《☆》婚約破棄のたった一つの条件は
☆さらっと読めるショートショートです。
僕が申し出た婚約破棄を、ローゼリアはあっさりと受け入れた。
「カルロス様がそうお望みでしたら」
ここはローゼリアの家の応接室。僕の隣にはローゼリアの妹のマリナが目を輝かせて座っている。
「良かった! これで私たちが婚約できますね!」
11歳のマリナは、姉の気持ちなどそっちのけではしゃぐ。
「ちょっと待ってね。ローゼリアとの話が終わってから、マリナと話をするよ」
マリナは不満そうだが、ちゃんと筋は通したいんだ。ただ、そんな甘えん坊な所がローゼリアと違って可愛いんだけど。
僕とローゼリアは13歳。僕と婚約破棄してもローゼリアにはまだまだ良いご縁があるはずだ。
そもそもこの婚約は、釣り合いが取れるというだけの理由で決められたもの。なら、相手をマリナにしたっていいはずだ。
「僕が勝手を言ってるのは分かってる。だから、君にお詫びの品を渡したいんだ。何か希望の物はないか?」
「私にくださると言うのですか? ……それでしたら、欲しい物は一つだけですわ。マリナに奪われない物をください」
なぞなぞか?
どういう意味だろうと考えていたら、マリナが怒り出した。
「お姉さまはカルロス様に意地悪ですわ!」
「そうですか。では、お詫びなど要りませんわ」
「い、いや! そうはいかない! 僕からお詫びを言い出したのに」
ローゼリアが面倒臭そうな顔をした。
「ならば、そのジャケットの襟に付いているサファイアのブローチをください」
手近な物で済まそうというのだな。
まあ、こちらもいつまでも引きずりたくは無いので、ブローチをはずしてローゼリアに渡す。
「確かに。ではこれで」
円満に終了したと思った瞬間
「ひどいわ! カルロス様のブローチをお姉様が持っているなんて!」
と、声があがり、それもそうねとローゼリアはブローチをマリナに渡した。
一瞬でブローチの所有者が変わった。
これか……! 欲しいのは「マリナに奪われない物」。いつもマリナに奪われてるんだ。
親はマリナを諫めないのかな。ローゼリアの慣れた様子じゃあ、無いか。
……あれ? じゃあ、今まで僕が贈った物を身につけていなかったのも……まさかマリナが……?
ローゼリアが、小さくため息を吐いて立ち上がった。
「お詫びの品は、十年後でも二十年後でもかまいませんわ。覚えていらしたらお渡しください。それ以外の接触は不要ですので」
ローゼリアが部屋を出て行く。
僕は何と声を掛ければいいのか分からなかった。
ドアが閉まると、マリナはローゼリアの事も僕のブローチもすっかり忘れて楽しそうに話し出した。お母様と行った流行の歌劇の話、お友達とカフェに行った話、お父様に新しいリボンを買ってもらった話。
マリナの話す事はいつも楽しい。
だから僕は、静かなローゼリアより楽しいマリナが好きだと思っていたのだけど……。
君の話に「お姉様」は出ないんだね。
その事に気づくと、この子と婚約するのは嫌だなぁという気持ちで一杯になった。
正直に父様と母様に言って叱られよう。
そして、この家の人たちのローゼリアの扱いがおかしいって言おう。何かが変わるかも、変わらないかもしれないけど。
それから、何年かかるかわからないけど、マリナに奪われる事の無いものを見つけてローゼリアに届けよう。ローゼリアとの約束は僕の宿題だ。
「やっぱりローゼリアの方が良かった」と言う権利の無い僕に出来る事は、それだけだから……。
2025年10月5日 日間総合ランキング8位!
ありがとうございます(๑・̑◡・̑๑)