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綴の逍遥綴(つづりのしょうようてつ)— 旅する二人が、世界を少しずつ綴っていく話 —  作者: 直助


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4/5

 道なりに歩く。


 土は乾いている。


 草が低い。


 空が広い。



 オオナが右。


 ヒナスクが左。


 並んでいるようで、


 少しだけ、オオナが前。


 半歩ぶん。


 いつのまにか、そうなっている。



 足音。


 ふたつ。


 一定の間隔。


 擦れる草の音。



「あの」


 声が後ろから来る。


 振り向かない。


「……どこに向かってるんですか」



「いや」


 少し間。


「特に」



「あ……」


 言葉を探している気配。


「隣の村まで……半日くらい、って」


「峠を越えたら、見えるらしいです」


「聞いた話ですけど」



 足音が、少し近づく。


 また同じ間隔に戻る。



「じゃあ」


 前を見たまま言う。


「とりあえず、そこまで」



「……はい」


 小さな返事。



 道が、ゆるく上りはじめる。


 石が増える。


 草がまばらになる。


 山の匂いが、少し濃くなる。


 峠が、近い。



 木が増える。


 影が落ちる。


 日差しが細くなる。


 ひやりとした空気。



 坂。


 ゆるい登り。


 やがて石が増える。


 土が削れている。


 草履が、滑る。



 道が細くなる。


 枝が張り出している。


 足元に、落ち葉。



 いつのまにか、


 オオナが前にいる。


 ヒナスクが後ろ。


 縦に並ぶ。



 枝が揺れる。


 ぱき、と折れる。


 踏まれた葉が沈む。


 道が、少しずつ開いていく。



 ヒナスクは、その後ろを歩く。


 同じ足跡。


 同じ幅。


 石を選ばなくていい。


 袖が引っかからない。


 足が、止まらない。



 何も言わない。


 ただ、ついていく。



 やがて、


 光。



 木が途切れる。


 小さな空き地。


 腰を掛けられそうな石。



 オオナが座る。


 ヒナスクも少し離れて座る。


 息だけが、白く混じる。



「……飲みますか」


 竹筒が差し出される。



「ありがとう」


 目は合わない。


 受け取る。


 水の音。


 喉が鳴る。



 竹筒が戻る。


 少しの沈黙。



「……その」


 ヒナスクの指が、右腕の袖に触れる。


「ちょっと、いいですか」



 そっと、手を当てる。


 いつもと同じように。


 静かに。



 何も起きない。



 縮れた皮膚。


 盛り上がった痕。


 変わらない。



「……あれ」


 小さな声。



「いい」


 オオナが言う。


「これは、いい」



 手が離れる。


 風もない。


 鳥の声だけが落ちてくる。



 少しして、


 オオナが立つ。


 また、前を歩き出す。


 ヒナスクも立つ。


 同じ間隔で、ついていく。


 坂が、ゆるむ。


 空が、少し広くなる。



 坂が、下りに変わる。


 足が、勝手に前へ出る。


 小石が転がる。


 乾いた音。



 木と木の間。


 光。


 切れ目。


 その向こう。


 屋根が、いくつか。


 低い家並み。


 白い煙が、細く上がっている。



 オオナは止まらない。


 そのまま下る。


 ヒナスクも続く。


 草が擦れる。


 衣が鳴る。


 足音だけが重なる。



 やがて道がゆるむ。


 土が平らになる。


 影が短い。


 畑。


 水路。


 人の声。


 次の村が、もう近い。



 横に、足音。


 同じ速さ。


 同じ歩幅。


 何も言わない。


 二人で、歩いている。



 足音が重なる。


 影が並ぶ。


 坂はもうない。


 それだけだった。


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