神様の結婚式_01
空気が変わった。
緊張が高まる。
火の神様は束帯に漆黒の冠を身に着け、咲耶姫様は桃色を基調とした十二単でしずしずと拝殿へ入ってきた。洗練された空気が辺りを覆い、美しい神様二人は、私と透さんの前に立つと幽艶な笑みを浮かべた。
普通の神前式といえば、神職が神様に対して祝詞奏上をするところ、何しろ結婚するのが神様なのだ。すべてがイレギュラーでちぐはぐ。十二単だって、結婚情報誌を参考にして千々姫様に特注で作ってもらったらしい。
要するに咲耶姫様は、結婚式っぽいことがしたいだけなのだ。そうなればこちらも、それっぽいもので対応させていただくことにする。
「この度は、ご結婚おめでとうございます」
「おめでとうございます」
透さんに合わせて私もご挨拶をする。
火の神様は束帯を身に着けているからか、いつも以上に威厳があり神様オーラがすごい。一方の咲耶姫様は桃色の十二単を華麗に着こなし、長い黒髪は後ろで束ねて花の髪飾りが華やかさを演出している。美しすぎて眩しい。
「うむ、アオイもトオルも、咲耶姫の願いを聞いてくれたこと、礼を申す」
「咲耶姫様、とてもお綺麗です」
「この日を迎えられたこと、嬉しく思う」
咲耶姫様は火の神様と目を合わすと、とても嬉しそうに微笑んだ。
「ほれ、盃じゃ」
少彦様がぽんっと盃を出現させ、お二人に持たせた。そこに、私がお酒を注ぐ。もちろん、少彦様が造ったお酒だ。
「これが三三九度というやつか。やってみたかったのだ」
咲耶姫様が目をキラキラさせる。
火の神様が口をつけ、次いで咲耶姫様も口をつけた。
たぶんまわりには、巫女が神様に捧げる神酒を注いでいるように見えているはず……。たぶん……。
月読様が、すっと音もなく火の神様と咲耶姫様の前に出る。
「では、私がお前たちの言葉を聞こうか」
本殿を背にした月読様は、この名月神社の御祭神。眩いばかりの光が照らし、辺り一帯に綺麗な粒子を降らす。見えるはずのない煌めきだけれど、参拝者からは「綺麗な神社ね」と何かしら影響があるようだ。
「私どもは、今日を佳き日と選び、名月神社の大前で結婚式を挙げました。真心をもって信じ合える伴侶に出会えましたことを心から喜び、信頼と愛情を持って良い家庭を築いてゆきたいと存じます。何卒、幾久しくお守りください」
火の神様が誓詞を読み上げる。私の知っている激しい気性の火の神様は鳴りを潜め、真摯で誠実な気持ちがひしひしと伝わってくる温かい言葉。心に響いてくる、落ち着いた低い声音。隣に立つ咲耶姫様の表情からも幸せそうな気持ちが伝わってきて、この神聖で尊い時間に立ち会えたことを嬉しく思った。
その後、本来ならば結婚する者が玉串を神様に捧げるのだが、代わりに透さんがその儀式を担う。
神様の結婚式が、滞りなく進んでいく。




