11 私とアレクの気遣い
次の日、珍しく朝目覚めるとアレクは隣で眠っていた。
いつもは私よりも早く目覚めて、鍛錬やら仕事やらをこなしている。だから目覚めた時に目の前にいるのは珍しい。この屋敷に来たばかりの頃以来かもしれない。
よく眠っているのか、しばらく見つめていても起きない。
「綺麗な顔してるなあ……」
アレクが私にするみたいに頬を撫でてみる。意外と触り心地がいい。
化粧もしてないし、私みたいに熱心にケアをされることもないはずなのに、どうしてこうも肌が綺麗なんだろう。顔の作りは仕方がないとして、なんだかずるい。
頬をむにむにとつねるけど、まだ起きない。意外とよく伸びる頬だ。頬をつねっても起きないので耳を引っ張ってみる。起きない。鼻を突いてみる。頭を撫でてみる。眉毛を撫でる。喉仏を触る。
いよいよやることがなくなってきたなと思って悩み始めたところで、目を瞑っていたアレクの肩が震え始めた。
「起きてるわね?」
「んふ」
吹き出してアレクが目を開ける。綺麗な青い瞳と目が合う。
「起きてるなら言ってよ」
「どこまでイタズラしてくれるか気になっちゃってさ」
「もう終わり!」
「残念」
笑いながらアレクは私を抱き寄せる。
いまだに結婚の返事をしないままに好意だけをこうして受け取るだけ受け取しまっている。でもこの心地よさから離れがたくて、ついアレクが何も追求しないのをいいことにそのままにしてしまっている。
今もこうして大人しく抱きしめられちゃってさ。
「アレク、今日は用事ないの?」
「ん、今日は休もうかと思って」
「最近ずっと忙しそうだったものね」
「んー、それもあるけど。ベラが最近元気なさそうだからね」
「?」
予想外の返事にアレクを見上げる。
私が元気なさそうだから休むの?
「ゆっくり休んで欲しかったつもりだったんだけど。ゆっくり休めたんだろうけどさ、時間が余り過ぎると、色々考え込んじゃうんだなって思ってさ。そういえばベラはすごく真面目なんだってことを思い出したよ。
で、僕だけで甘やかして元気づけてあげるのもありだなーと思って、最初はそのつもりだったんだけど、君の友達であり僕の従姉妹殿がうるさくてね」
私の友達で、アレクの従姉妹といえば。
「ミスティア……?」
「そう」
アレクはやれやれと続ける。
「ベラが急に学園に来なくなったからうるさくて。今まで交流なんてしたこともないのに従姉妹なんだから教えろだのなんだの…。特にベラは家のことをミスティアを通して話を通してただろう?だからどうなったんだとしつこくてね。根負けして結婚したいから家に閉じ込めてるって言ったらさらにヒートアップしちゃって」
……閉じ込めてる自覚あったんだ。
「とりあえずベラの家のことを、ベラに傷をつけずにどう片付けるか最近まで一緒に話し合ってたんだ。あ、もちろんテオールも一緒だよ」
「そんなことしてたの?」
「そりゃそうだよ。ベラからすると父親の罪は自分の罪も同然だって思ってるんだろうけど、そういう真面目なところも大好きだけどさ、でも僕やミスティアやテオール、そしてきみの叔父も、陛下も、みんな君が悪いなんてちっとも思ってないよ。
僕と双子で君が伯爵家で受けてきた仕打ちを調査してまとめてたんだ。君は罪を問われることはないけど、君の父が逮捕されれば社交界でどうしたって噂になるだろう?
好き勝手噂して君を責める人も出てくるかも知れない。でもそれは許せない。だからどうしようかなって話し合ってたんだよ。この国でベラを責める人がいなければ、ベラが別に国外に行く必要もないでしょ。僕たちはみんな君と離れたくないわけ」
「……三人は、もしかして私のこと好きなの?」
「そこで茶化すなよ」
だって茶化さないと。
辛いことには耐えられるけど、優しくされると泣いてしまいそうだ。
「そうだよ、僕たちはベラのことが大好き。まあ僕が一番とびきり好きだけどね。
で、少し前に方針が大体決まって落ち着いたら……今度はベラに会わせろ会わせろってうるさくてさぁ…。ベラの大事な友達ってことはちゃんとわかってるよ。でも相手は王族だろう?
強引にベラを王宮に連れて行くこともできるわけで、それが嫌だから合わせたくなかったんだけど、」
アレクが一旦言葉を切り、私の頬を撫でる。
「最近ベラが元気がないからさ。会わせることにしたの。ちょっとは気分転換になっていいかなって」
「アレク…」
「さあ、あと五分だけ抱きしめさせて。そしたら支度をしよう」
「ありがとう」




