神様の結婚式_09
「……ここは僕の駆け込み寺みたいなところでさ、神様が見えることでバカにされたり嘘つき呼ばわりされたときに、よくここに籠もって月読様に愚痴ってた」
ぼそり、と透さんが呟いた。思い出が聞きたいとは言ったものの、透さんが話し始めたのは彼の辛い思い出のような気がして、焦って透さんの方に顔を向ける。
「ごめん、話したくないよね? 私、無神経だった」
「別にいいよ。葵になら話してもいいかなって思ったから。だから、聞いてくれると嬉しい」
透さんも顔をこちらに向けてくれる。障子に映る月明かりが、ほのかに透さんを照らした。その綺麗な顔は、私が初めて月読様を見たときと重なる。息を飲むほど、美しい。
「うん……」
「父は神職なのに何も見えないし、母も気配を感じるだけで姿も見えないし声も聞こえない。僕だけが違う世界に生きているみたいだった。誰かに言っても訝しげられるだけ。だから、どうして月読様は神様なんだーとか、どうして僕だけ見えるんだーとか、とにかく僕の気持ちの捌け口になってくれてたのが月読様だったんだ」
「ずっとそばにいてくれたんだ?」
「そう。どんなに僕が月読様に文句を言っても、無視をしても、怒らずに見守ってくれていた。それをずっとありがたく思っていたから、大人になってからちゃんと敬意を払うようになった」
「優しいよね、月読様って。透さんと似てる」
「え……そうかな?」
「そうだよ」
空気が流れたり、水がさらさらと流れるような、静かな優しさ。それでいて纏う空気は暖かい。だけどどこか儚くて憂いを帯びている。そんなところが、すごく似ている。




