表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

10.優花のバイト時間

*** 鳳優花視点 ***


 あれって……わたしのポップ見てる!?


 わたしのポップが本棚に飾られてから三日。学ラン姿の男子中学生が、わたしのポップをまじまじと見つめていた。


 買ってくれるかな……。


 わたしはレジから身を乗り出し、本を買ってくれるよう祈りながら男子中学生を凝視する。


 ちょうどレジの横を通った別のお客さんが白い目を向けてきたが、わたしは気にせず男子中学生を見続けた。


「あのー……」


 そんなことをしていたら、女子高生っぽいお客さんがお会計に来ていた。


「えっ? あっ……すみません!」


 またやっちゃった……! なんでこうもわたしは、すぐに周りが見えなくなるんだろ……。


「ありがとうございました」


 商品を渡し、軽く頭を下げる。そうして次に顔を上げようとした時、カウンターに一冊の本が置かれた──わたしがポップで紹介した本だ。


 えっ!? もしかして──。


 本を握る手をたどり、顔を上げる。すると、彼はさっきわたしのポップを読んでいた男子中学生だった。


 やった! わたしのポップで初めて本が売れた! 早く透にも教えてあげたいなぁー……。


「ありがとうございましたー!」


 わたしはひと際大きな声でお礼を言い、腰を九十度近くまで折り曲げ、深く頭を下げた。


「な、なんだ……?」


 男子中学生からはちょっと引かれたけど、そんなことよりも嬉しさで胸がいっぱいだった。


 閉店したらすぐに透に話そーっと!


 両手で頬杖をつき、笑顔で頭を左右に揺らす。


「あと三十分かー。待ち遠しいなー」


 閉店が近づき客が減った店内。わたしは弾んだ足音を響かせて、自分の書いたポップの前に立った。そしてポップに触れ、ザラザラとした紙の触感を味わう。


 これ、わたしが作ったんだよね。自分の好きが誰かに伝わるのってこんなに嬉しいんだ……透にも、わたしが透のことを好きな気持ちが伝わるといいのになぁー。


 そこまで考えて、わたしはハッと我に返り、苦笑いを浮かべた。


 でも、透がわたしのことを好きになるわけないよね……だって助けられてばっかりで、何にも返せてないもん。最初に会ったあの時だって──。


「ちょっといいか」


 不意に、すぐ横からドスの利いた低い声がした。


「はい! なんでしょう……かっ?」


 わたしはすぐに思考を振り払い、営業スマイルを浮かべる。が、次の瞬間には、わたしは目を見張っていた。だって驚かずにはいられないだろう。目の前に、右目に十字の古傷を持つ大男が立っていたのだから。


「ええっと……何か、お探しでしょうか……?」


 無理やり笑顔を作って、一歩距離を取る。すると男は、髭と髪がつながった堀の深い顔でわたしを睨みつけてきた。


 何でこの人何も言わないの……!? もしかして……強盗?


 わたしはこっそりとズボンのポケットからスマホを取り出し、百十番を入力。発信ボタンをいつでも押せるよう構えた。


「御用がないのならお帰りください! もうすぐ閉店時間なんです」


 透の家に強盗なんて絶対ダメ……! ……だからお願い! このまま何もしないで帰って……!


 口の中が、持久走を走った後みたいに渇く。スマホを握る手が冷たくなり、感覚が失せていく。


 どのくらい男と向かい合っていただろう。長い長い睨み合いの後、男の手がひどくゆっくりと、威圧感を伴い持ち上げられていく。


 ……っ!? やっぱり強盗! 通報を──。


「何やってるの?」


「透!? 今こっちに来ちゃ──」


 わたしは発信ボタンに伸びた指を止め、階段から下りてきた透に叫んだ。透が襲われないように。けれど透はわたしの心配を気にすることなく、男に対して白い目を向けた。


「本当に何してるの? 父さん」


「へっ?」


 透今、なんて言ったの?


「透の、お父さん……?」


 衝撃の事実に、半ば呆然と男の顔を見上げる。すると男は、意中の人に告白する乙女のようにモジモジと口を開いた。


「ああ。オレは透の父──桐山頑鉄(がんてつ)だ。鳳さん、怖がらせたようなら、すまない」


「父さんこんな見た目のくせに人見知りなんだよ。しかも人見知りで喋れないとどんどん目力強くなっていくから……怖かったでしょ」


「うん……」


 透が申し訳なさそうに説明してくれたことで、ようやく全てが腑に落ちた。


 じゃあ強盗とかじゃなかったんだ……わたしの勘違い……。


 安心した途端、極度の緊張状態にあった全身の筋肉から力が抜けていく。わたしは床に女の子座りになって、ため息を吐くように声を漏らした。


「なんだぁー透のお父さんだったんだぁ。よかったぁー……」


「優花、大丈夫? ……じゃないよね。今日はもう店閉めるけど、上で休んでく?」


「そうするー……」


 心配して手を差し伸べてくる透。わたしは彼の足にもたれかかった。


「優花それ……! 僕が動けなくなるから……」


「えーいいじゃん! ちょっとくらい休ませてー!」


「いや、それは……」


 わたしは透の抗議を聞かず、透の足に頬を押し付けた。


*** 桐山透視点 ***


「そろそろ落ち着いた?」


 父親の前で優花に抱き着かれるという、ある意味罰ゲーム的な状況を続けること五分。僕の足を抱きしめる優花の力が弱まった。


「うん。落ち着いた」


「ならとりあえず二階行こう? もう少し休んで行って」


「うん」


 手を差し伸べると、優花の綿あめのように柔らかい手が触れる。


 ……っ。これは別にやましいことじゃないんだ。気にしない気にしない……。


 僕は優花を立たせるとすぐに手を離す。が、優花は僕の服の裾を摘まんでくる。


「なんで……」


「ごめん。もうちょっとだけ……」


 いつになくしおらしい優花。よく見ると彼女の体はまだ震えていた。


 そうだよね。父さんのことをよく知らない人が父さんを見たら怖いのは当然か……。


「いいよ。優花が落ち着くまで傍にいるから」


 そう言って僕は階段へと向かう。その時優花がどんな顔をしていたのか、僕は見なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ