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3.優花の気持ち

*** 鳳優花視点 ***


 相変わらずだなぁ桐山く──透。あのすごく独特な喩えも、にじみ出る人の良さも。


 わたしは桐山家を後にした帰り道、高校での透のことを思い出していた──わたしが彼を特別視することになった思い出の一つを。


***


「はい。今日も隣の人とペアを組んで、一文ごとに交互に本文を音読してください」


 高二の春。英語教師の指示とともに、教室中がガヤガヤと賑わい始める。喧騒の中、わたしはいつも通り桐山くんに笑いかけた。


「よろしくね! 桐山くん」


「うん。よろしく」


 いつも通りの挨拶からいつも通りの音読へ。目くばせ一つ、阿吽の呼吸で桐山くんが一文目を読み始める。


「──ラストオクトーバー」


「終わったー!」


 全文読み終わり、わたしは教科書を机に置き伸びをした。


 これでようやく桐山くんと話せるっ!


 周りの生徒はまだ音読をしていて、授業が再開するまではまだ時間がある。桐山くんと話せるこの時間は、わたしが学校生活で楽しみにしている時間の一つなのだ。


 今日はどんな面白い喩えを披露してくれるかなっ?


「桐や──」


「鳳さんってアイドルみたいだよね」


「えっ……?」


 彼の一言に、息が詰まった。だって、わたしが「人気者」の殻を被らずに話せる唯一の相手だった桐山くんに、突き放された気がしたから。


 わたしの沈黙を喩えがピンと来ていないからだと勘違いしたのか、桐山くんは髪を弄りながら説明を始める。


「あ、いや。……なんていうかその、鳳さんって楽しくない時でも演技して笑ってる時あるでしょ? なんかそれって、ファンの理想であろうとするアイドルみたいだなーって」


 そっち!? わたしが加奈たちの前で無理してるの、桐山くんにバレてる!?


 桐山くんがわたしを突き放したわけじゃなかったという安堵と、秘密がバレた焦りが混ざり合い、冷や汗が出てくる。


「それはええっと……」


 言えない。高校デビューして奇跡的に友達ができたから、ちょっとでも空気を壊して嫌われるのが怖いだなんて。そんな情けないこと、桐山くんにだけは絶対に言えないよ!


 わたしがあわあわと視線を揺らし、口をパクパクさせていると、桐山くんが口を開いた。


「それに今の鳳さん。ずっと演技してて辛そうだし。そんなことしなくても、佐藤さんたちは鳳さんを受け入れてくれると思うよ?」


 わたしの内心を見透かした桐山くんの言葉に、ハンマーで殴られたような衝撃が走る。


「そんなの分かんないじゃん!」


 思わず声が大きくなってしまった。幸い、周囲の音読の声で目立つことはなかったが、桐山くんにははっきりと聞こえたようで。彼は真っすぐにわたしを見て、聞いてきた。


「本当にそう思う? 佐藤さんたちって、どんな話でも、空気が悪くなっても、それを茶化して場を明るくしてくれる。そうでしょ?」


「それはそうだけど……」


「それに……鳳さんは飾らなくても素敵な人だと思うよ」


「ふぇっ……!?」


 桐山くんからの不意打ちに、一気に頬が熱くなる。けれど桐山くんはわたしから視線を逸らし、話しを続けた。


「だから、佐藤さんたちに素の鳳さんを打ち明けてみたらどうかな?」


「……はい」


 焦りやら恥ずかしいやらなんやらで混乱したわたしは、思わず敬語で頷いた。


 その日からわたしの高校生活がより楽しくなったことは、言うまでもないだろう。


*** 桐山透視点 ***


「うわあぁぁああぁぁああぁっ!」


 とんでもない黒歴史を思い出してしまった。俺は枕に顔をうずめ叫び、のたうち回った。


 何考えてたんだ僕は! モブのくせにぼっちのくせにクラスの人気者にコミュニケーションを語るとかバカじゃないのか! しかも「素敵な人だと思うよ」って恥ずかしすぎるし何様だよ……!


 あの時僕はヒロイン救済系のラブコメにハマっていた。たぶんその影響で、優花にいらないお節介を出してしまったのだろう。


 いつもリアルとフィクションは別だって言い聞かせてるのになんであの時はあんなこと……優花、忘れててくれないかなぁ……。


*** 鳳優花視点 ***


「ありがとうございましたー!」


 桐山書店。接客を終えたわたしは、本棚の方を見る。そこでは透がポップやおすすめ本の配置を確認していた。


 文学からラノベまで、それぞれの本棚を真剣な目で確認していく透の姿を目で追ってしまう。そうしていると、ドクドクと心臓の音が高鳴ってくる。


 やっぱりわたし、透のことが好き、なのかな……?


 高校の時からずっと感じ続けていたこの感情は、好きと言う気持ちなのだろうか。


 でも当然と言えば当然かな。だってわたしは、透に二回も救われたから……透は覚えていないだろうけど、わたしはどっちの思い出も絶対に忘れないよ?


 一度目はもっと前。あれは──。


「すいませーん!」


「あっ、はい。すみません。お会計ですね?」


 お客さんの声が聞こえて、わたしはバイトに戻った。

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