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片思いしていた元同級生がうちの本屋でバイトを始めたんだが!?〜彼女は毎日のようにリビングまで上がり込んでくるし、距離感おかしくない?〜  作者: 早野冬哉
第一章

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7/17

7.おすすめの本

「男女関係なく楽しめるラブコメなら、この辺りがいいんじゃないかな」


 本は読まずとも恋愛ドラマはよく見るという優花。僕は恋愛小説は読まないため、代わりに彼女が面白いと言ったドラマの特徴に似た要素を持つ、エロ要素のないラノベを何冊か選んだ。


「へぇー。いろんなのがあるんだね」


 本当に、ラブコメみたいな状況だよなこれ……。


 ラノベの表紙に描かれた、作者の理想を体現した美少女ですら見劣りする優花の横顔は、見ているだけで癒される。


 優花は本を裏返し、あらすじを読み比べていく。


 あれ待てよ……これって、広い意味でみたらデートなのでは……! いや、本屋でデートなんてしないと思うけど、今って女子と二人でショッピングしてる状況だよね? これってやっぱりデート──。


「どれも面白そうで迷っちゃうなー。透はこの二冊ならどっちがおすすめ?」


 そう聞かれた途端、僕の思考はプツリと途切れた。代わりに優花に一歩近づき、前のめりになって口を開いた。


「その二作品で迷うなんて優花は見る目あるよ! そうだな……その二つは恋愛の甘酸っぱさの度合いがちょっと違うんだけど、真夏の快晴みたいにスッキリ爽やか熱々かつ癖強キャラのてんこ盛りラブコメを読みたいなら右。札束と掃除機みたいな優劣関係から始まる、しんしんと降り積もる粉雪みたいに静かに趣深く積み重ねていくラブコメが読みたいなら左がおすすめかな!」


 本のおすすめを聞かれてテンションが上がり、僕は一気にまくし立ててしまった。


 あっ……やっちゃった。ついオタク語りを……。


 我に返り優花を見る。優花は両手に持った二冊の本で顔を隠し、プルプルと震えていた。


 優花に引かれた……終わった。今度こそ完全に終わったよ僕の青春……。


 全身から血の気が引いていき、膝がワナワナと震えだす。


「透……」


「はい……」


 優花の震えた声が僕の名前を呼ぶ。今すぐにでもこの場から逃げたくて仕方なかったけれど、僕の足は言うことを聞かない。


 僕は冷や汗が背を伝う嫌な感触を覚えながら、優花の手によって「キモい」という三文字のギロチンが落とされるのを待つことしかできなかった。


 けれど、その時は訪れなかった。


「あははっ! 何その喩え! どうやったらそんな表現が思いつくのっ? あらすじ読んだけど、スポーツ選手とスポンサーを札束と掃除機って……言い方ヒドっ! スポンサーだって得してるんだからねっ?」


 優花は腰を折って笑い、無邪気な笑い声を店内に響かせた。


「えっ……?」


 どういうこと……? オタク語りが、許された?


「相変わらず透は喩えのセンスがすごいよねっ! その喩えって何かの本に出てきたりしたの?」


「いや、僕が読んだ本の中にはなかったと思うけど……」


 心の底から楽しそうに笑う優花に、僕の脳内はハテナマークで埋め尽くされていく。


「ホントにっ? じゃあホントにどうやって思いついてるのっ?」


「どうやってって言われても……頭の中に浮かんできたのを言ってるだけだけど……」


「なにそれっ! 天才肌の芸術家みたいなこと言うね」


 落ち着いてきた優花は、目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭う。その仕草がまた新鮮で、気付けば見入ってしまっていた。


「……僕はそんなんじゃないって」


「謙遜しなくてもいいのにー」


 スッと僕の横に回り込み、肘で僕の横腹を小突いてくる優花は相も変わらず距離が近い。人をからかうように目と口を細く開く優花もすごくかわいかった。


 ……っ!? 何!?


 不意に、首筋にサラサラの何かが触れる。見ると、優花が肘を出す度反動で彼女の髪が揺れ、柔らかい黒髪が僕の首筋をくすぐっていた。


 くすぐったいやら恥ずかしいやら優花はかわいいやら──この状況、いったい何なの?


「そ、それで優花。どっちにするか決めた?」


 僕は強引に流れを切ることを選択。優花は僕の選択に応えてくれた。


「んーこっちかな。癖が強い登場人物って、見てて面白いから」


「そう……なら最初だし、バイト歓迎プレゼントってことで僕が払っておくよ」


「ええっ……それは悪いよ」


 優花が選ばなかった本を元の位置に戻していると、優花は選んだ本で僕の背中をつつく。どうやら一度本を僕の手に戻して、レジで受け渡ししたいというサインのようだ。


「けどそれはそれで悪いよ。だって仕事に使うから買うんだし、もし読んでみて好みに合わなかったら申し訳ないよ」


「でもお店の商品をタダてもらうのは抵抗ある──あっ! いいこと思いついた。要はタダじゃなければいいんだもんね」


「ん? どんな?」


 そう聞き返すと、優花は人差し指を唇に当てて小悪魔的に笑ってみせた。


「まだヒミツ! 今はこの本、透の言葉に甘えてタダでもらうねっ?」


「うん……」


 優花はいったい何するつもりなんだ……? またとんでもないことをするんじゃ──。


「まあまあ楽しみにしててよっ!」


「そう言われると怖いんだけど……」


「失礼だなぁー……さっ! 切り替えて仕事に戻ろっ?」


「うん……」


 僕は釈然としない思いで、優花の後に続く。


「それにしても、透はいい意味で高校の時から変わってないよねー。あ、わたし透のあの喩え好きだったなー。あの太陽系に喩えたやつ。人間関係に悩んだら、一度距離を取ってみるといいってことを『太陽系の惑星だって、お互いに距離を取っているから正常に太陽の周りを回っていられる』って喩え──」


「あれっ? 僕その話優花にしたことあったっけ?」


 たしか、太陽系とか宇宙に喩えるのはなんか気取ってる感じがするなーって思って、高校に入ってからは使わないようにしてた気が……。最後に使ったのは、中学三年の──。


 この時、考えにふけっていた僕は気付かなかった。優花の目からハイライトが消え、警察の前で致命的な過ちを犯した犯人のように青ざめていたことに。


 チーン。


 不意に、レジの店員呼び出しベルが鳴った。その瞬間、止まっていた時間が動き出したように、優花が焦った声で話し始める。


「いやいや使ってた使ってた! とにかく使ってたんだよ! はい! この話はもうお終いねっ! わたしレジやってくるからー!」


 一度も目を合わさずに走り去る優花の後姿を見て、僕は首を傾げた。


「なんだったんだ?」

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