神様の結婚式_14
風が止む。
空気が澄んで、夜空の星がキラキラとより一層輝いた。こぼれ落ちそうな空に、月読様は手を伸ばす。まるで星を掴むみたいに、手をぎゅっと握る。そして柔らかく空に円を描いた。瞬間、星が一斉に流れ出す。
目を見張るような光景に釘付けになった。
キラキラと煌めきながら夜空を流れていく星はまるで宝石のようで、息が止まりそうなほどに美しい。
はぁ、と月読様が小さく息を吐いた。
視線が合うと、困ったように眉を下げる。
そして――
「ああ、私は彼女を……、喜与を愛していたよ」
「――っ!」
とんでもなく優しい微笑みに、胸が熱くなる。愛しさと切なさが混じり合う、月読様の深い感情。急に苦しくなって、胸のあたりをぎゅうっと握った。
風が、流れ出す。
草花が揺れる。
花びらが、舞い上がる。
「月読様……」
「アオイが泣くことはなかろう」
「だって、……月読様が……泣きそうだから」
「神と人は時の流れが違う。わかっていて、愛したのだ」
「それでも、……寂しいですよ」
「寂しく思うこともあるが、後悔はない。喜与の血は透が受け継いでいるからな」
「え……透さん?」
「ああ、そうだよ」
月読様は私を抱えると、ふわりと鳥居から舞い降りた。そこには、いつの間にか透さんが立っている。
「葵がいないから心配していたんだけど、まさか月読様に泣かされていたとは……」
「えっ! ち、ちがっ、これはそうじゃなくて」
私は慌てて涙を拭う。だけど、月読様と透さんを前にしたら、また視界が揺れる。二人の縁がとても尊くて愛おしいものだったなんて。
「葵、大丈夫? 月読様、何をしたんですか?」
「いや、まあ、星を流した……かな?」
「はい?」
月読様と透さんが、大丈夫かと頭を撫でてくれる。
月読様の愛した、キヨさんの血を引く透さん。だから月読様は透さんのことを大事にしているんだ。だから透さんのお母様に触れて涙を流したんだ。
絡まっていた糸が解けて、一本の糸になった。
優しくてあったかくて、胸がいっぱいになって――
「月読様、透さん、大好き!」
涙を拭って笑う。
月読様も透さんも、柔らかな微笑みをくれた。
それがたまらなく嬉しい。
夜が明ける。
しらじらと明るんできた空が、新しい一日の始まりの息吹を感じさせてくれた。




