エピローグのようなもの
学園を卒業すると、私とアレクはすぐに結婚した。というかアレクが我慢できなかった。いつのまにかドレスのカタログがあって、気づいたら毎晩一緒に何かを選ばされていた。
ミスティアも協力していたらしく、これまた気づけば招待リストが出来上がっていた。この二人は案外相性が良さそうだ。
正直、ミスティアとテオールは私よりも張り切っていた。そこにお父様まで混ざって、式はかなり大規模で盛大なものになった。
面倒くさがりな私としては自分だけで準備しなくていいのはすごく助かったけれど、これでいいの、とちょっとだけ思った。
でもそんな気持ちも当日のアレクの幸せそうな笑顔を見れば全てが吹き飛んだ。
「アレク、愛してるわ」
結婚式の夜、改めて伝えるとアレクは泣きそうな顔で笑っていた。
結婚してすぐに私は妊娠した。妊娠すると全ての仕事を取り上げられて暇だったので、かねてよりアレクに相談していた、治癒魔法を応用した治療薬の開発を片手間で行うようになった。もちろん、無理のない程度で。
治癒魔法使いがほぼ神殿に所属して治癒活動に専念してしまう関係で、治療薬がほとんど発展していないなと思っていた。神殿は主に奉仕活動とそれに対する寄付で成り立っているから。進んで治療薬を開発しようという発想に至らないし設備もない。
だから治療薬を作ってみようと思った。もちろん、神殿の奉仕活動を阻害しないように利用範囲を細かく決めて。神殿の手の及ばない人の助けになりたいだけで、神殿の活動の邪魔をして対立するようなことは避けたかった。事前にお父様やお義父様に相談して神殿からも同意を得てもらった。
片手間に進めていたはずなのに、出産までの間に思ったよりも進捗が出てしまい、公爵家を通じて北部で試験的に使用されることになった。魔法薬であれば討伐や遠征などの出先でも使える。重篤な怪我ほど、一番最初の処置が重要。本格的な治療は神殿に任せるとして、それまでの繋ぎで使えるものをとりあえず用意した。
結果は大成功。公爵家の持つ商会を通じて騎士団やギルドに下ろしてもらった。治療薬を作るのに必要な治癒魔法はそんなに難易度の高いものではないので、神殿で治癒の奉仕活動ができるほど魔力量の多くない人や治癒効果の弱い人にも協力してもらうことになった。売上は借りている人材の分だけ神殿にも分配して対立しないようにしている。
それから私は治療薬の研究にハマってしまい、子育てや妊娠を繰り返しながら最終的に不治の病とされた血熱症の治療薬を完成させた。
お母様を死に至らせた病。
様々な薬を作る過程で可能性を見つけたのがきっかけだった。子育てを優先しての研究だったから長い年月がかかってしまったけれど、最終的に完成させることができた。
遺伝の可能性があるって聞いたから。もしも自分の子供達がなってしまったら自分を責めてしまいそうだった。自分本位な理由ではあるけれど、どうしても完成させたかった。
血熱症の治療薬を完成させる頃には長男は成人間近だった。そこで一区切りにして研究はやめた。アレクと家族だけに時間を使うことにした。
案の定、というか、四番目の子供が10歳という若さで血熱症を発症した時は肝が冷えた。治療薬を開発しておいて本当に良かったと思った。
「ベラって面倒が嫌いという割には、面倒ごとに対して真面目だよね」
なんてことも言われた。少し不本意だったけど、否定はできなかった。
さらに数年後、アレクは完全に爵位を息子に譲ると、私たちは南部へと移り住んだ。領地に引っ込もうとしたけれど北部の冬は厳しすぎるからやめてくれと子供達全員に反対されてしまった。
長男の婚約者の領地が南部という縁もあり、南部へ移住した。
それから余生まで本当にのんびりとさせてもらった。アレクとは子供の頃に戻ったみたいにいろんなことをした。浜辺で遊んだり、市場で食べ歩きをしたり、どちらが綺麗な魔法を見せれるか競争したり、屋敷でイタズラを仕掛けあったり、うんと遠くへ、うんと長く旅行をしてみたり。公爵家の当主と夫人ではなかなか気軽にできないことをたくさん。すごく幸せだった。楽しかった。
晩年を迎える頃には私にも血熱症が発症した。
高齢で発症するのは珍しいケースだ。高齢という理由で私は治療を拒み緩和ケアだけを行うことにした。アレクはすごく悲しんだけど、私はどうしてもアレクよりも先に死にたかったのだ。アレクのいない人生など考えたくもなかったから。お願いだから許して欲しいと、泣いているアレクにお願いした。すごく酷なお願いをしたと思うけれど、アレクは最終的に許してくれた。私は彼の優しさによって生かされ、彼の優しさに包まれて死ぬのだ。
自分の魔法で痛みを消して最後は穏やかだったと思う。
今更だけれど、病の当事者になって少しだけ母の気持ちがわかった気がした。死を間際にして、自身に残るのは愛するものたちへの深い愛情だけだった。アレク、それから子供達、家族、友人たち。
「アレク、愛してるわ、ありがとう」
「ああ。もちろん。来世でも一緒になろう。おやすみ」




