神様の結婚式_11
ふと、呼ばれた気がして目を覚ました。まだ部屋は薄暗い。隣のお布団では透さんが寝ている。
私は静かに布団を抜け出し、外に出た。
まだ日の出前。藍色の空には星が煌めく。
拝殿に上がる石段に、咲耶姫様が座っていた。目が合うと、ちょいちょいと手招きされる。
「おはようございます。早いですね」
「アオイと話がしたくてな」
「あ、もしかして私を呼んだのは咲耶姫様ですか?」
「すまぬな、朝早くに起こしてしまって」
「いいえー」
「この時間でもないと煩くてかなわぬよ」
咲耶姫様は背にした拝殿をちらりと見て苦笑する。拝殿はすっかりと静かになっており、酒樽がこれでもかと転がっている。
「よい、結婚式であった」
「はい、とても素敵でした」
「改めて礼を申すぞ。しかし、名月神社は花に溢れていていいな。優しい空気が流れておる」
「私も、この神社大好きです。月読様も優しいし」
「トオルもいるからだろう?」
「えっ? ええっと、ま、まあ、それはそうです」
「ふふっ、照れおって」
咲耶姫様はおかしそうに袖元で口を覆う。
急に恥ずかしい気持ちがわいてきて、少しばかり頬が熱い。照れているわけじゃないけど……いや、やっぱり照れているのかも。
「今後は箱根の山に住まいを移そうと思っているよ」
「わあ、箱根! 素敵ですね。温泉とかありますし。素朴な疑問なんですが、咲耶姫様がお引越しされたら、今まで住んでいた場所は神様がいなくなりますよね。どうなるんですか?」
「ああ、元々あの場所は私の父のものでな、父が本来の山の神であるから、お返しすることになるだろう」
「そうなんですね。あ、箱根、遊びに行ってもいいですか?」
「ああ、もちろんだ。透と一緒に来るがいい。透に火の神の相手をさせて、私たちは女子会をしよう」
「ふふっ、楽しそうです」
今もまるで女子会みたいだけれど。
星が瞬く月夜にこうして咲耶姫様とお話していると、出会った時のことを思い出す。あの時も、真っ暗な山の中、星がとても綺麗だった。
風が緩やかに流れる。
地面に落ちている花びらが、優しくふわりと舞い上がった。




