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片思いしていた元同級生がうちの本屋でバイトを始めたんだが!?〜彼女は毎日のようにリビングまで上がり込んでくるし、距離感おかしくない?〜  作者: 早野冬哉
第一章

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2.帰宅、歓迎会

「はぁ……講義の内容が全く入ってこなかった」


 二限、三限と九十分講義があったが、僕の頭の中は鳳さんのことでいっぱいだった。


 まさか高校時代に片思いしてた鳳さんと再会することがあるなんて……本当にこれ、現実?


 僕は家の裏口──書店になっている一階をではなく居住スペースである二階に直接つながる扉に向かう。


 今日は店番ないけど、荷物置いたら店の様子をこっそり覗いてみようかな。


 鳳さんがうちのバイトになったことが現実かどうか確かめよう。そう考えながら階段を登り、無造作に裏口の扉を開けた。直後──。


「えっ!?」


 トイレから出てくる鳳さんと目が合い、僕は思わず声を上げた。


「あっ。桐山くんおかえりー!」


 さも当たり前のように、そっと微笑み軽く手を振る鳳さん。自然体で声を弾ませる彼女の姿に一瞬、エプロンとお玉を持った新妻バージョンの鳳さんが重なって見えた。


「あ、うん。……ただいま」


 鳳さんとの不意の顔合わせと、勝手な妄想への羞恥心で、僕の目は泳ぎまくる。


「なんか今日、桐山くんの様子変じゃない? どうかしたの?」


 明らかに挙動不審な僕に鳳さんは小首を傾げる。その時の鳳さんのサラサラとした黒髪の揺れすら、今の僕には刺激的で──心拍数は上がるばかりだ。


「な、何でもないよ。鳳さんと話すのが久々だったから、話し方を忘れてるだけ」


 いくらぼっちな僕でももう少しまともに喋れるはずなんだけどなぁ……毎回意表を突かれるから上手く声が出ない……。


「そう? じゃあわたしはバイトに戻るから。またねっ!」


「うん。また……」


 最高の笑顔を残して階段へと消えていく鳳さん。彼女の姿が完全に見えなくなると緊張が解け、全身から力が抜けた。


「夢じゃなかった……。本当に鳳さんが週五でうちに来るのかぁ……」


 高校時代の僕がこのことを知ったら発狂するってこれ。片思いの相手が毎日のように家に来るなんてどこのラノベ展開だよ。


 でもこれは現実。リアルとフィクションは違うのだ。告白なんかしたら絶対キモがられて、鳳さんは二度とバイトに来なくなるかもしれない。


「誘惑に負けないようにしないと……この生活に慣れるまでは時間がかかりそうだなぁ」


 嬉しい悲鳴の意味にはこんなパターンもあったのかと、僕は一人自嘲した。


***


「な、なんで鳳さんがいるの!?」


 夕食を食べに食卓へ行くと、なぜか鳳さんが座っていた。天地がひっくり返ったかと思うほど衝撃的な出来事に、僕は思わず声を上擦らせてしまった。


「お邪魔してまーす!」


 いたずらっぽく微笑み、僕を手招きする鳳さん。対面には母さんが座っていて、席は鳳さんの隣しか残されていない。


 どうしろと!?


 高校の時と同じ隣でも、教室の机と食卓では距離が違いすぎる。あんなところに座ったら、ふとした拍子に肩が当たってしまいそうだ。


「私が優花ちゃんの歓迎会をしたいって頼んだのよ。ほら、透も早く座って」


「やっぱり母さんのせいか」


 僕は心を落ち着かせ、母さんにジト目を向ける。けれど母さんは僕の視線を完全スルー。


「早く食べましょう?」


 母さんにそう言われて、僕は鳳さんと目を合わせないようにしながら彼女の隣に座った。


「さあ、優花ちゃんも食べて食べて。今日は優花ちゃんの歓迎会なんだから遠慮しないでね~」


「じゃあ遠慮なく……いただきますっ!」


 僕のすぐ隣で、美少女がみそ汁を啜っている。なんだが実感が湧かなくて、気付けば僕は、みそ汁を啜る鳳さんの唇をじっと見つめていた。


 鳳さんの人の好意を素直に受け取るところ、やっぱりすごいなぁ……。僕なら変に遠慮して、空気を壊しちゃうのに。


「ん? わたしの顔に何かついてる?」


「あっ、いや……何でもない」


 鳳さんの顔が、互いの息遣いを感じられるほど近くにくる。僕は慌てて目を逸らし、肉じゃがを流し込んだ。


「明美さんの料理。どれもとってもおいしいです!」


「あら~、優花ちゃんはお世辞が上手ね~」


「いえいえ、お世辞じゃないですって! この肉じゃがなんて、素材の味を程よく残す最高の味付けじゃないですかっ! 桐山くんもそう思うよねっ?」


「えっ……ああうん。確かにそうかも」


 急に話を振られて、反射的に頷く。すると今度は、母さんから鳳さんへおっとりとした声が飛んでくる。


「あらぁ? 優花ちゃんって、私は『明美さん』なのに、透のことは『桐山くん』なのねぇ」


 あれ? この流れは……。


 嫌な予感がする。僕は話の流れを変えようとするも、異様に喉が渇いて声が出なかった。


「それはええっと、高校の時にそう呼んでたのでその名残ですね」


「それってつまり……優花ちゃんも透と同じ美羽高校だったの?」


「はい。二年生と三年生の時はクラスメイトでした」


「へぇ~そうなの~」


 非常に分かりずらいが、母さんは驚いているようだ。


 そしてゆったりとした優しい声で、僕が危惧していた爆弾が投下される。


「それなら、透のことも名前で呼んでみたらどお? 折角再会できたんだもの。親睦を深めるのもいいんじゃないかなーって、私はそう思うな~」


 やっぱりだ……ああもう。母さんはなんでこう、無責任なことばっかり言うんだよ……!


「名前……」


 隣で鳳さんがポツリと呟く。恐る恐る彼女の様子を見ると、真っすぐに僕を見つめる鳳さんと目があった。


「透く──透」


「は……はい。鳳さん……」


 凛とした声で僕の名前を呼んだ鳳さん。彼女の頬は赤く、すぐに目を逸らされた。そして彼女は口をすぼめると、横目で僕を咎めるように見てくる。


「不公平だよ……わたしも、名前で呼んで?」


「……っ!」


 美少女からのおねだりだなんて、僕には刺激が強すぎた。僕は鳳さんと向かい合うように横向きに座り直し、背筋をピンと伸ばす。そして、震える声で彼女の名前を呼んだ。


「ゆ、優花さん……」


「『さん』はナシだよ!」


「わ、分かった……優花」


「うん! よろしいっ!」


 頬を赤らめたまま、太陽のように明るく笑う優花につられて、僕もぎこちなく笑った。それだけでもう、名前で呼び合う恥ずかしさなんて忘れられて。


 僕ってやっぱりチョロいよなー……。


「またね透!」


 夕食を終えて優花が帰る。彼女が言った「またね」の三文字が、どうしようもなく嬉しかった。


 これから、少し遅れた僕の青春が動き出す──なんて、ラノベじゃないんだしそれはないか。

この話を読んでいただきありがとうございます!


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