星降る夜に神様と、まさかの女子会をしました_07
あまりにも凝視しすぎたのか、その美人さんは慌てて袖で顔を隠すような仕草をした。
それに伴って私も我に返る。
「あ、えっと、すみません。勝手にお邪魔して。あの、えっと、雨と雷が止むまで雨宿りさせてもらえませんか?」
きっと神社の管理人さんだと思い、申し訳なくもお願いすると、その美人さんはとても驚いた顔をして私を見た。
「お前、私が見えるのだな」
「え? はい?」
見えるもなにも、先に声をかけてくれたのはそっちじゃないのかと不思議に思う。
と同時に、この美人さんはもしかして見えてはいけない何かなのかと、思わず身構えた。
「こちらへ来るがよい」
美人さんは手招きをしながら奥の襖を開けた。襖の向こうからは明るい光が漏れている。
これは、行ってはいけないやつ、とかじゃないよね?
美人さんは何者?
幽霊、とか?
食べられたりしないよね?
襖の向こうは別世界とか?
まさか?
一瞬のうちに悪い考えと果てしない妄想が浮かび、私の足は動かない。美人さんと襖を交互に見てしまう。
「何をしているのだ。寒いだろう? 中へお入り。何もとって食おうなんて思ってはおらぬ」
私の心を見透かしたかのように妖艶に微笑む彼女の瞳に、まるで吸い込まれるように私は歩を進めた。
「……こたつ?」
部屋に入って私はポカンとする。
部屋の中央には小さめの四角いこたつが置かれていた。机の上の丸い籠にはみかんがいくつか置いてある。よくある昔ながらのこたつとみかん。美人さんと似つかわしくないこの光景に、私の頭の中にさらに疑問符が飛んだ。
「ずいぶん濡れたのだな。着替えを用意しよう」
そう言って持ってきてくれたのは、浴衣のようなものだった。
裾が長く、帯や紐も一緒に渡される。
美人さんが着ているものに似ているものだと思うが、浴衣さえ満足に着れない私は戸惑いどうしていいかわからない。
「あの、すみません、着方がわかりません」
正直に言うと彼女は目を丸くし、そして袖で口元を上品に隠してクスクスと笑った。
浴衣くらい着られて当たり前なのだろうか。まあその辺の女子力がないことは自分でも自覚済みだが、やはり笑われると急に恥ずかしい気持ちになってしまい、顔が赤くなる。
「ああ、すまない。人と話すのが久しぶりなので、自分の中の時代のズレが可笑しくてな」
そしてまたクスクスと笑った。
一体何がそんなに可笑しいのか、時代のズレとか意味不明なことを言う。さっぱりわからない私の手から、帯と紐が抜き取られた。
「着せてやろう」
そう言って、優しい声色と手付きで手伝ってくれ、あっという間に着替えさせられる。初めて着る服だが肌触りのよい生地が心地良い。自分の姿がどうなっているのか、袖や後ろを確認してみると、まるで異国の地にでも来たかのような感覚に陥った。
「座ったらどうだ? 温かいぞ」
「えーっと、では、失礼します」
促され遠慮気味にそろりとこたつへ入ると、その温かさにまたほうっとため息が出た。体が温まるにつれて、先程までの緊張と恐怖がしゅるしゅると解けていくようだ。
こたつの魔力はすごい。一度入ったらもうここから出る気力をなくすのだから。
「あったか~い」
私の呟きに、美人さんはまた口元を押さえてクスクスと笑った。
笑い方さえ綺麗だなんて罪だ。