表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

《☆》婚約破棄のたった一つの条件は

☆さらっと読めるショートショートです。

 僕が申し出た婚約破棄を、ローゼリアはあっさりと受け入れた。


「カルロス様がそうお望みでしたら」


 ここはローゼリアの家の応接室。僕の隣にはローゼリアの妹のマリナが目を輝かせて座っている。

「良かった! これで私たちが婚約できますね!」

 11歳のマリナは、姉の気持ちなどそっちのけではしゃぐ。

「ちょっと待ってね。ローゼリアとの話が終わってから、マリナと話をするよ」

 マリナは不満そうだが、ちゃんと筋は通したいんだ。ただ、そんな甘えん坊な所がローゼリアと違って可愛いんだけど。


 僕とローゼリアは13歳。僕と婚約破棄してもローゼリアにはまだまだ良いご縁があるはずだ。

 そもそもこの婚約は、釣り合いが取れるというだけの理由で決められたもの。なら、相手をマリナにしたっていいはずだ。


「僕が勝手を言ってるのは分かってる。だから、君にお詫びの品を渡したいんだ。何か希望の物はないか?」

「私にくださると言うのですか? ……それでしたら、欲しい物は一つだけですわ。マリナに奪われない物をください」


 なぞなぞか?

 どういう意味だろうと考えていたら、マリナが怒り出した。


「お姉さまはカルロス様に意地悪ですわ!」

「そうですか。では、お詫びなど要りませんわ」

「い、いや! そうはいかない! 僕からお詫びを言い出したのに」


 ローゼリアが面倒臭そうな顔をした。

「ならば、そのジャケットの襟に付いているサファイアのブローチをください」

 手近な物で済まそうというのだな。

 まあ、こちらもいつまでも引きずりたくは無いので、ブローチをはずしてローゼリアに渡す。

「確かに。ではこれで」

 円満に終了したと思った瞬間

「ひどいわ! カルロス様のブローチをお姉様が持っているなんて!」

と、声があがり、それもそうねとローゼリアはブローチをマリナに渡した。


 一瞬でブローチの所有者が変わった。


 これか……! 欲しいのは「マリナに奪われない物」。いつもマリナに奪われてるんだ。

 親はマリナを(いさ)めないのかな。ローゼリアの慣れた様子じゃあ、無いか。

 ……あれ? じゃあ、今まで僕が贈った物を身につけていなかったのも……まさかマリナが……?


 ローゼリアが、小さくため息を吐いて立ち上がった。

「お詫びの品は、十年後でも二十年後でもかまいませんわ。覚えていらしたらお渡しください。それ以外の接触は不要ですので」

 ローゼリアが部屋を出て行く。

 僕は何と声を掛ければいいのか分からなかった。


 ドアが閉まると、マリナはローゼリアの事も僕のブローチもすっかり忘れて楽しそうに話し出した。お母様と行った流行の歌劇の話、お友達とカフェに行った話、お父様に新しいリボンを買ってもらった話。

 マリナの話す事はいつも楽しい。

 だから僕は、静かなローゼリアより楽しいマリナが好きだと思っていたのだけど……。


 君の話に「お姉様」は出ないんだね。


 その事に気づくと、この子と婚約するのは嫌だなぁという気持ちで一杯になった。



 正直に父様と母様に言って叱られよう。

 そして、この家の人たちのローゼリアの扱いがおかしいって言おう。何かが変わるかも、変わらないかもしれないけど。


 それから、何年かかるかわからないけど、マリナに奪われる事の無いものを見つけてローゼリアに届けよう。ローゼリアとの約束は僕の宿題だ。


 「やっぱりローゼリアの方が良かった」と言う権利の無い僕に出来る事は、それだけだから……。


2025年10月5日 日間総合ランキング8位!

ありがとうございます(๑・̑◡・̑๑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
元婚約者が、まぁ…あからさまではあったけど違和感に気がつく男で良かった。 気が付かない男はブローチのやり取りをしても気が付かないからね 婚約破棄を言う前に気がつけばもっと優秀なのだけど そこはIQと…
欲しがり妹って勉強嫌いが定番だから、奪えないのは身につけた知識と技能とマナー。それを習得するための、広辞苑並みにぶっとくて大きい百科辞典がよいと思います。それすらも、枕にちょうど良いと持って行かれそう…
おもしろかったです。 すみません、あらすじに間違いがありました。 “婚約破棄とマリナ た の 婚約”
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ