5.優花が○○に!?
「ふぁああ……寝坊したなぁ……昨日遅くまでラノベ読んでたから仕方ないけど」
日曜日の朝。僕は眠い目を擦り、三階から二階へと階段を下りる。
「──っぱり──うわねぇ~」
「明美さ──ずかしいです……」
この声……もしかして優花が二階にいる!?
僕は慌てて寝癖を押さえつけ、深呼吸をする。それから視線を下げ、気配を消して階段から洗面所へ直行しようとしたのだが──。
「あら透〜。おはよう」
母さんに気付かれ、僕は仕方なく二人を振り返る。
「透っ! 振り返っちゃダ──」
「おはよう母さん、優花……えっ?」
優花を見た途端、僕の脳はショートした。なぜなら彼女は今、メイド服を着ていたから。
白と黒を基調としたそれには、裾や袖口、胸元など至る所にフリルが装飾されている。そして胸元からは谷間がチラッと覗いている。しかも半そでだから、細く柔らかそうな二の腕も露出していた。
優花の、恥ずかしそうに右手で左の二の腕を掴んでいるポーズも相まって、理性が飛びそうになる。
……っ! ダメだ。これ以上見ちゃ……。
思わず視線を下げると、今度は短いスカート丈のせいで、ラインの整った膝や太ももが視界に入る。窓から差し込む日差しを反射して光るそれは、僕には刺激が強すぎて──自ずと視線は優花の顔に向かった。
すると、湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にした優花が、プルプルと肩を震わせながら口を開く。
「こ、これは違くて……明美さんがその……ぁ、明美さん説明して──っていないし……!」
さっきまで優花の隣にいた母さんはいつの間にかいなくなっていた。
「えと、えと……だからこれはぁ……」
肩にかかる髪を頻りに弄る優花。
自分よりパニクってる人を見ると冷静になれるって本当だったんだな。
優花のあまりの慌てように、僕はかえって冷静になる。一度深く息を吐くと、状況を呑み込むことができた。
「母さんがまた何か言ったんでしょ?」
「そ、そう! そうなのっ! だからわたしがこの格好を望んだわけじゃなくて……無理やり! 無理やりだから! か、勘違いしないでねっ!」
「分かってるから少し落ち着いて。水飲む?」
「……うん」
僕はコップを差し出す。すると優花はひったくるようにコップを受け取り、一気に喉に流し込んだ。
「落ち着いた?」
「ちょっとは……」
「母さんになんて言われてそうなったの?」
「『見て見て~、押入れを整理してたらこんなもの見つけたの~。折角だし優花ちゃんに来て欲しいな~? まだお客さん少ないんだからいいでしょ~』って。あの時の明美さんの笑顔の圧が強すぎて……押し負けたよ……」
「あーそれはごめん……母さんって普段あんなだけど、やりたいこと見つけたら無理にでも押し通そうとするところあるから……」
ハハハ、と苦笑いする僕。これで後は優花が着替えてくれれば一件落着かと思ったのだが──僕を見る優花の目が、不満げに細められた。
「な、何?」
口をすぼめ、スカートの裾を握る優花。今も羞恥心に耐えている彼女の顔には、まだほんのりと赤みが残っている。
「ちょっと、不公平じゃないかなぁ?」
「な、何が……?」
「だって透、平気そうじゃん。わたしだけ恥ずかしい思いしたのにズルい」
「そんなこと言われても……」
というか全然平気じゃなかったんだけどな……今は少し落ち着いたけど、さっきまでは「ここで手を出したら一生優花に会えなくなる」って理性でギリギリ堪えてただけだし。
そうして僕が優花から目を逸らしていると、優花の足音が一歩二歩と迫ってくる。
「優花?」
何をする気なんだ?
恐る恐る優花の顔を見ると、彼女はニヤリと口角を吊り上げ、小悪魔的に笑う。そしてスカートの裾を摘み、お辞儀した。
「お帰りなさい。ご主人様っ!」
「はっ!? 優花っ!?」
いたずらっぽい上目遣いが、すぐそこにある。鼻先にある艶やかな黒髪からはシャンプーのいい匂いが漂ってくる。メイドカフェや異世界貴族みたいな非現実的な状況に、僕の中でリアルとフィクションの境界線が揺らぐ。
これは現実これは現実これは現実……これ現実? 今なら手を握るくらい冗談で済──僕のバカ野郎!
僕は強く目を閉じ、自分を戒める。歯を食いしばり拳を握り締め、何とか煩悩に抗う。けれど優花は、この程度の辱めではぬるいと言わんばかりにさらに距離を詰めてきた。僕の胸元に、柔らかい感触が伝わってくる。
「ほらほらご主人様。次はわたしに何をして欲しいのかなー? 膝枕で耳かきなんでどう?」
そう言うと優花は僕の耳たぶを触れてきて。彼女の指先から、優花の火照った熱が伝わってくる。
これ、完全に暴走してる……!? 優花は僕を恥ずかしがらせることしか頭にないんじゃ……。
「……っ! 優花! 優花は今自分で何してるか分かってる?」
「何って、わたしは透にも恥ずかしい思いを──」
「こんなの、優花だって恥ずかしいだろ……!」
そう言って僕は、目の動きで窓ガラスを示した。そこには、普段より露出の多い服で僕と密着した優花の姿が、ばっちり映っている。
「ふぇっ!?」
やはり優花は、僕を照れさせることばかり考えていて、自分が今どんなことをしているか分かっていなかったらしい。窓ガラスに映った自分の姿を直視した途端、優花は腕を突っ張り、僕と距離をとった。
「ああええっと……ごめんっ! 着替えてくる!」
耳まで赤くした優花は、それだけ言い残してトイレに駆け込んだ。それでようやく、僕は一息つくことができた。
あ……危なかったぁ……。
僕はマラソン後のように火照った体を冷ますため、服をパタパタさせて風を送る。洗面所に行き、冷たい水で思いっきり顔を洗った。
今日僕のシフトは午後からだけど……優花とうまく話せる自信ないなぁ……。
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