にアドバイスし、キャッチコピーが決まる。


「それじゃあキャッチコピーはそっちの裏紙にメモしといて。次は紹介文を考えるから」


「分かった」


 優花は食いぎみに頷いてシャーペンを持つ。


「……こうやって好きな本のことを考えるのって、思ってた以上に楽しいかも」


「優花も分かるっ? 人に自分の好きを知ってもらうのって楽しいよね!」


 まあ僕の場合、熱がこもりすぎると一方的な押し付けになっちゃうんだけど……。


「書いたよー」


「うん。それなら次は──」


 何気なく優花のメモに目をやった瞬間、僕の口は動きを止めた。なぜなら、優花が書いた文字は、ミミズが這っているような読みにくい文字だったから。


「……優花その字、メモだからだよね?」


「ん? 何が?」


「えっ……?」


 だって前にノート見た時は普通……あれ? 僕って数字とローマ字しか優花の文字見たことない……?


「えっと、適当に数字とかローマ字書いてみて」


「……? 分かった」


 理由が分からず、僕の顔色を窺いながらシャーペンを動かす優花。彼女が書いた「2」や「pen」の文字は特段読めない文字ではなかった。それどころか、むしろ読みやすいきれいな字だ。


 何で!?


「……えっと、優花って平仮名とか漢字書くの苦手?」


「そんなことはないけど……どうかしたの?」


「どうかって……その字じゃちょっと、ポップを書くのは厳しい、かな」


「えーなんでっ!?」


「なんでって……」


 このレベルの汚さで無自覚なのか……どれだけ周りの人に甘やかされてきたらこうなるんだ……?


 そうは思いつつも、僕も面と向かって優花に「字、壊滅的に汚いね」とは言えなかった。


「あー、ポップは癖のない字のほうがいいんだ。まあ作風によってはわざと丸めて書いたりすることもあるけど、今回は最初だし、普通に書いてみよう?」


「うん。よく分からないけど、透がそう言うならそうするね」


「じゃあとりあえず、メモにさっきのキャッチコピーをもう一回書いてみて。今度は本に使われているような活字っぽく」


「分かった」


 優花は「やろうと思えばできます」とでもいうような平然とした返事をすると、早速一文字目を掻き始め──。


「あれっ……?」


 見事に解読不能な図形を作り出した。こんなはずはないともう一度一文字目を書き始める優花。けれど、優花の手から描き出されるのは奇怪なイラストばかり。そんなことを三度繰り返したところで、優花は筆を置いた。


 やっぱり書けないかぁ……だってまずペンの持ち方変だもん。


 優花は、ペンを中指と薬指で挟んで持っていた。あれではまともな字を書くことは難しい。


 優花は引き攣った笑みを浮かべ、動揺に揺れる目で僕を見た。


「わたし、字書けないかも……」


「うん……なんとなく分かってた」


「ど、どうしよう透。……これじゃポップ作れないよぉ!」


「そうだね……とりあえず、字の書き方から教えるでいい?」


「はい……よろしくお願いします……」


 優花はガックリと肩を落とし、分かりやすく落ち込んでいた。


 これは、長い夜になりそう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ