星降る夜に神様と、まさかの女子会をしました_09
「どうした? 食べないのか?」
なかなか手を出さない私に、咲耶姫様が不思議そうな顔をして尋ねた。
「いや、だってお供え物ですよね。私が食べてもいいのでしょうか?」
「いいのだ。私がいいと言うのだから。それに一人では食べきれぬ」
さも当たり前のように言う。
この方が山の神様で、路頭に迷う私を助けてくれて、そしてお供え物のお菓子を提供してくれている。
どんな現実?
いや、もしかして夢とか?
死語の世界とか?
訳のわからないシチュエーションに、私は戸惑いを隠せない。
「では、私も一緒に食べよう。それでどうだ?」
そう言うと、咲耶姫様はポテチを一枚口に放り込んだ。パリッと良い音がする。そしてチョコの袋も躊躇いなく開けた。
「甘いものもほしい」
ふわりとチョコの甘い香りが鼻を抜ける。
食欲が刺激されて私は唾をゴクリと飲んだ。
「えっと、じゃあいただきます」
意を決してお菓子に手を伸ばすと、咲耶姫様は満足そうに微笑んだ。
いちいち綺麗でドキッとしてしまう。
神様って綺麗なんだな……。
ほうっと見とれていると、咲耶姫様は別のポテチも開封する。
「これは何の味だろうか?」
「ゆず塩って書いてありますね」
「うん、旨い。お前も食べてみろ」
「え? はい、いただきます」
言われるがまま口に放り込む。
私の食べる姿を見て、咲耶姫様は優しく頬笑んだ。
「これも食べてみるか?」
「あ、ちょっと、そんなに食べられませんって」
次々にお菓子を開けようとする咲耶姫様に、私は慌てて待ったをかけた。止めないとあれもこれも味見しそうだ。ポテチ二袋とチョコレートも二人で食べきれるか心配なのに。そんな気を遣っていただかなくともっ。
そんな気さくな咲耶姫様の魅力に、私はどんどん引き込まれていくようだった。
「あの、咲耶姫様は神様なんですよね?」
咲耶姫様とお菓子を食べるうちにだんだんと心が落ち着いてきた私は、自分の中の疑問を口にした。
咲耶姫様の見た目も雰囲気も確かに神様っぽくはあるけれど、普段から霊感ゼロで物事にも鈍感だと言われる私になぜ見えるのか、不思議でたまらない。
「そうだ」
「ということは、私は死んだのでしょうか?」
「いや?」
「じゃあ夢? それか異世界とか?」
悩む私に咲耶姫様は至極当然かの如く、真面目な顔つきで言う。
「現実世界だ」
と、現実を突きつけられてもまだ納得できない。非現実的な神様と、超現実的なこたつとお菓子が目の前にあるのに、同納得しろというんだ。何だかふわふわした気分で落ち着かない。
「私はいつもここに住んでいる。だが、私の姿を見たものは……」
「……まさか死ぬ? 食べられる?」
思ったことをそのまま口にすると、咲耶姫様は面白おかしく笑い出す。
「ふふふ、まさか。ただ、人間と話をするのは久方ぶりだ。何千年ぶりかな?」
そう言って優しい眼差しで私を見る。
咲耶姫様は綺麗で優しくて、そしてよく笑う神様だ。
とても可愛らしい。
可愛らしいというのが神様にとって失礼に当たらなければ良いけど。