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11.母マジギレ

「あらぁ~。珍しいわね~。三人そろってどうしたの?」


 僕と優花、父さんの三人で二階のリビングに行くと、夕食の準備をしていた母さんが首を傾げた。


「それが、父さんが優花を怖がらせてて」


「おい透……! オレはそんなつもりは──」


「ねぇ優花ちゃん。それ本当?」


 あ……これ母さんキレてる。


 父さんの抗議をかき消したのは、相変わらず穏やかな表情の母さんの、ひどく冷たい声だった。急に部屋の温度が下がったような錯覚に、優花と父さんがそろって目を見張る。


「は、はい……」


 おっかなびっくり優花が頷くと、母さんの視線は父さんへ。口元は微笑んでいるが、母さんの目は笑っていなかった。


「ねぇあなた。どういうこと?」


「そ、それは……オレはただ、大事な桐山書店を任せる新しいバイトがどんなやつか確かめたかっただけ──」


「それで~? その大事な新人バイトを怖がらせてどうするのよ~?」


「それはだな……」


 優しい口調とは裏腹に、母さんの目はどんどん冷たくなっていく。父さんはというと、氷のように冷たい母さんの視線に怯え、熊のような図体を丸めて壁際で縮こまっていた。


「ねぇ透? これどういう状況?」


 二人の豹変ぶりに理解が追い付いていない優花が、僕の裾を引っ張る。この異様な光景に驚いてか、優花はもう震えていなかった。


「ん? ああ。うちではよくあることだよ。今の父さん、水風呂に放り込まれて弱るたこ焼きみたいでしょ?」


「そうなんだ……っていうか、両親を水風呂とたこ焼きに喩えるってどういうことっ!?」


「そう見えるでしょ?」


「まあ、そう言われたら見えなくもない……? いや見えないよ!? そもそも水風呂にたこ焼きを放り込むことなんてないって!」


 僕、そんなに変なこといったかな?


「あー、それよりどうするの? もう大丈夫そうだけど」


「えっ? あっ!」


 優花は咄嗟に僕の裾を離すと、肩にかかる髪の毛の先を弄りだす。狼狽える優花もかわいくて、思わず見惚れてしまう。


「ええっと……じゃあ、わたしはそろそろ帰るね」


「あ、うん」


 すぐに優花から目を逸らした僕の横で、優花が店員用エプロンを脱ぎ、畳む。そうしていると、父さんを絞り終えた母さんが優花に歩み寄ってきた。


「優花ちゃんごめんね~。でもね、あの人も悪気があったわけじゃないのよ~?」


「いえいえ。そんなに気を遣わなくてもわたしは大丈夫ですから。それに……」


 優花がチラッと父さんを見る。そこでは、マンガなら確実に口から魂が出ているほど弱り切った父さんの姿があった。


 やっぱり母さんって怖い……。


 左右の髪を刈り上げ、残りをオールバックパーマにした、いかにも怖そうで逞しそうな父さんがああなるのだ。母に叱られる可能性がある息子の僕としてはぞっとしない。


「……? 言いたいことがあったら何でも言っていいのよ~。優花ちゃんがあの人に報復したいっていうのなら好きなだけしていいからねぇ~」


「報ふ──!? いえいえっ! そこまでしなくても大丈夫ですからっ!」


 温厚な母さんからは想像もできない言い回しに、ブンブンと手と首を横に振る優花。その様子に、母さんはおっとりと首を傾げた。


「じゃあわたし帰ります。お疲れ様でしたっ!」


「ああ待って優花ちゃん。怖い思いしたばかりなのに、夜道を一人で歩かせるわけにはいかないわ~」


 そう言って母さんは、僕の背中を押した。


 まさか……! 待ってそんな彼氏みたいなことできな──。


「透。優花ちゃんを家まで送ってあげて〜」


「母さんそれは──」


 僕が断ろうとしたその瞬間。母さんの笑顔の奥にある瞳が、冷気を帯びた。


 ひぃっ……!


「分かった」


 背中を駆け巡った悪寒に耐えられず、僕はビシッと気をつけの姿勢を取った。


「やっぱり透は素直でいい子ねぇ〜」


 だから急に穏やかになられるの怖いって!


 頭を撫でてくる母さんの手を振り払い、玄関で待つ優花を振り返る。


「そう言うわけだから、送ってく」


「ホントにいいの?」


 優花は申し訳なさそうに目を伏せる。僕は母さんの様子を横目に優花の耳元に口を近づけ、囁いた。


「うん。優花を送らないと母さんに何されるか分からないし」


「あはは……それもそうだね」


 優花は苦笑いを浮かべると、口をすぼめた。


「そこは嘘でも『優花が心配だ』って言ってほしかったなー」


「ん? なんか言った?」


「ううん。何でもなーい!」


「そう?」


 僕は優花の呟きを特に気にすることなく玄関の扉を開ける。すると、優花が手を差し出してきた。


「ん!」


 どうやら、手を繋ごうということらしい。


 もうさっき握っちゃったからいいか。


 僕は春の冷たい夜風に当てられて──いわゆる深夜テンションから来る浮遊感に身を任せ、何の抵抗もなく彼女の手を握った。


「ん!?」


「……どうしたの?」


「いやぁ、透ならもっと迷うと思ってたからちょっとびっくりして……」


「あれ? もしかして優花は手を繋ぐの嫌だった?」


「あ、ええっと……嫌ではないけど……」


 優花は手を繋いだまま、斜め下に視線を逸らす。


 どうしたんだ……?


 僕が優花の様子に疑問符を浮かべていると、優花が横目を向いたまま上目遣いをしてくる。


「透に平然としてられると、なんか調子狂うなー……」


「まあ僕は夜型だからね」


「何それっ!」


 そんなこんなで、僕と優花は夜の街に繰り出した。

この話を読んでいただきありがとうございます!


「面白かった!」

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